ポイント
2019年1-3月期のアジア株式(除く日本)は米中通商協議の進展期待や、中国の景気持ち直しの兆し、米国の金融政策の転換などを背景に上昇しました。足元で米中貿易問題が再燃するなどのマイナス要因もありますが、引き続き魅力的なバリュエーション水準や政策期待などが株価の下支えになると考えられます。引き続き、アジア株式(除く日本)市場には魅力的な投資機会が存在すると考えています。
2018年から一転、急速な回復をみせた 2019年1-3月期のアジア株式(除く日本)
2019年1-3月期のアジア株式(除く日本)市場は上昇しました。こうした良好な市場環境下、ピクテのアジア株式(除く日本)運用戦略のパフォーマンスも2019年1-3月期には2018年年間のマイナスから一転してプラス転換し、上昇率は代表的な指数であるMSCIアジア(除く日本)株価指数(配当込み、円換算ベース)を上回りました(図表1参照)。
※コンポジットとは、類似の投資戦略ないし投資方針に基づいて運用される1つ以上のポートフォリオの運用実績を、一定の基準に従って評価したものであり、投資戦略ごとの運用実績を表すために用いられます。
当該期間における同地域の株式市場が良好な推移となった背景には、米中通商協議の進展期待、中国における景気の持ち直しの兆しや流動性状況の改善、さらにより的を絞った景気刺激策(直近では自動車関連など)の可能性などのほか、リスク・プレミアムが低下したことなどがあるとみられます。加えて、米国が利上げ休止など金融政策を転換したことなども後押し要因となりました。
2019年1-3月期においてアジア株式(除く日本)市場の株価は上昇しましたが、依然としてバリュエーション(投資価値評価)水準の過熱感はないとみており、魅力的な投資機会が存在する市場であると考えています。
“悪魔は細部に宿る” ~2019年1-3月期における業績下方修正をどうみるか?~
一見したところ、アジア企業(除く日本)の四半期業績見通しは下方修正の傾向が強まりました。こうした傾向は通常であれば、株価にとってマイナス要因となるはずです。しかし、今後の企業業績動向、そして株式市場動向を見極めるうえで、なぜ下方修正されたのかについて、もう少し詳しく要因を分析していく必要があると考えます。
足元で業績の下方修正傾向が特に強まっているのは、特に、韓国や台湾の大型テクノロジー銘柄です。季節的に低調な時期で、在庫調整や顧客(米アップルなど)企業サイドの需要軟化等が継続しています。
個別銘柄の例では、DRAM価格の低下などでマイナスの影響を受けるサムスン電子(韓国)やSKハイニックス(韓国)などが挙げられます。
また、さらに広範なハイテク関連需要の減速などの影響をうける台湾セミコンダクター(台湾)などもしかりです。
米アップル向けに部材を納入するハイテク関連企業も、同様に下方修正傾向がみられます。
しかし、なぜ、株式市場ではこうした下方修正の流れにそれほど大きく反応しなかったのでしょうか?
まずは、市場に対してより大きなインパクトをもつ中国における企業業績見通しの上方修正があると考えられます。そもそも、事前予想が低かった中で、中国経済は政府による景気刺激策などを背景に景気回復の兆しがみられていることが主な上方修正要因の背景です。
さらに、市場では2018年後半より、テクノロジー関連銘柄の見通しについて慎重な見方が増えており、すでにこうした悪材料はある程度株価に織込まれていた可能性もあると考えられます(図表2のSKハイニックスの例参照)。そして、ハイパースケールなサーバー需要や新たなスペックを有する携帯電話端末の登場、5G(第5世代移動通信システム)の立ち上がりなどがけん引し、2019年後半以降、テクノロジー関連企業の業績は再び回復に向かうとも見込まれています。
テクノロジー関連銘柄への投資は、非常に厄介なものです。ファンダメンタルズ(基礎的条件)を理解することの重要性が強調されますが、株価に何が織込まれていて、何が織込まれていないかを見極めることも重要なのです。
専門金融会社に 投資魅力
世界的に、銀行業務を行う企業は大手企業がより巨大になり、人々が望むあらゆる金融サービスを提供するワンストップ・サービス化が進んでいます。
アジアも例外ではなく、各国では一握りの金融企業が市場を支配しているといっても過言ではありません。しかし、このような市場での優位な地位を手に入れるために企業は多くの困難(成長のハードルは高くなっていること、サービスのコモディティ化、注力分野や専門分野の欠如など)に直面しています。
こうした状況下、ピクテでは動きの早い専門金融会社に注目してきました。ニッチな企業は大手金融機関が関心を示さない分野で事業を展開していることがよくあります。そして、高いリターンを生み出しているものの、その成長力は株価に十分織込まれていないことがよくあります。
例えば、クルンタイ・カード(タイ)は、大手金融企業が不安定な事業として敬遠しがちなクレジット・カード業務と個人向け融資などに特化した業務を行っています。同社は、タイにおける個人消費の拡大などの恩恵を大いに受け、伝統的な銀行業務を展開する大手銀行に比べて高水準の株主資本利益率(ROE)を実現していますが、その一方で、株式のバリュエーション(投資価値評価)水準には割安感があると考えています。過去5年間で同社の利益は年率30%超のペースで成長してきました。
また、チャリース・ホールディング(台湾)は台湾や中国本土、東南アジアなどの中小企業を顧客にリース業務を展開する企業です。同社は40年以上の歴史がありますが、いまなお中国、台湾、タイなどリースの利用がまだ進んでいない市場で、成長を続けています(図表3参照)。
この地域における伝統的な金融企業は、リース市場への参入に消極的ですが、チャリース・ホールディングはリース業務の専門人材の育成や案件に対する適正評価プロセスの開発などに力を注いできました。
バンク・ラヤット・インドネシア(インドネシア)も魅力的な事業を展開しています。インドネシアの人口のおよそ半分が銀行口座を持っていないなど、銀行業務が普及していません。こうした環境において、同行は特にこれまで銀行口座を持っていなかった人々を対象とした小口融資業務に注力しています。
同行の強みは、これまでの実績に加えて、広範囲にわたる「マイクロ・ユニット」のネットワークにあります。借り手を小さな管轄区に振り分けて「マイクロ・ユニット」が立ち上げられますが、これによって、借り手同士での交流が深まるとともに、継続的に借り手の状況をモニターすることができるほか、頻繁に資金回収を行うことが可能となっています。
こうしたビジネスはコストは高いため、簡単なものではありません。インドネシアでも多くの企業が小口融資事業に挑戦したものの、うまくいかずに撤退していきました。そうした中で、同行は成長を続けています。
今後の見通し:引き続き投資魅力がある アジア株式(除く日本)
2019年1-3月期のアジア株式(除く日本)市場は、株価の上昇によりバリュエーション(投資価値評価)水準も上昇しましたが、成長性等を考慮すると過熱感はないとみられるほか、依然として相対的な魅力があると考えられます(図表4、5参照)。
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今後の見通しとしては、中国が景気刺激策などの効果もあり、景気回復の兆しが見えています。ただし、こうした景気回復に加えて中国本土市場の株価の大幅上昇などを受けて、逆に政府や規制当局が成長ぺースを緩める政策を打ち出す可能性もあるため、今後の政策動向や、経済指標、市場動向を注視していく必要はあると考えます。
また、インドでは総選挙の開票を控えています。現時点でモディ首相率いる現与党勢力が議席数を減らす可能性はありますが勝利するとみています。選挙対策として打ち出された政策によって、一部の消費関連分野にはプラスの効果がでているようですが、投資家としては、財政規律の問題については、しっかりと注視していく必要があると考えます。
引き続き、アジア株式(除く日本)市場に対してはポジティブな見方ができると考えており、投資魅力があると考えています。
(ご参考)米中貿易戦争激化による 中国経済・株式へのインパクト
2019年4月後半に米トランプ大統領が、中国との通商交渉の進展状況における不満を示したことなどをきっかけに世界の株式市場は急落し、その後5月10日に米政府は、2018年9月に10%の制裁関税を課した2,000億ドル分の中国製品に対して関税率を25%へ引き上げると正式発表しました。
それに対して、5月13日には中国が報復措置(2018年9月に中国が追加関税(5~10%)を課したおよそ600億ドル分の米国製品に対して、税率5~25%に6月1日から引き上げ)を発表しました。
さらに、それに続いて米国は現在は課税対象外となっている残りの中国製品3,000億ドル分に対しても最大25%の関税を課す制裁関税の計画を正式に発表しました。
こうした米中の関税合戦を受けて、米中の貿易戦争の深刻化懸念が再び高まり、足元の世界の株式市場は値動きの大きい局面を迎えています。
ピクテでは、追加関税の中国経済へのマイナス・インパクトは、コントロール可能なレベルであると考えています。
今回、米国が発動した2,000億ドル分の中国製品に対する25%への関税引き上げによる中国のGDP成長率に対するインパクトは-0.5%程度と推定しています。
こうした経済に対するマイナスに対応するため、中国政府はこれまでにも様々な景気刺激策を打ち出してきています(図表6参照)。
今後さらに景気に対するマイナス懸念が高まった場合には、これまで打ち出してきた政策(預金準備率の引き下げや減税等)の一段の強化に加えて、公開市場操作や中期貸出制度(MFL)を通じた流動性供給の拡大やインフラ投資拡大などが打たれる可能性があると考えられます。
中国株式市場へのインパクトについては、バリュエーション水準に過熱感がみられる場合は、懸念すべきと考えますが、足元の予想PERは11倍強(12ヵ月先予想利益ベース)と過去平均並の水準に留まっています(図表7参照)。
一方で、中国企業の利益見通しは改善傾向がみられ(図表8参照)、こうしたファンダメンタルズの改善は株価の下支えとなるものと考えます。
短期的には、米中通商協議の動向を巡っての株式市場の値動きが大きくなる可能性は残されており、この動向には今後も注視していく必要があると考えます。
ただし、魅力的なバリュエーション水準は株価の下支えとなることが期待できるほか、長期的には中国市場は、投資から消費へといった経済構造の大きな変化の中で、引き続き成長が期待できると考えています。
※データは過去の実績であり、将来の運用成果等を示唆あるいは保証するものではありません。
※将来の市場環境の変動等により、当資料記載の内容が変更される場合があります。
※当資料で言及した個別銘柄は、特定の銘柄の勧誘や売買の推奨等を目的としたものではなく、その価格動向を示唆するものでもありません。
当レポートの閲覧に当たっては【ご注意】をご参照ください(見当たらない場合は関連記事『急回復をみせた2019年1-3月期と今後の見通し』を参照)。
(2019年5月17日)
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