バーゼル3とCoCo債、誰を守るための優先劣後構造か
2007年から2009年にかけて世界は大規模な金融危機を経験し、金融機関に対する新たな自己資本規制として「バーゼル3」が策定されました。このバーゼル3に対応する新たな資本充実策として偶発的転換社債(以下、通称CoCo債)が登場しました。CoCo債は金融機関の資本の積み増しと資金調達の需要を満たすバーゼル3の対応商品として設計され、従来型の商品にはない固有のリスクを反映することで提供される相対的に高い利回りで注目されています。利回りが高い反面、万が一の時に投資家が負担する損失の内容等、本来有するリスクをしっかりと把握したうえで投資を行うことが重要です。
金融危機後の国際的な金融規制改革
金融市場のグローバル化が進んだ現在、ひとたび世界的な金融危機が起こり、巨大金融機関が破綻すれば、その影響は世界に及びます。世界的な金融危機、リーマンショックはその代表的な事例といえます。リーマンショック以降、G20を中心とした各国首脳は金融機関の健全性をさらに高める観点から、新たな枠組みの下、国際交渉を行ってきました(図表1)。金融機関の国際的な監督規制については、主要国の中央銀行が加盟するバーゼル銀行監督委員会(BCBS)が、国際的な金融活動を行う金融機関を対象として、一定以上の自己資本比率を保つことなどを求める指針を定めています。
巨大な金融機関が破綻すれば、他の金融機関への負の連鎖が起こり、深刻な金融危機に進展しかねません。リーマンショック時の世界的な金融危機では、巨大金融機関のシティグループやAIGなどが相次いで経営危機に陥り、政府が最終的に支援することになりました。この教訓を踏まえて、主要国の金融監督当局は、「金融機関が巨大すぎ、国際的に影響力が大きすぎて潰せない」という事態を防ぐために、国際的な巨大金融機関については、普通の金融機関よりも厳しい規制を課すことで合意しました。
具体的な対象としては、2011年11月に各国の金融監督当局で構成する金融安定理事会(FSB)が「システム上重要な金融機関(SIFIs)に対処するための政策手段」と題する文書を公表し、その中でも特に重要な金融機関(G-SIFIs)として特定した29社のリストを示しました。
こうしたバーゼル規制は金融機関の破綻を未然に防ぎ、金融機関が金融市場の変化に対応できるよう保有資産のリスクを適切に保つことを目指しています。バーゼル3は、1988年に公表された、銀行の自己資本比率に関する規制である「バーゼル合意(BIS規制)」、2004年に公表された、より金融機関のリスクを反映させた「バーゼル2」に次ぐ、新たな枠組み(規制強化策)です。
バーゼル3における自己資本の質・量の向上
バーゼル3は、主要国の金融監督当局で構成するバーゼル銀行監督委員会が2010年9月に公表した、国際的に業務を展開している金融機関の健全性を維持するための新たな自己資本規制のことをいいます。内容としては、国際的に業務を展開している金融機関の自己資本の質と量の見直しが主な柱です。金融機関の健全性確保の観点から、コアな資本として、普通株式と内部留保などからなる「中核的自己資本(Tier1)」を、投資や融資などの損失を被る恐れがある「リスク資産」に対して一定割合以上持つように義務づけるもので、バーゼル3ではこれまでの規制をさらに強化しました(図表2および図表3)。
バーゼル3では、金融機関の健全性を更に高める観点から、自己資本の質の向上および量の強化を企図しています。最低比率は、普通株式等Tier1比率4.5%、その他Tier1比率6.0%、自己資本比率8.0%に設定されます。そして、バーゼル3の完全適用までに2013年から2018年に至る段階的なスケジュールが設定されています。
CoCo債とは
さらに監督当局は金融機関の資本構成を設計し直し、金融機関が政府の救済資金に頼ることなく、より速やかに自己資本を増強できる仕組みを設けました。
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CoCo債は、優先証券(または出資証券)の一種として新しく生み出された銀行の自己資本であり、損失を吸収する特徴を明示的に備えています。CoCo債は、バーゼル銀行監督委員会が金融危機を受けて作成したバーゼル3のガイドラインで定める要件を満たすために作り出されました。それまでにあった優先(出資)証券と同じように、CoCo債も通常、弁済順位において株式の上位、普通社債の下位に位置づけられます(図表4)。
そのため、銀行の普通社債保有者や預金者等より先に損失を吸収する設計となっています。例えば、あらかじめ定められた自己資本基準に抵触する場合(トリガー)、または規制当局が裁量により銀行を「破綻」とみなした場合には、償却するか株式に転換することで損失を吸収します。バーゼル3対応型証券であるCoCo債は、従来型の証券にはない損失負担条項やトリガー条項等の固有のリスクが反映されることで、相対的に高い利回りとなっています(図表5)。
CoCo債は銀行の自己資本の積み増しと資金調達への需要を満たす商品として設計されおり、格付け会社からも株式と同等の自己資本としてカウントされ、株式の発行と比べ、圧倒的に発行コストが低いことから、発行体からの人気が高まっています。
CoCo債の損失負担について
CoCo債は発行体の自己資本比率が、発行時に予め定められた水準(トリガー)に抵触した場合に、損失負担が適用されます。その方法には、元本が減額される場合と株式に転換される場合があり、どちらに該当するかは、銘柄ごとに予め定められています。
また、一般的な転換社債と違い、新たに登場したCoCo債は、株式に転換できる権利を持つのは投資家ではなく発行者であり、発行体の自己資本比率が一定以下となったときなどには、強制的に株式転換されます。そのような事態が生じたときは銀行の株価が急落していることが想定されるため、投資家が受け取る株式の価値は大幅に減価していることが想定されます(図表6)。
誰を守るための優先劣後構造か
バーゼル3の自己資本規制では、資本の質の向上が図られ、銀行が事業を継続する中で損失を吸収できるゴーイングコンサーン・キャピタル(継続的企業としての資本)が重視されます。
欧州の監督当局が新しい種類の銀行債を認めた目的は銀行救済のコスト負担リスクを納税者から投資家に移転するためでした。CoCo債に内包されているのは、投資家にとって不利な義務であり、その取引相手の発行体に有利な権利なのです。
すなわち、このように金融機関の自己資本規制対策として発行されるCoCo債は、発行体の金融機関がそれを資本に組み入れる厳しい要件を満たすために、投資家が資本の毀損とともに株式価値の急落する大きなリスクを負う仕組みをもつのです。
CoCo債は他の証券よりも相対的に利回りが高い魅力がありますが、投資を行ううえでは証券固有のリスクをしっかりと把握することが重要です。
データは過去の実績であり、将来の運用成果等を示唆あるいは保証するものではありません。
当レポートの閲覧に当たっては【ご注意】をご参照ください(見当たらない場合は関連記事『実践的基礎知識クレジット編(5)<バーゼル3とCoCo債、誰を守るための優先劣後構造か>』を参照)。
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