出張報告:アルゼンチンとブラジルの現状

ピクテ投信投資顧問株式会社が、日々のマーケット情報を分析・解説します。※本連載は、ピクテ投信投資顧問株式会社が提供するマーケット情報を転載したものです。

 

ポイント

アルゼンチンとブラジルで、投資家にとって興味深い改革が進行しています。最新の出張報告をお届けします。

 

01 イグアスの滝を挟む2つの国

ブラジルとアルゼンチンを隔てるイグアスの滝は、世界で最も雄大な自然の驚異の一つといえるでしょう。ところが、1秒当たり40万ガロンの水が岩に砕けて発する轟音も、滝を挟んだ両国で進行中の経済の発展に比べれば、霞んでしまいます。先頃、ピクテ新興国債券チームの2名のメンバーが南米に出張し、現地調査を行いました。

 

 

2人は、両国の中央銀行や政府職員とのミーティングを持っただけでなく、新興国の恵まれない子供達を支援する慈善団体、「EMパワー」の協力を得て、政府が導入した様々なプログラムに効果の兆しが現れているかどうかを確認しようと、「ファヴェーラ」または「バリオ」と呼ばれるスラム街に足を踏み入れました。二人の行動力ある実地調査は、新興国債券チームの運用の質を高め、より責任ある運用を可能にすると考えます。

 

2人のレポートから確認されたことは、ポートフォリオの組入れに反映されています。足元では、アルゼンチン・ペソとドル建てアルゼンチン国債をオーバーウェイト、ブラジル・レアルを小幅のオーバーウェイトとしていますが、今後は、3つのポジションを積み増すと同時に、現地通貨(レアル)建てブラジル国債をオーバーウェイトに引き上げる機会が到来することを予測して、市場動向を注視していきます。

02 アルゼンチン出張報告

半年前の前回の出張時のアルゼンチンは、厳戒態勢下にありました。経済の急速な縮小とインフレの高騰を背景に国債の借換えリスクが増す中、国際通貨基金(IMF)が約束した500億ドルの融資を迅速に実行するかどうかを疑問視する向きもありました。

 

その後、金融市場の動揺はあったものの、アルゼンチンは最悪期を脱したように思われます。事実、数週間前の今回の出張での経験は、先行きを期待させるものでした。アルゼンチン経済が、昨年、大きな打撃を受けたことは確かですが、今年1-3月期のGDP(国内総生産)成長率が前年同期比+0.5%とプラスに転じたことからもうかがえる通り、国内経済には復活の兆しが現れています。また、IMFが融資額を70億ドル引き上げて総額570億ドルとし、支払いを開始し始めたことから、借換えリスクは薄れています。

 

アルゼンチンの動向は、2019年の新興国投資を左右することになるかもしれません。ピクテでは、アルゼンチン国債が投資の好機を提供していると見ていますが、目先の借換えリスクが薄れたことを勘案すると、ドル建て国債の利回り水準は非常に魅力的です。一方、現地通貨(ペソ)建て国債は、確かに価格変動の大きい債券ではあるものの、強い意志を持った冷静な投資家には高いリターンをもたらす可能性があると考えます。

 

もっとも、明るい兆しを一部相殺するのがインフレの高騰と政局の不確実性であることには留意が必要です。

 

●偽りの外観

 

ブエノスアイレス屈指の瀟洒な地域で時間を過ごしていると、アルゼンチン経済の苦境を見逃しかねません。ブエノスアイレス空港に到着する国際線は満席で、フォーシーズンズ・ホテルも満室です。また、高級レストランは曜日を問わず予約を取るのが困難です。アルゼンチンの富裕層が、貯蓄をドルに換えることで経済危機を乗り切ってきたことは明らかです。

 

一方、富裕層以外の国民を取り巻く状況は大きく異なります。昨年2018年のGDP成長率は、好調なスタートを切ったものの、4-6月期は-4%、7-9月期は-3.5%と2四半期連続のマイナス成長に陥り、物価の高騰にも見舞われました。

 

もっとも、IMFから過去最大の融資を取り付けたことで、足元の状況は改善しつつあるように思われます。賃金の伸びは物価の上昇を後追いし、消費者心理も安定し始めています。また、大豆の豊作が経済成長を一段と押し上げることになれば、予想を上回る経済成長が実現する余地も残されています。IMFの現地職員は、インフレの状況には失望を禁じ得ないとしつつも、経済が急速に安定したことは想定外の朗報だったと話していました。

 

[図表1]一般財政収支と経常収支の現状と予想 緑線:政府の純貸借、青線:経常収支(それぞれ対GDP比〈%〉) 期間:2000年~2024年(2019年以降は予想) 出所:国際通貨基金(IMF)世界経済見通し(2019年4月)を使用してピクテ・アセット・マネジメント作成
[図表1]一般財政収支と経常収支の現状と予想
緑線:政府の純貸借、青線:経常収支(それぞれ対GDP比〈%〉)
期間:2000年~2024年(2019年以降は予想)
出所:国際通貨基金(IMF)世界経済見通し(2019年4月)を使用してピクテ・アセット・マネジメント作成

 

インフレ率は上昇の一途で、消費者物価指数(CPI)は前年同月比+50%前後と大きく上昇していますが、スターバックスで飲んだコーヒーは、昨年10月との比較で、既に50%以上、値上がりしています。IMFは今年のインフレ見通しを前回予測の20%から30%に引き上げていますが、幸いなことに、インフレ高騰の原因は政府の失策ではなく、構造的な問題にあると考えているようです。アルゼンチンとIMFの関係は極めて堅固であるように思われますが、融資の返済に長い時間を要することを考えると、しかるべき関係が築かれたと考えます。

 

平均的な国民は、IMFの融資を受けたことが2001年のデフォルトと経済危機のきっかけになったと見て、未だにIMFを警戒しています。一方、IMFの現地職員は、IMFが融資の手法を改善し、社会の一体性、ジェンダー(男女の社会的性差)の平等、社会の最弱者の救済等の行動指針の実現のために最善を尽くしてきたと主張しており、ラガルドIMF専務理事も「現在のIMFは2世代前(お祖母さんの時代)のIMFとは違う」と述べています。

 

●10月に革命が起こるか?

 

市場が懸念するのは、10月の大統領選で何が起こるかということです。今のところは、現職で市場重視派のマウリシオ・マクリ大統領とペロン党(正義党)員で反市場派のクリスティナ・キルチネル前大統領を含む複数の候補者が出馬を表明しています。足元の金融市場の動揺は、キルチネル前大統領が有権者の支持を増やしつつあることを示唆していますが、マクリ大統領またはマクリ連立政権の別の候補者が60~70%の当選確率で優位にあると思われます。

 

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キルチネル前大統領については有権者の見方が分かれますが、地元選挙区の強力な支持を含むペロン党の集票組織を有することを勘案すると、当選の可能性を切り捨ててしてしまうのは間違いのように思われます。前政権の閣僚の中からペロン党の別の候補者が立候補する可能性もあり、キルチネル前大統領と比べると、恐らく、市場への弊害が少ないと思われます。

 

●ESG(環境、社会、ガバナンス投資)

 

ブエノスアイレスの豪華な応接室で政治家や中央銀行の政策立案者と話しをするのと同じくらい役立つのは、普通の国民がどのように生活しているかを見ることだと考えます。ピクテの新興国債券運用チームは、このような目的を果たすため、恵まれない子供達のために活動する地元の慈善団体や組織を支援する「EMパワー」との関係を構築してきました。EMパワーの担当者は、マクリ政権が社会保障費を増やしてきていることは認めたものの、効果については疑問視しているようでした。また、アルゼンチンの教育制度が、過去10年を通じて徐々に悪化し、将来、経済の構造的な足枷となることが判明する可能性があることを警告していたことは気掛かりです。

 

●市場見通し

 

結論をいうと、利回りが11~12%のドル建てアルゼンチン国債の先行きは、ドル建て新興国債券市場全体の上昇相場が続くならば良好なはずですが、足元の利回り水準が、新興国債券市場の中で際立って高いわけではありません。借り換えリスクは、IMFの融資のお陰で大きく低下していますが、ドル建てアルゼンチン国債をオーバーウェイトとしているのは、ドル建て新興国債券市場全体に強気の見方を取っているからなのです。

 

一方、現地通貨(ペソ)建てアルゼンチン国債は、遥かに魅力的です。利回りが50%近い国債を探しても思い浮かぶのはアルゼンチン国債だけですが、高利回りには理由があるのです。アルゼンチン・ペソは、インフレの進行に伴って、年率30%前後、減価することが珍しくないため、投資家の実質利回りは20%前後に目減りすることになります。

 

もっとも、ペソの変動には不確実性が伴い、これまでにも、はっきりとした理由がないまま、数ヵ月おきに10%程度下落してきました。見かけの利回りがいかに高くとも、投資のタイミングを少しでも間違うと大きな損失を被るはめに陥るのがペソ相場なのです。

03 ブラジル出張報告

リオデジャネイロ北部のスラム街であるコンプレクソ・デ・アレマオは、実際のところ、戦場です。リオデジャネイロの最も貧しい地域の一つである「ファヴェーラ」(ブラジルでスラム街を指す言葉)は、国内の殺人発生率が、既に、世界保健機関(WHO)の定めた「闘争の水準の暴力」に達したブラジルの中でも、暴力を伴う犯罪が異常な水準に達しています。

 

とはいえ、ここにも、先行きを楽観させる理由があるのです。例えば、アラン・デュアルテ氏は、「ファヴェーラ」に貧しい子供達のための安全な避難施設を建てています。子供達のエネルギーと熱気があふれる施設では、スポーツや基本的な技術の習得を通じて自己能力を開発することが可能です。今回のブラジル出張で訪ねたデュアルテ氏の施設は「EMパワー」が支援するプログラムの一環として建てられたものであり、ブラジルを底辺から変革しようと努める様子が確認できました。

 

もっとも、デュアルテ氏や同氏の同僚が最大限、努力しても、政治家には困難で厄介な仕事を引き受ける義務があります。明るい兆しがあるとはいえ、ブラジルに対する希望には慎重な対応が求められます。

 

●新大統領は早期の改革を実現できるか?

 

今年(2019年)年初に就任したジャイール・ボルソナロ大統領は、経済や社会の様々な改革を進める過程で、旧来型の政治の一掃を目指しているものの苦戦を強いられています。

 

多数の政党が乱立する下院構成や議会と政権との緊張関係が、政権の命運を左右する年金改革法案の審議を遅らせているからです。年金関連支出の1.2兆レアル(約3,020億ドル)の削減を目指す大統領の野心的な試みは、旧来型の政治を押し切る過程で5,000億レアル程度に下方修正される可能性が高く、大きな問題となりそうです。

 

ピクテの試算では、景気の浮揚と投資家の信頼の回復には、財政赤字をGDP比で2.5%削減する必要がありますが、半分は年金改革を通じて、また、残りの半分は国有資産の民営化や法定最低賃金の(前年の全国消費者物価指数および前々年のGDP成長率に基づいた)指数化の撤廃を通じて実行されると考えます。個人的な予測では、最も楽観的な景気回復シナリオの実現には、年金関連支出を少なくとも8,000億レアル(約2,010億ドル)削減する必要があると考えます。

 

[図表2]ブラジルの政府債務 右軸:対GDP比(%)、 期間:2000年から2024年(2019年以降は予想) 出所:国際通貨基金(IMF)世界経済見通し(2019年4月)を使用してピクテ・アセット・マネジメント作成
[図表2]ブラジルの政府債務
右軸:対GDP比(%)、
期間:2000年から2024年(2019年以降は予想)
出所:国際通貨基金(IMF)世界経済見通し(2019年4月)を使用してピクテ・アセット・マネジメント作成

 

ブラジル経済の低迷が続き、大統領選挙直後の政治に対する国民の熱気が冷めて、支持率が急落するのももっともです。労働市場に大きな余剰が残る結果、消費は低迷し、実質所得の伸びは緩慢です。一方、企業部門は、米国国債利回りを基準とする資金調達コストが新興競合国の5倍に達する厳しい状況に苦戦を強いられています。国内の競争の欠如、官僚主義の蔓延、最新技術の導入の遅れ、非効果的な司法制度、低位の債権回収率等の全てが、政策金利の引き下げでは解決し得ない産業界の抱える問題の根源となっています。

 

●改革志向の大統領

 

ボルソナロ大統領が年金改革を断行できるならば、その他の公約は、大半が議会の承認を必要としないため、比較的容易に実現できると思われます。このことを念頭に置いて言うならば、関税引き下げによる自由貿易の促進、産業界の競争の活性化、国有資産の民営化ならびに労働市場改革は、いずれも経済にプラスの要因です。事実、出張中に話をした官僚は、ブラジルをより公平で開かれた、生産的な国とするための一種の構造改革実行の権限を委託されたという強い思いに突き動かされているように見えました。

 

ブラジルが長い道のりを歩んでいかなければならないことは疑いようがありません。例えば、教育です。ブラジルの児童一人当たりの教育費は同等の新興国を遥かに上回るとはいえ、恵まれない地域の学校はすし詰めで、年間の授業日数は、防犯対策が十分でないことから、多くても80日に留まります。地域の治安の改善を図る試みも大きな効果を上げているとは言えません。話をする機会のあった労働者は、銃規制の緩和等、ボルソナロ大統領が公約に掲げる強引な対策は事態を悪化させるだけだと懸念を示していました。

 

外国人投資家が、今のところ、ブラジル市場に慎重な姿勢を維持しているのは正しいと考えます。資金フロー統計からは、株式にも債券にも投資を増やしている様子が見られません。ブラジルの先行きは改善し、政局の最悪期は脱しつつあるように思われますが、年金改革審議の進展と当初の提案がどこまで骨抜きにされるかに多くがかかっていると思われます。現状では、ブラジル・レアルを小幅のオーバーウェイトとしていますが、年金改革に進展が見られれば、ポジションを積み増し、現地通貨(レアル)建てブラジル国債をオーバーウェイトに引き上げるきっかけとなるかもしれません。

 

 

※将来の市場環境の変動等により、当資料記載の内容が変更される場合があります。

 

当レポートの閲覧に当たっては【ご注意】をご参照ください(見当たらない場合は関連記事『出張報告:アルゼンチンとブラジルの現状 』を参照)。

 

 

(2019年5月15日)

 

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ピクテは1805年、スイス、ジュネーブにおいて会社創設以来、一貫して資産運用サービスに従事し、運用サービスに特化したビシネスモデルを展開してまいりました。信用格付ではフィッチ・レーティングスからAA-の格付けを取得しております(2018年5月末現在)。注:上記の格付はピクテ・グループの銀行部門の債務の信用に対するもので、運用部門や運用能力に関するものではありません

1981年、日本経済や株式市場の調査を目的に東京事務所を設立しました。その後、1987年から機関投資家を対象とした資産運用サービス業務を開始、1997年には投資信託業務に参入し、運用資産総額は1.98兆円となっています(2018年12月末現在)。外資系運用機関の大手の一角として、特色ある資産運用サービスをお届けしております。

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