日経平均株価に表れた「トランプショック」の影響
2018年のNYダウは、年初の2万4809ドル(始値)が10月3日に2万6951ドルまで上昇した。これに対し、日経平均株価は年初の2万3730円(始値)が10月2日に2万4448円(高値)を示現した。この間の上昇率はNYダウが8.6%、日経平均株価が6.0%となる。
その後、両指数とも10月末にかけ急落したが、NYダウは年初の始値を3%弱下回ったにすぎない。これに対し、日経平均株価は年初始値より9%強安い水準まで売られた。まさに、「AMERICA FIRST!」ではないか。だが、状況は変わりつつある。いよいよ、出遅れ著しい日本株の出番到来である。
その根拠はおいおいと説明するが、その前に世界経済を取り巻くリスクについて述べておこう。
トランプ大統領は、2018年6月1日に、EU(欧州連合)、カナダ、メキシコの鉄鋼とアルミニウムに関税を発動した。これに先立つ3月23日にも、輸入制限を発動している。
11月の中間選挙に向けた強硬策と見られたが、この動きにマーケットは疑心暗鬼となり、3月26日の日経平均株価は2万347円(安値)まで売り込まれた。これは、2018年の最安値であり、「トランプ・ショック」の大きさが分かる。
さらに、トランプ政権は6月15日、中国製品に25%の追加関税を課すと発表する。トランプ大統領は、記者会見で先端10分野において世界の覇権を狙う「中国製造2025」計画に言及し、「中国はアンフェアな方法でアメリアの知財、技術を入手している」と厳しく批判した。これを受け、NYダウは同月28日に2万3997ドル(安値)まで下落している。
その後、7月6日に米中が自動車などを対象とした制裁関税を発動、日本市場では企業業績が悪化するのではないか、との懸念が高まった。実際、7月18日に2万2949円(高値)まで戻した日経平均株価は、8月13日に2万1851円(安値)まで急落した。この時期、安倍政権の支持率低下も影響したと思う。
特に、夏場以降は小型株がさえない。小型株は景気に敏感だ。マーケットは、世界経済の減速を織り込み始めているのだろうか。実際、2018年4~6月における世界の貿易量は横ばいとなり、最近まで2年続いた拡大成長に終止符が打たれたことが報告されている。また、中国経済の減速も明らかとなった。2018年7〜9月期の実質成長率は6.5%で、これは2期連続のマイナスである。
マーケットを振り回すトランプ大統領の「狂気戦略」
このような状況下にあっても、トランプ大統領の“攻撃”は止む気配がない。貿易戦争の激化は、世界経済に深刻な悪影響を与える。これは、どの国に対しても何のメリットも生まないだろう。
ともあれ、一般的に貿易はウィンウィンの関係を前提とするが、貿易戦争の結果はすべて“敗者”になる。
トランプ大統領の政策は、マッドマン・セオリー(狂気の戦略→これについて、筆者はこの表現はワシントンポストなど反トランプメディアの宣伝と理解)と呼ばれている。マッドマン・セオリーとは、かつてニクソン大統領が用いた戦略で、「何をするのか分からない狂人」を装い、相手の譲歩を引き出す瀬戸際的な戦略である。
トランプ大統領が唐突に打ち出す政策は、思いつくまま、行き当たりばったりだ。「トランプ大統領の政策に、論理的な整合性はまったくない」と断じる識者もいる。
中国だけでなくEU、カナダ、日本などの同盟国に対しても輸入制限を課しており、EU、カナダは報復関税を発動すると表明している。アメリカに対する経常黒字国が標的である。
日本に対しては貿易赤字削減を取り上げ、圧力をかけ始めた。トランプ大統領は、自動車関税に目をつけ、輸入車に25%もの関税を課すと“恫喝”している。
もちろん、これはWTO(世界貿易機構)のルールを無視するものだが、トランプ大統領はお構いなしだ。もっとも、日本のアメリカ車の輸入が年間1万台に満たないのは事実(輸出は174万台)だが・・・。
2018年9月7日、日経平均株価は一時300円を超す下げとなり、6日続落となった。アメリカの対日赤字に対し、トランプ大統領が強硬発言をしたことにマーケットが反応したためだ。しかし、これは過剰反応だろう。
トランプ大統領は、そのうちいつの日か、かならず「円安はけしからん」と言い出すに違いない。これは想定内のことだ。何しろ、トランプ大統領の狙いは、第2のプラザ合意にある。
とはいうものの、マッドマン・セオリーだ。その日その時々の思いつきと感情が、トランプ大統領の言動の基本である。この点には細心の注意が必要だろう。マーケットは、これに振り回される。
ハイテク覇権を目指す「中国製造2025」戦略とは?
トランプ大統領は、いったいどこまで暴走するのだろうか。また、彼のマッドマン・セオリーは、何を目的としているのだろうか(実は、筆者は知っている)。現時点では不明な点が多いが、結果的に第2次世界大戦後の国際秩序(外交・通商・防衛)が破壊されるのは間違いないだろう。
株式市場は、引き続いて、トランプ大統領のマッドマン・セオリーに振り回されるのは間違いない。
トランプ大統領の真の狙いは、ハイテク覇権を目指す「中国製造2025」つぶし、といわれている。そして、米中貿易摩擦は、世界的な通貨戦争に発展すると危惧する声がある。筆者の見方は異なるが、株価は当然影響を受ける。投資家としては、この“異常事態”に備えておく必要があろう。
[図表]「中国製造2025」戦略における10大重点分野
アメリカの大統領には外交、通商、防衛分野において、絶大な権限が付与されている。多くの場合、議会の承認を必要としない。もっとも、大統領令の乱用には、批判が集まっている。
マーケットの関心事は、「誰がトランプ大統領の暴走を止めるのか」という点に移っている。それは結局、アメリカ国民(議会)だろう。すでに、与党の共和党は動き始めている。通商法、通商拡大法の乱用に規制をかけようというのだ。議会に法案が提出されている。ただ、すんなり決まるかどうか、疑わしい。規制が決まるにしても、相当時間がかかるだろう。
杉村 富生
経済評論家
個人投資家応援団長