譲渡する物件に応じた譲渡担保契約書の取扱い
事例2 不動産譲渡担保契約書
譲渡担保契約書が課税文書に該当する事例
A株式会社は、A株式会社がB株式会社に対して有する債権を担保するため、次のような文書を作成しています。
<文書の内容>
不動産譲渡担保契約書
債権者A株式会社(以下「甲」という。)と債務者B株式会社(以下「乙」という。)とは、甲が乙に対し有する債権を担保するため、末尾記載の不動産(以下「本件不動産」という。)について、次のとおり譲渡担保契約を締結する。
第1条 乙は、甲に対し、本契約日現在次の債務を負担していることを確認する。
甲乙間の平成29年10月20日付消費貸借契約に基づく債務
元金 金 5千万円
利息 年 ○パーセント(遅延損害金 年○パーセント)
弁済期 平成31年4月30日
第2条 乙は、甲に対し、本件債務の担保とするため本件不動産を譲渡し、甲はその所有権を譲り受けた。
第3条 乙は、甲に対し、本契約締結と同時に本件不動産について本日付譲渡担保を原因とする所有権移転登記手続をする。
2 前項の登記に要する費用は乙の負担とする。
第4条 乙は、甲に対し、本契約締結と同時に本件不動産を占有改定の方法により引き渡し、乙は以後甲のために本件不動産を代理占有し、善良なる管理者の注意をもって本件不動産を占有する。
(中略)
〔目的物件〕所在地 ●●市△△町3丁目12番地 地積200㎡
<A社の対応>
譲渡担保契約であり、不動産の譲渡とはならないと判断し、印紙の貼付はしていない。
<税務調査官の指摘事項>
譲渡担保物件が不動産であるため、不動産の譲渡に関する契約書(第1号の1文書)に該当し、契約金額(=記載金額)は元本金額5,000万円となるので、印紙税1万円(軽減税率適用)の納付が必要である。
解説
1 譲渡する物件に応じた譲渡担保契約に係る取扱い
債権者に対する債務を担保するため、債務者が特定の物件を債権者に無償で譲渡しておき、債務の不履行があった場合には当該物件を処分等して債務の弁済に充てることとするとともに、履行期限が来るまで債務者(譲渡人)に当該物件を使用させることなどを内容とした契約書は、譲渡する物件に応じて次のとおりとなります。
① 不動産や無体財産権(著作権など)の場合は、不動産又は無体財産権の譲渡に関する契約書(第1号の1文書)に該当します。
② 債権の場合は、債権の譲渡に関する契約書(第15号文書)に該当します。
③ ①、②以外の物件の場合は、不課税文書となります。
なお、①、②の場合における文書の記載金額は、弁済により消滅することとなる債務の金額となります。
したがって、事例の文書の場合は、不動産の譲渡に関する契約書(第1号の1文書)に該当し、消費貸借契約における元本相当額5,000万円が記載金額となり、この金額に対して階級定額税率が適用されます。
なお、不動産の譲渡に関する契約書には、税率の軽減措置の特例(措法91条)が適用されるので、1万円の印紙貼付が必要となります。
2 再売買予約契約や買戻約款付売買契約の取扱い
譲渡担保契約に似た契約として、(1)再売買予約契約、(2)買戻約款付売買契約がありますが、その取扱いは次のとおりです。
(1)再売買予約契約書
「再売買予約契約書」とは、売主がいったん自己の所有物を他人に売り渡して代金を受け取るが、その売り渡した目的物を、将来再び買主から売主に対して売り戻す旨の予約を内容とする文書のことです。
① 再売買の目的物が不動産である場合は、不動産の譲渡に関する契約書(第1号の1文書)に該当します。
② 再売買の目的物が物品である場合は、不課税文書となります。 再売買の予約は、買戻約款付売買の一種であり、買戻し(民法579条)と同様に、担保の作用を果たしつつ、融資を受ける方法です。
再売買予約契約書は、当初の売買契約に併せて作成される場合と、当初の売買契約と切り離して別個に作成される場合とがありますが、前者の契約書の場合には、「当初の売買」と「再売買の予約」のそれぞれの契約金額がある場合、その合計金額が記載金額となります。
(2)買戻約款付売買契約書
「買戻約款付売買契約書」とは、例えば、不動産を担保とする消費貸借契約において、当該不動産を貸主たる者に譲渡し、借主たるべき者がその代金を受領する形式をとる場合に作成する契約書ですが、不動産の譲渡に関する契約書(第1号の1文書)に該当します。
その内容は、通常「イ 当初の不動産の売買契約」、「ロ 買戻しができる旨の契約(すなわち不動産の売買契約の予約)」、「ハ 買戻しまでの間1 契約書の課税事項の把握誤りによる不納付事例の不動産の賃貸契約」からなり、記載金額については、上記(1)の再売買予約契約書と同じ扱いとなります。
3 法人税、所得税、消費税の取扱いとの関係
なお、参考までに、法人税、所得税、消費税の取扱いでは、譲渡担保として固定資産を譲渡した場合に、所定の要件に合致し、所要の経理を行っている場合には、その譲渡はなかったものとするという取扱いがあります(法基通2─1─18、所基通33─2、消基通5─2─11)が、この取扱いの適用がある場合であっても、印紙税の取扱いには影響しません。
◆顧問先へのアドバイス
法人税等の取扱いの確認後には、作成した契約書について、改めて印紙税の観点からその取扱いを確認するよう助言します。
譲渡担保契約に係る取扱い
① 不動産や無体財産権(著作権など)の場合
⇒ 不動産又は無体財産権の譲渡に関する契約書(第1号の1文書)に該当
② 債権の場合
⇒ 債権の譲渡に関する契約書(第15号文書)に該当
③ 上記①②以外の物件の場合
⇒ 不課税文書となる。