「賃貸借契約書」が課税文書に?覚書作成による印紙税軽減策とは?

今回は、「賃貸借契約書」と表記されていても運送に関する契約書に該当する事例についてです。※本連載では、元・国税調査官の佐藤明弘氏による著書『税務調査官の視点からつかむ 印紙税の実務と対策〜顧問先に喜ばれる一歩踏み込んだアドバイス〜』(第一法規)より一部を抜粋し、税務調査官の目線から、印紙税調査の際に注意すべきポイントや、税務調査で指摘される実務上誤りやすい取扱いについて不納付事例をもとに紹介します。

不納付のほとんどが「課税文書だと思っていなかった」

1 契約書の課税事項の把握誤りによる不納付事例

 

契約書の記載内容が印紙税法上の課税事項に当たることの認識不足の場合や、課税事項の把握が必要という認識はあるものの、把握しきれていないことから、印紙税が不納付となっている場合があります。

 

例えば、①契約書の表題が「賃貸借契約」となっていることから、土地の賃貸借以外は不課税と決め込んでいたために不納付となっていた事例や、②「〇〇委託契約書」となっている文書は、委任契約で不課税文書であると思い込んでいた事例、③その文書の中で、他の文書を引用しているものがあるが、引用文書に係る取扱いについて認識不足であったため、その文書に記載されている文言のみで課税事項になるかどうかを判断していたことから、不納付となっていた事例などが見受けられます。

 

また、印紙税の対応を初めて任された担当者が、前任者からの引き継ぎを受けたものの、印紙税の知識が少ないこともあり、自らは作成された契約書の課税事項の把握までに至らず、前任者の対応をそのまま漫然と踏襲したため、過去からの契約書全てについて、調査官から不納付の指摘を受けた例なども見受けられています。

 

 COLUMN 税務調査官の着眼点 

 ~グループ会社である子法人との契約書に印紙貼付がされていなかった事例~

 

“課税文書だと思っていなかった”は通用しない

 

よくある不納付の理由は、「課税文書だと思っていなかった」というもの。調査官の前でそのような理由は通用しません。

 

親法人の調査において、グループ会社である子法人との間で交わされた契約書が多数把握されたものの、どの契約書にも印紙の貼付がされておらず、多額の過怠税を納付することとなった事例がありました。

 

この事例の原因は、これまで同一法人の中の異なる部署間での社内連絡文書として作成していた文書が、組織再編によりこれまでの部署が子会社として独立したことから、それ以後はグループ会社間における契約書として作成されることとなったものの、担当者間においては、組織再編前の会社の内部文書と同じ感覚で取り扱われていたことにありました。

 

事例1 車両賃貸借契約書

賃貸借契約書と表記されていても運送に関する契約書に該当する事例

 

A株式会社は、B運輸株式会社に運送業務を依頼するに当たり、次のような文書を作成しています。

 

<文書の内容>

車両賃貸借契約書
 

A株式会社(以下「甲」という。)とB運輸株式会社(以下「乙」という。)とは、次のとおり車両の賃貸借契約を締結する。

 

第1条 乙は自己の所有する貸切バス2台をもって、甲の指示に基づき運送業務に従事する。

 

第2条 甲は乙に対して委託料月額1,080,000円(うち消費税80,000円)を支払うこととし、乙の請求に基づき、預金口座振込みにより翌月10日までに支払うこととする。

 

第3条 乙は、乙の責めに帰すべき事故により、甲に損害を与えた場合は、甲に対して賠償の責めを負う。

 

(中略)

 

第7条 本契約の有効期間は、平成30年から向こう1か年とし、契約期間1か月前に甲乙から何らかの意思表示なき場合は、自動的に更に1か年更新する。その後においても同様とする。

 

<A社の対応>

車両の賃貸借契約であり、印紙税の課税対象とはならないものと認識していた。そのため、印紙の貼付をしていない。

 

<税務調査官の指摘事項>

表題が賃貸借となっているが、A株式会社の依頼により、B運輸株式会社がバスを運行する契約であり、運送に関する契約書(第1号の4文書)に該当するとともに、運送に係る継続的取引の基本となる契約書(第7号文書)にも該当する。なお、契約金額(=記載金額)は1,200万円(月額単価100万円×12月)となるので、運送に関する契約書(第1号の4文書)に所属決定となり、2万円の印紙税の納付が必要である。

 

解説

 

1 「運送」とは

 

運送人が貨物又は旅客の場所的移動を約し、委託者(運送依頼人)がこれに対して報酬(運賃)を支払うことを内容とする契約書は、運送に関する契約書(第1号の4文書)に該当することになります。

 

例:貨物輸送契約書、バス貸切り契約書、貨物運送引受書等

 

「運送」とは、当事者の一方(運送人)が、物品又は人の場所的な移動を約し、相手(運送依頼人)がこれに報酬(運送賃)を支払うことを約する契約ですから、それが営業として行われるものだけでなく、たまたま行われるものでも運送となります。

 

したがって、簡単な文書であっても運送の内容について記載され、それを証明するためのものであれば、第1号の4文書(運送に関する契約書)に該当することになります。

 

2 「賃貸借契約書」と表記されていても…

 

車両の貸切による運行契約であるため、「賃貸借契約書」と表記される場合が見受けられますが、その内容をみますと単なる乗用車やバスなどの賃貸契約ではなく、乗用車やバスなどによる貨物又は旅客の運送を約する内容となるものがあり、その場合は、運送に関する契約書に該当して課税文書となります。

 

3 課税文書の所属を決定する基準

 

ある文書が、印紙税の課税対象となるか、課税されるとしたらその税額はいくらか、ということは、文書が印紙税法別表第一の「課税物件表」のどの号に定められた文書になるか、ということによって決まってきます。

 

そこで印紙税法は、印紙税法別表第一の「課税物件表の適用に関する通則」(以下「通則」といいます。)に、課税文書の所属を決定する基準を定めて、課税物件表の2以上の号の課税事項を記載した文書については、1つの号に所属を決定した上で、所属することとなった号の印紙税のみを課税することとしています。

 

したがって、2以上の号の課税事項に対して、それぞれの号の課税額を合算して課税するものではなく、いずれか1つの号の課税文書に所属を決定した上で、その所属する号の税額のみの負担を求めることとなっています。

 

そのためには、その文書の所属する号について、最終的に1つの号に決定する必要があり、その具体的な方法が通則3で定められています。

 

4 第1号又は第2号文書の所属決定ルール(記載金額の有無)

 

通則3の中で、課税物件表の第1号又は第2号と第3号から第17号までの課税事項が記載された文書は、第1号又は第2号文書に所属が決定されます(通則3イ)。

 

ただし、第1号又は第2号文書で契約金額の記載がないものと第7号の課税事項が記載された文書については、第7号文書に所属が決定されます(通則3イただし書)。

 

したがって、第1号又は第2号文書で契約金額の記載があるものは、第1号又は第2号文書に所属が決定されることになります。

 

5 記載金額の計算ルール(契約期間の記載の有無)

 

ところで、月単位等で契約金額を定めている契約書で、契約期間の記載のあるものは、その月単位等での契約金額はあくまでも月額単価と評価され、この月額単価に契約期間の月数等を乗じて算出した金額が記載金額となりますが、契約期間の記載のないものは記載金額がないものとなります。

 

なお、契約期間の更新の定めがある契約書については、更新前の期間のみを記載金額算出の基礎とし、更新後の期間は考慮しないものとします(印基通29条)。

 

6 結論

 

事例の文書は運送に関する契約書(第1号の4文書)に該当するものであり、また、3か月を超えて継続する運送取引について、単価、対価の支払方法などを定めるものですから、継続的取引の基本となる契約書(第7号文書)にも該当するものです。

 

そうすると、上記4のとおり、運送契約に係る記載金額の有無により、所属の決定が分かれることになりますが、事例の文書においては、契約金額(=記載金額)が算出できます(月額単価100万円×12月=1,200万円)から、運送に関する契約書(第1号の4文書)に所属が決定されることとなり、2万円の印紙貼付が必要となります。

「月額単価」については、別途「覚書」を作成

◆顧問先へのアドバイス

 

「車両賃貸借契約書」の第2条の規定を「委託料は、別途覚書で定める」として、具体的な月額単価の記載を省略することで、事例の契約書は契約金額(=記載金額)のないものとなりますので、継続的取引の基本となる契約書(第7号文書)として4,000円の印紙税が課税される文書とすることができます。

 

そして、別途作成する「覚書」の中に、「本件業務にかかる業務委託料は、月額100万円とする」と記載する(「契約期間」は原契約で定めているので記載しない。)ことで、この「覚書」においては記載金額の計算ができません(原契約における「契約期間」は引用されません(印基通4条2項))から、結果、継続的取引の基本となる契約書(第7 号文書)として4,000円の印紙税負担とすることができます。

 

このように「車両賃貸借契約書」の「月額単価」と「契約期間」とを、「覚書」を作成して別々の文書に分けて記載することができれば、2通の契約書の合計で8,000円の印紙税の負担に抑えることが可能となります。

 

なお、例えば、事例の月額の委託料が40万円の場合には、40万円×12月で、480万円となり、この場合の印紙税額は「100万円を超え500万円以下」に対応する2,000円となりますから、この場合は別途覚書を作成する必要がないことに注意します。

 

実務のポイントをつかむ
 

2以上の号の課税事項を記載した文書の所属の決定

 

① 課税物件表の第1号又は第2号と、第3号~第17号までの課税事項とが記載された文書は、第1号又は第2号文書に所属を決定する(通則3イ)。

 

② 第1号又は第2号文書で契約金額の記載がないものと第7号の課税事項とが記載された文書は、第7号文書に所属を決定する(通則3イただし書)。

 

③ ②の文書で、第1号又は第2号文書に係る契約金額の記載があるものは、第1号又は第2号文書に所属を決定する。

 

※書籍『税務調査官の視点からつかむ 印紙税の実務と対策〜顧問先に喜ばれる一歩踏み込んだアドバイス〜』より、Ⅰの「第4文書の所属の決定 3 2以上の号の課税事項を記載した文書の所属の決定」の(1)(2)(47頁)参照

 

月単位等で契約金額を定めている契約書の記載金額

 

月額単価等で契約金額を定めている契約書で、契約期間の記載のあるものは、その月額単価等に契約期間の月数等を乗じて算出した金額が記載金額となり、契約期間の記載のないものは記載金額がないものとなる。

 

※書籍『税務調査官の視点からつかむ 印紙税の実務と対策〜顧問先に喜ばれる一歩踏み込んだアドバイス〜』より、Ⅰの「第5 記載金額 2 記載金額についての具体的な取扱い (12)月単位等で契約金額を定めている契約書の記載金額」(58頁)参照

 

連載元・国税調査官が教える「印紙税」対策のポイント

本連載は、2018年9月30日刊行の書籍『税務調査官の視点からつかむ 印紙税の実務と対策〜顧問先に喜ばれる一歩踏み込んだアドバイス〜』(第一法規)から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

※無断複製・転用・公開、第三者使用を禁じます。

税務調査官の視点からつかむ 印紙税の実務と対策〜顧問先に喜ばれる一歩踏み込んだアドバイス〜

税務調査官の視点からつかむ 印紙税の実務と対策〜顧問先に喜ばれる一歩踏み込んだアドバイス〜

佐藤 明弘

第一法規

国税当局での実務経験豊かな著者が、税務調査で指摘された実務上誤りやすい印紙税の取扱いについて、具体的な契約書例を示しながら解説した書籍。「契約書をこのように変更すれば印紙税の負担を軽減できる」等、顧問先に喜ばれ…

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