アメリカでも日本でも、不景気になると「中央銀行が供給する通貨(マネタリーベース)」を増やすという金融政策が講じられます。本記事では、為替相場にも影響を与える、この「マネタリーベース」のカラクリについて改めて解説します。

中央銀行が供給する通貨「マネタリーベース」

景気回復や景気過熱の抑制のため、世界各国で様々な金融政策が講じられています。従来は政策金利の調整が主な対策でしたが、リーマンショック後に行われたのは「マネタリーベース」を急激に増やすという方法でした。本記事では、このマネタリーベースについて改めて解説していきます。

 

◆マネタリーベースとは?

 

マネタリーベースとは、中央銀行が供給する通貨と定義されています。これは、「民間銀行が中央銀行に預けているお金+市中に流通しているお金(紙幣と硬貨)」を指します。

 

アメリカでも日本でも、景気回復のための金融政策として、このマネタリーベースを増やすという方法が採用されます。簡単にいえば、「世の中に出回るお金の量を増やす→そのお金を様々なことに使ってもらい、拡大した企業が利益を生むことで個人の懐もうるおう→消費行動につながり、物価も上がって景気回復になる」という考え方です。

 

では、どのようにマネタリーベースを「増やす」のでしょうか?

 

銀行のイメージから単純に考えると、増刷して撒いていく様子が頭に浮かびますが、そうではありません。中央銀行は、国債を発行しています。国債とは、投資家などからお金を借りて国が発行する債券のことで、つまり国の借金です。

 

中央銀行は、民間銀行に対しても国債を発行しており、発行された国債の金額はマネタリーベースに含まれません。つまり、民間銀行から国債を買うことで、マネタリーベースを増やすことができるのです。

 

しかし実際は、それでは不十分です。というのも、マネタリーベースが増えても、マネーストック(市中に流通しているお金)は増えないからです。すなわち、民間銀行には潤沢に蓄えはあるものの、企業や個人に貸し出しが行えていないのです。

 

そこで重要になってくるのが、金利です。

 

◆マネタリーベースと金利の関係とは?

 

マネタリーベースを急激に増やさなくてはならない状況とは、不景気を表しています。そして、新たな金融政策に迫られているということは、金利はかなり下落した状態と考えられます。

 

反対に、もしマネタリーベースを減らさなくてはならない状況の場合、それは経済が活性化しすぎて、過度なインフレを起こしていることが分かります。景気は良い状態なので、金利も高いです。

 

それでは、金利の上げ下げがマネタリーベースに及ぼす影響について考えてみましょう。

 

金利が下落すると、お金を借りる際の利子が少なくなり、預金する際の利息も少なくなります。中央銀行に預けていても利益が少ないので、民間銀行はお金をどんどん貸すようになります。また企業や個人も、預けていたお金を投資や消費に使うようになり、マネーストックの増加につながります。

 

金利が上昇した場合は、お金を借りる際の利子が多くなり、預金する際の利息も多くなります。そのため、投資せずにお金を預ける人が増え、民間銀行のお金は行き場を失います。結果、そのお金は中央銀行に預けられ、市中に出回らず、マネーストックは減少します。

 

これより、金利はマネタリーベースよりも、マネーストックに影響を与えるということがわかります。

為替レートとの相関性を示した「ソロスチャート」

◆為替レートと日米マネタリーベースの関係とは?

 

マネタリーベースは、為替レートにも一定の影響を及ぼすといわれています。その相関性を示したものが、投資家のジョージ・ソロス氏が考案した「ソロスチャート」です。

 

ソロスチャートとは、二国間のマネタリーベースの比率(ここでは、日本÷アメリカ)と為替レートをグラフにしたものです。日本のマネタリーベース比率が高い場合には円安ドル高(グラフは上昇)となり、アメリカの比率が高い場合は円高ドル安(グラフは下降)になるという理論を打ち出しました。

 

ソロスチャートが相関関係を強く示していたのが、1990年から1995年のことです。景気悪化に苦しんでいたアメリカが、マネタリーベースを増やし続けていった結果、日米マネタリーベースの比率は、約140%から100%を切りました。為替レートは、1ドル150円から80円代になり、急激な円高ドル安をむかえました。それ以降は、多少のずれはありながらも、2本のグラフは似た動きを見せていました。

 

この流れに変化が生じたのは、2008年のリーマンショック以降のことです。アメリカは大規模な金融緩和を行い、マネタリーベースを約4兆ドル(約476兆円)にまで増加させました。結果、円高ドル安が加速していきました。

 

日本もマネタリーベースを2年で2倍にすると宣言し、2014年には約270兆円まで増加させました。しかし、グラフは下降し、為替レートは円安ドル高となりました。

 

さらに正反対の動きを見せたのは、2016年初頭のことです。2012年には40%にまで下降した日米マネタリーベース比率が95%まで上昇し、為替レートは円高ドル安が進み、かなり大きなずれが生じました。

 

2016年1月に導入されたマイナス金利政策よりも、2016年頃から加速したアメリカの利上げによる影響のほうが、世界的に見てインパクトがあった結果だと考えられるでしょう。

 

 

柳原 大輝

WIN/WIN Properties, LLC 共同代表 

株式会社WIN WIN Properties Japan 代表取締役

 

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