ドロ沼相続争いの火種に?被相続人の「調子のいい言葉」に注意

家族が集まる年末年始に改めて考えたい相続の問題。ここでは、相続トラブル防止に欠かせない「遺言書」の重要性を解説します。※本記事は小笠原六川国際総合法律事務所の小笠原理穂弁護士の書き下ろしによるものです。

長男・長女の双方に「家をやる」と言っていたら…

ここ10年ほど、「終活」という言葉をよく耳にするようになりました。最近は「エンディングノート」も数多く市販されています。終活にはさまざまな形がありますが、遺言作成もそのうちの一つです。


相続の多くは、被相続人が作成した遺言をもとに、あるいは相続人間で平和的な話し合いがなされて、無事に手続きが終了しています。


しかし、被相続人が生前元気であった頃は家族みんな仲良く過ごしていても、被相続人が亡くなり、遺産相続という話が出てくると、突如骨肉の争いが勃発するケースは珍しくありません。中には、「ウチはそんなにモメるほど財産がないから大丈夫」とおっしゃる方もいるのですが、たとえ遺産が100万円でも50万円でも、争う相続人は争います。生前は家族仲良く暮らしているのですから、被相続人はまさか自分の死後、残された家族が骨肉の争いを繰り広げるなどとは夢にも思っていません。当然、遺言を作成しようなど考えもしないわけです。


ところが実際に相続が発生すると、天国にいる被相続人の思いとは裏腹に、生存配偶者を含め、子どもたちが遺産をめぐって壮絶なバトルを展開するケースがあります。筆者は家族法関係を専門としているため、相続の相談を受けることも多いのですが、時々「相続事件」ではなく「相続戦争」と言っても過言でないくらい、もつれにもつれた事件のご依頼をいただくこともあります。金銭トラブルといった側面ももちろんあるのですが、相続事件はむしろ感情的な対立が多いのが特徴です。


もちろん、それぞれに理由があっての対立なのですから、争いになってしまうこと自体は仕方ありません。弁護士としては依頼者の方の様々な思いを受け止め、法律家としての知識や経験をフル稼働して頑張るのみです。


このような相続人間の感情的な対立を引き起こしてしまう原因の一つが、被相続人からの「相続人を期待させてしまう発言」です。


たとえば、被相続人が、亡くなる直前まで介護をしてくれた長女に「介護で迷惑をかけたから、自分が死んだらこの自宅はお前がもらえ」と言っていたにもかかわらず、別の機会に長男にも「お前は長男だし、この自宅をやるからちゃんと家を守ってくれ」などと言っていたケースです。他にも、会社経営者であった被相続人が長男に「次の経営者はお前だから自分が死んだら会社の株は全部お前に譲る」と言っていたにもかかわらず、全く同じ言葉を三男にも伝えていたというケースもありました。


被相続人としては、子ども達を前にして、その時々の思いで「自分が死んだら…」という話をしたかも知れませんが、そのような話を聞かされた側は、いずれは自分がその遺産を取得することができると期待するわけです。被相続人が生きている時に、被相続人のこれらの困った矛盾発言が明るみに出ればまだ良いのですが、生前に相続の話をすることを躊躇することも多く、他の相続人には分からないのが現実です。


このように、相続人に期待を持たせる安易な発言が、相続人同士の無用なトラブルを生んでしまったというケースは意外に多いのです。結局、上でご紹介したいずれのケースも遺言は作成されておらず、相続人がそれぞれ「生前、被相続人は自分に遺産をくれると言っていた」と主張し(そのように言われたのだから当然です)、遺産を巡って全面的な対立をすることとなったのです。

遺言があれば、相続人が争う可能性は格段に下がる

自分が生きている時に、相続人に対し遺産の配分について何を伝えても自由です。ただ、その思いを「遺言」という形で残しておいていただきたい、というのが弁護士としての切なる願いです。遺言にすることで、被相続人の最期の遺志が明確になります。生前に口頭で相続人に伝えるだけでは、法的には何の意味もありません。日記やメモやエンディングノートで残していても同様です。


できることなら公正証書遺言という形で残していただきたいと思います。自筆証書遺言や秘密証書遺言といった形式の遺言もありますが、これらの遺言と異なり、公正証書遺言は公証役場に保管されますので、偽造や紛失のおそれもなく、家庭裁判所による検認の手続きも不要です。


適法な遺言があれば、それにしたがった形で相続手続きがなされるため、相続人の間で余計な争いを生む可能性は格段に低くなります。もし、遺言作成後に、「やっぱり遺言の内容を変えたい」ということであれば、新たな遺言を作成することもできます。前に作成した遺言と矛盾する部分があれば、後に作成した遺言の内容が有効とされます。それまで作った遺言を全て撤回することも可能ですし、遺言内容を秘密にしておくこともできます。


経験上、「遺言があればここまでもめずに済んだのに」と思う場面が何度もありました。もちろん、法律上は被相続人に遺言を作成する義務はありません。しかし、自分の死後に思わぬ相続トラブルを発生させないためにも、「遺言」の存在は重要なのではないかと思っております。


つい気前よく口が滑ってしまうという心当たりのある方、終活の一環として遺言の作成を是非ご検討下さい。

 

 

小笠原理穂

小笠原六川国際総合法律事務所 弁護士

 

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小笠原六川国際総合法律事務所 弁護士

東京都立小松川高等学校、明治大学法学部、同法科大学院卒業。
2010年弁護士登録、東京弁護士会所属。
2018年東京弁護士会子どもの人権と少年法に関する特別委員会副委員長。
相続、離婚、成年後見など、家族を取り巻く法律問題を広く扱う。
特に予防法務に力を入れており、遺言作成や、相続と事業承継の問題に積極的に取り組んでいる。

著者紹介

連載家族が集まる年末年始だから本気で考えたい!「相続」特集 ~弁護士・小笠原理穂氏

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