家族が集まる年末年始に改めて考えたい相続の問題。ここでは、平成30年7月に改正された相続法で配偶者優遇制度がどのように定められ、また実務にどのような影響があるのかを解説します。※本記事は小笠原六川国際総合法律事務所の小笠原理穂弁護士の書き下ろしによるものです。

相続法改正の目玉の一つ「配偶者への優遇制度」の新設

平成30年7月、約40年ぶりに相続法が改正されました。改正法の施行日は原則として平成31年7月1日とされています(一部例外もあります)。今回の改正では、遺言制度や遺留分制度の見直しもされていますが、改正の大きな目玉と言えるのが、配偶者への優遇制度の新設です。

 

具体的には(1)生存配偶者の居住権である「配偶者短期居住権」「配偶者居住権」の新設および、(2)婚姻期間が20年以上である夫婦間での遺贈・贈与について持ち戻し免除の意思を推定する規定の新設です。

 

ここでは、改正相続法でどのような配偶者保護制度が定められたのか、実務にどのような影響があるのかについて説明します。

配偶者の居住権の確保

改正相続法では、生存配偶者の居住権を確保する制度が新設されました。

 

「配偶者短期居住権」とは、生存配偶者が被相続人の遺産分割に関して、遺産の分割により居住建物の帰属が確定した日又は相続開始の時から6ヶ月を経過した日のいずれか遅い日までの間、当該居住建物に無償で使用することができるという権利です(新法1037条)。他方、「配偶者居住権」とは、遺産分割において原則として生存配偶者が亡くなるまでの間、自己の相続分により当該居住建物を使用および収益をすることができるという権利です(新法1028条~1036条)。

 

つまり、この規定が新設されるまでの遺産分割においては、生存配偶者がこれまで居住してきた不動産に住み続けることを希望する場合、生存配偶者がその不動産の所有権を取得して、他の相続人に代償金を支払って住み続けるか、他の相続人がその不動産を取得した場合には、その相続人に賃料を支払って住み続けるか、ということになります。

 

もし生存配偶者に代償金を支払う資力がなく、他の相続人もその不動産を取得することができないということになった場合には、その不動産を売却しなければなりません。そうすると、生存配偶者は、住み慣れた住居を退去し、新たな場所で生活を始めなければならないのです。しかし、高齢である生存配偶者が住む家を失ってしまった場合、新たに住居を購入する資金もなく、かといって、単身の高齢者が入居できる民間の賃貸住宅を見つけることも大変難しいという現実があります。

 

そこで、このような配偶者を保護するため、今回の相続法改正において、生存配偶者に退去まで当座の猶予を与える「配偶者短期居住権」と、相続開始後も終身ないし一定期間にわたって居住を続けることが可能になる「配偶者居住権」が新設されたのです。

 

生存配偶者が配偶者居住権を取得するためには、①被相続人の財産に属した建物に、②相続開始時に、③居住しており、④遺産分割や遺贈等により配偶者が配偶者居住権を取得することになった(なっていた)ことが要件として必要になります。

 

配偶者居住権は、遺産分割、被相続人からの遺贈、死因贈与契約、家庭裁判所の審判のいずれかによって取得することができます。

 

これらの制度の新設により、実務では、配偶者が住む家を失って生活に困窮するという不都合が大きく改善されることになります。もっとも、配偶者居住権が認められた場合には、生存配偶者はその財産的価値を相続したものとみなされることから、その財産評価については今後の積み重ねが必要となると思われます。

遺産分割における配偶者の保護

また、改正相続法は、遺産分割の場面においても配偶者の保護を図っています。

 

具体的には、「婚姻期間が20年以上の夫婦の一方である被相続人が、他の一方に対し、その居住の用に供する建物又はその敷地・・・について遺贈又は贈与したときは、民法903条3項の持ち戻し免除の意思表示があったものと推定する」(新法903条4項)と規定が新設されました。

 

つまり、現行法でも改正相続法でも、生存配偶者が被相続人から居住用不動産を贈与された場合には、それが特別受益として評価されることは同じなのですが、改正相続法では、「20年以上連れ添った配偶者」が被相続人から「居住用不動産の贈与を受けた場合」には、当該贈与については、これを特別受益として持ち戻し計算をしなくても良い、という被相続人の意思が推定されることとなったのです。

 

被相続人の意思が推定されることになる結果、生存配偶者の取り分が減ることはなくなりますので、最終的には生存配偶者が他の相続人よりも多くの財産を取得できることとなり、この点で配偶者の保護が図られることとなりました。

 

婚姻期間が20年以上の夫婦に限定されているのは、長期間夫婦であった場合には、その財産形成への協力や寄与の度合いが高いと考えられるからです。

 

この規定によって配偶者の保護を図るためには、当然のことながら、夫婦の一方配偶者が他方配偶者に対して、その居住用不動産を遺贈又は生前贈与することが求められます。

 

そうすると、今後、相続税法上の贈与税の特例制度(※)とあいまって、夫婦間での居住用不動産の生前贈与が増えることが予想されます。

※相続税法は、婚姻期間が20年を超える夫婦の間で、居住用不動産の贈与、あるいは当該不動産の購入資金の贈与があった場合に、通常の年間110万円に加えて、2000万円までは課税控除を認める特例を設けている(相続税法21条の6第1項)。

生前贈与、または配偶者居住権を定めた遺言の作成を

長年連れ添った配偶者の住む場所や生活を守るため、被相続人としては、まずは生前贈与により居住用不動産を生存配偶者の名義にしておくことが考えられます。生前贈与が難しい場合でも、配偶者居住権を定めた遺言を作成しておくと良いでしょう。もちろん、遺贈のほか、相続人間で行われる遺産分割や家庭裁判所の審判でも生存配偶者は配偶者居住権を取得することは可能ですが、相続人間のもめごとを残さないためにも、遺言による設定をおすすめします。

 

夫婦が同時に旅立つケースはまれです。多くの夫婦は、いずれかが必ず残されるのです。この年末年始、相続について夫婦やご家族でゆっくり話し合われてみてはいかがでしょうか。

 

 

小笠原理穂

小笠原六川国際総合法律事務所 弁護士

 

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