相続税の課税対象者のうち、約7割もの人が税金を納めすぎているといわれています。なぜ、多くの人が税金のプロである税理士に申告を依頼しているにもかかわらず、このような事態が起きているのでしょうか。本記事では、税理士に「相続税申告」を依頼しても安心できない理由を解説していきます。

会計、資産税…税理士によって異なる「得意分野」

◆富裕層に厳しい相続税

 

相続税は「超過累進税率」が採用されており、取得する財産の評価額が上がると、加速度的に税率が高くなる特徴があります。たとえば取得財産の金額が6億円を超える部分については、55%もの高い税率が適用されます。特に地価の高い都市部に不動産を所有する人などにとって、相続税は軽視できない存在でしょう。

 

相続税を計算する第一歩は、故人の残した財産をリストアップし、それらの価値を金銭的な評価額として算定することです。この過程で評価額を高く、あるいは低く見積もってしまうと、そこから導き出される相続税額も上下にぶれてしまいます。

 

この財産評価の作業は専門的で、一般の方にはあまり馴染みがありません。加えて相続税の申告期限が10ヵ月しかないことを考えると、相続人自身が誤りなく適正な申告をすることは厳しいといえます。

 

 

◆税理士は十人十色

 

そこで重要となるのが税理士の存在です。税務のスペシャリストである税理士に依頼すれば、正しく申告してくれるはずと考える人も多いことでしょう。しかし、必ずしもそうとはいい切れません。理由は単純で、税理士によって得意分野が異なるからです。

 

医師に内科、外科といった専門があるように、実は税理士にも得意な分野とそうでない分野があります。大きく分けると「会計・経理を得意とする税理士」と「相続税・贈与税など資産税を得意とする税理士」がいて、どちらが多いかというと、会計・経理を中心に行う税理士のほうが圧倒的に多数です。

 

この理由は、相続税案件がそもそも少ないという一点につきます。相続税は一定額以上の遺産を取得したときにかかる税金であり、全死亡者数(約130万人/平成28年)のうち9割近くは相続税申告をする必要がありません。件数でいうと、平成28年の相続税申告件数は年間で約13.6万件、対して税理士登録者数は約7.5万人です。つまり平均すると、1年間に税理士1人当たり1~2件の案件しか行きわたらないことになります。

 

実際には、相続税が得意な税理士のところに案件が集中する傾向がありますから、なかには何年も相続税の相談を受けていないということもありえます。相続税は他の税目と異なる部分も多く、税理士資格を持っているといえども一朝一夕にマスターできるものではありません。相続税申告は「相続税を得意とする税理士」に依頼するのがやはり得策です。

「相続税」は税理士になるための必須科目ではない!?

◆苦手な税理士も多い「土地評価」

 

相続税は専門性が高い、といわれるのにはいくつかの理由がありますが、最も大きいのは「土地評価」という作業が避けて通れないことです。土地評価とは、土地の金銭的な価値を算定することをいいます。

 

不動産に関わる税金というと固定資産税が代表的です。その固定資産税は自治体から納めるべき税額が納税者に通知されてきますが、相続税の場合、土地評価をするのは納税者自身、もしくはその代理人である税理士です。

 

しかし、税理士は不動産の専門家ではないために、土地の価額を構成する要素についてくまなく理解しているとは限りません。不動産はそれ自体多くの専門資格がある奥の深い分野ですが、税理士試験に「不動産」という科目はなく、こと税理士になるためには、それほど深い不動産知識は求められません。

 

もちろん、「相続税」の試験のなかに土地評価の問題はありますが、設問として教科書に出てくるような土地は相続実務上、ほとんどありません。もっというと、「相続税」は選択科目の1つで、税理士になるために必須の科目でさえありません。

 

相続税における土地評価の方法は、国税庁による「財産評価基本通達」に定められています。マニュアルがあるならそれに従って評価すればいいじゃないかと考えるかもしれませんが、土地は個別性が高く類型化することが難しいため、様々な判断が必要となってきます。

 

例を挙げましょう。土地を評価する前提として、まず評価する範囲をきちんと判断しなければなりません。当たり前のように感じられますが、たとえば1つの土地に自宅や畑、倉庫などが混在している場合はどこで分けるのでしょうか? 店舗とその駐車場は一括で評価すべきなのでしょうか? このような現実の土地に直面した場合、根拠に裏打ちされた適切な判断ができるかどうかは、やはり知識と経験にかかっているのです。

 

 

◆税理士を「使い分ける」のは合理的な選択

 

税理士業界では、税目に応じた分業体制が医療分野ほどには整っていません。顧問などで長い付き合いのある顧客から相続税の相談があれば、経験があまりなくても引き受けるのはある意味自然なことでしょう。

 

ただ先述の通り、不動産を評価するには価額に影響を与えるあらゆる要素を汲み取り、判断する必要があります。見落としが起こる可能性はありますし、気付いたとしても判断に難しい点があると、税務署に否認されるリスクを避けて保守的な評価をし、納税額が上振れする傾向もあります。

 

これを避けるために、税理士が不動産鑑定士に土地評価を依頼することもあります。不動産鑑定士とは、不動産の客観的価値を分析し価額として提示する、不動産評価のスペシャリストです。確かに不動産鑑定士に依頼すれば、適正な土地評価が行われるでしょう。

 

しかし、コストの観点から、すべての土地の評価を依頼することは実務上、現実的ではありません。判断に迷う土地、判断が評価額や相続税額に与える影響の大きい土地が中心になってきます。そういう意味では、やはり税理士自身がある程度、土地評価に習熟する必要があるといえます。

 

もっとも、1人の税理士がすべての税目をカバーすべきとはいいませんし、最近は税理士も税目に応じた分業への抵抗感が薄れているようにも感じます。得意分野ごとにお互い情報交換をし、顧客にとって最もよい結果を提示するという意識が高まっていることは、納税者にとって歓迎すべき状況ではないでしょうか。

 

納税者の側も、所得税や法人税はそれが得意な税理士に、相続税はそれが得意な税理士にと、税目に応じて依頼するのが合理的な選択でしょう。そのほうが結果として、税金を含めた全体のコストも下がりやすくなります。相続財産に土地の多い方は特に、このことを意識していただきたいです。

 

 

髙原 誠

フジ総合グループ/フジ相続税理士法人 代表社員
税理士

 

 

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