家族が集まる年末年始に改めて考えたい相続の問題。ここでは、特定の相続人に資産を相続させない方法を紹介します。※本記事は野辺法律事務所の野辺博弁護士の書き下ろしによるものです。

「遺留分」があるため、遺言書作成だけでは無理

経営者の親に金をせびっては遊び回り、役員にしたところでさっぱり働かず、日々会社の金で豪遊してばかり――。こんな放蕩息子には遺産を一切残したくない。弁護士をしていると、そんな親子間の問題でご相談に来られる方もいます。

 

放蕩息子に一切遺産を残さないというのは、現実問題、なかなかむずかしいことです。

 

一番に思いつくのは、遺言書を作成し「放蕩息子に一切親の財産を取得させない」と明記する方法ではないでしょうか。

 

しかし、それで十分とは言えません。子は配偶者と共に法定相続人の一人ですが、この者には最低限残しておくべき相続財産とされる「遺留分」という権利が認められているからです。

 

遺留分は、子や配偶者の場合、その法定相続分の割合の1/2相当額です。例えば、配偶者と子2人が相続人であるときの法定相続分は配偶者1/2、子は各自1/4ですから、遺留分は配偶者なら1/4、子は各自1/8となります。もっとも、兄弟姉妹が相続人となる場合、その兄弟姉妹には遺留分の権利はありません。

 

このような遺留分は、遺言によっても奪うことができないものとされています。

 

だとすると、遺言書にはっきり「放蕩息子に一切親の財産を取得させない」と記したとしても、それは放蕩息子の遺留分を侵害していることになります。その息子は他の相続人に対し、遺留分相当額の財産を引き渡せと請求していくことができるのです。これを「遺留分減殺請求」といいます。結果、遺言の趣旨は貫徹されず、遺産分けの争いが発生することになります。もちろん、これは遺言者である被相続人の本意とするところではありません。

「遺留分の放棄」という制度を活用する

このような相続争いを防ぐ手立てとして有効なのが、「遺留分の放棄」という制度の利用です。

 

実は相続人の相続権というのは、被相続人存命中は具体的に発生しませんが、他方で、相続人も被相続人が生きている間はその相続を放棄することもできません。被相続人が死去して相続が発生した後に相続放棄ができるのです。

 

多くは、被相続人の保有財産に対してそれを超える負債、借金があるなど、承継したら相続人自身が返済していかなればならない場合において、家庭裁判所に相続の放棄を申述します。これにより、その相続人は被相続人の一切の財産・負債を承継しないことになります。これが「相続放棄」の制度です。

 

それに対し「遺留分の放棄」というのは、被相続人の生前において家庭裁判所に「自分は遺留分を放棄する」と申し立て、その許可を受けると、もはや相続後に遺留分減殺請求を行使することはできなくなる、というものです。結果として、遺言書の内容通りの遺産分けが実現し、相続人間の紛争も起こらないことになります。

弁護士経験から見ても「遺留分の放棄」の実現性は高い

しかし、放蕩息子が遺留分を放棄するなんてあり得るのでしょうか?

 

その疑問はもっともです。しかし、弁護士としての経験から言わせていただくと、相当高い確率で遺留分放棄はしてもらえるものだ、というのが実感です。その方法というのは、今、一定限度の財産をその放蕩息子にやるというものです。

 

「なーんだ」と言われるかもしれません。しかし、よく考えてみてください。遺留分の放棄が家庭裁判所において認められると、遺言内容が確実に実現し、相続人間の紛争も予防できるのです。しかも、その放蕩息子に今やる財産の額は、おそらく将来の相続時の遺留分よりずっと低い金額に収まるものだと言ってよいでしょう。もちろん、そのようにもっていくための交渉力は必要です。

 

その要諦を申し上げるならば、一つは人生100年時代、相続は相当先の将来になる可能性もあること。もう一つは、親の財産は将来もそのまま維持されるものではないということ。むしろ減っていくこともあるばかりか、更に他の相続人に財産を漸次移していくことも想定されること。これらを放蕩息子に理解させ、感じ取ってもらうことが重要です。

 

冷静に想像力を働かせた放蕩息子は、将来の不透明な遺留分の額よりも、今の現実に手元に入る財産を選択するのではないでしょうか。

「遺留分の放棄」と「遺言書」は必ずセットで!

遺留分放棄は上記交渉を経て、その息子に納得してもらうことが必要です。実際裁判所では、裁判官が遺留分の放棄を申し立てた本人と面接し、被相続人の財産が今どの位あるのか、それに対し、なぜ本人に不利益となる遺留分放棄をするのか等を尋ねます。その返答を聞いて真に遺留分を放棄する意思があると認められる場合に、裁判所はその者の遺留分放棄を許可するのです。ですから、遺留分を放棄する本人に対しては、その制度をよく説明し、手続を理解してもらうことが重要です。

 

また遺留分の放棄は、相続の放棄とは違いますので、これによってその者の相続権自体が喪失してしまうというものではありません。この点は注意を要します。

 

遺言書がない場合は、遺留分を放棄した者といえども相続人としての遺産に対する権利を主張することができます。したがって、必ず遺言書を作成します。その場合、公正証書遺言をお勧めします。

 

最後に、このような放蕩息子も血を分けた家族です。親子関係を今一度振り返り、親の側に問題はなかったか、これから息子とどう向き合っていくべきか等、この機会に考えられてはいかがでしょうか。

 

 

野辺 博

野辺法律事務所 所長

弁護士

 

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