トルコリラ、ブラジルレアルは続伸
メキシコペソは下落基調
■トルコリラの対円相場は続伸しました。9月の大幅利上げによって投資家の信認の改善が見られましたが、10月はテロ活動とスパイ容疑で軟禁していた米国人牧師を解放したため、米国との関係修復が進むとの期待が高まり、リラが上昇しました。また、イスタンブールのサウジアラビア領事館で同国ジャーナリストの殺害事件が発生し、中東での地政学リスクの高まりも懸念されましたが、リラ相場への影響は限定的でした。トルコ中銀は10月25日の金融政策決定会合で、政策金利を据え置きました。
それ以前の下落が大きかっただけに、リラには依然として上昇が期待できます。但し、大幅な上昇にはインフレの低下や地政学リスクの低下などの追加的な好材料が必要と見られます。
■ブラジルレアルの対円相場も続伸しました。米ドルの上昇に伴う新興国通貨の下落傾向は続きましたが、ブラジルでは大統領選挙が実施され、財政規律を重視するボルソナロ氏の勝利の期待の高まりと共に資本が流入しました。10月28日の決選投票では期待通り、ボルソナロ氏が勝利をおさめました。
ブラジル中央銀行は、10月31日の金融政策決定会合で、市場の予想通り金融政策を据え置きました。インフレ率が中銀の目標付近にあるため、中銀は当面金融政策を維持するとみられます。今後のレアルについては、ボルソナロ次期大統領の社会自由党が少数与党のため、大統領就任後の政策運営への期待や不安が入り交じることが想定され、やや不安定な展開になる可能性があります。
■メキシコペソの対円相場は下落しました。ロペスオブラドール次期大統領が現在建設中の新空港について、国民の多数が反対していることや高額な建設費用を理由に白紙撤回すると表明しました。これが今後の政権運営などに対する不透明感の高まりにつながり、メキシコペソは急落しました。メキシコの軟調な経済指標や在庫増加に伴う原油価格の下落もメキシコペソにとって悪材料となりました。
今後のペソについては、不安定な動きを想定します。12月に就任予定の次期大統領が新空港の建設を中止したことは、同国への投資資金引き揚げにつながるとの警戒を強める結果となり、ペソの下押し要因となっています。ただしペソは10月に既に大きく下落したことから買戻し圧力も相応に見込まれるため、一方的な動きにはなりづらいと考えられます。
主要新興国通貨の動向
アジアは下値固めの展開
■中国人民元の対円相場は、元安歯止め策から8月に一時人民元高に転じたものの、前月に続いて10月も軟調な展開となりました。10月7日には、中国人民銀行が今年3回目となる預金準備率の引き下げを発表するなど、中国当局は景気支援へ政策スタンスをシフトさせてきています。米中貿易摩擦によって景気の先行きに不透明感が強まる中、中国の金融政策には緩和余地が残されているとの期待があります。利上げ局面にある米金利との金利差要因からは人民元に下落圧力がかかりやすい状況が続きそうです。
■インドネシアルピアの対円相場は下落しました。米中貿易摩擦に対する懸念やトルコショック、原油価格の上昇による経常収支悪化懸念、米国の金利上昇などが下落の背景です。しかし、10月中旬以降、米国金利の上昇一服、原油価格の下落などを背景にルピアは下げ止まりました。インドネシア中銀は今年5月以降5回にわたり利上げを行い、政府も輸入金額の大きい国家プロジェクトを延期するなどの通貨防衛策を強化しており、ルピアは次第に落ち着きを取り戻すと期待されます。
■インドルピーの対円相場も下落しました。原油価格の上昇や米国金利の上昇といった外部環境の悪化に加え、ノンバンクに対する信用不安が重なって、ルピーは弱含みの展開が続きました。ただ、10月中旬からやや持ち直しました。インドも原油価格や米国金利の上昇が一服したことが要因です。
アジア新興国通貨の動向
主要新興国通貨の変化率
不安定な値動きが続こう
■多くの新興国通貨は、10月中旬以降落ち着きを取り戻す動きとなりましたが、通貨下落の背景となった米国の金利上昇や中国景気の先行き不透明感は燻ったままです。原油価格の先行きも米国によるイラン制裁再開のために不透明です。イラン原油の輸入制限を180日という期限付きで除外される国もあることなどから、短期的に原油価格の上昇は回避できるかもしれません。しかし、180日経過後の原油輸入制限の扱いは不確実であり、中長期的には原油高に結び付く可能性は残ります。新興国を巡る環境は依然厳しい状況で、新興国通貨は不安定な値動きが続きそうです。
(2018年11月06日)
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