投資対象としての貿易金融 リターンの実績とリスク管理は?

本連載では、オルタナティブ投資のプラットフォームを提供するTransAsia Private Capital Limited.(トランス・アジア)の創業者のひとり、ジェフリー・チャンドラ氏に、同社が中心として手がける「貿易金融」のリスクと特性について伺った。第2回目のテーマは「投資対象としての貿易金融」。聞き手は、ニッポン・ウェルス・リミテッド(NWB/日本ウェルス)のダイレクター幾田朋彦氏である。

リターン…低リスクで短期6%、長期7%が狙える?

幾田 引き続き、オルタナティブ投資のひとつ「貿易金融」に関して、TransAsia Private Capital Limited.(以下、トランス・アジア)の創業パートナー、ジェフリー・チャンドラ氏に解説していただきます。貿易金融を組み入れたファンドは、どのようなものなのですか?

 

ジェフリー トランス・アジアが最初に立ち上げた貿易金融のファンドは、既に船舶に積み込まれている原材料を担保にとった貸し付けと、既に受け渡し済みの商品に対する売掛金を担保にする貸し付けの2種類の融資のみを取り扱うものです。いずれも短期の資金のやり取りなので、ローンの平均残存期間は60日前後となります。 

 

幾田 トランス・アジアの扱う貿易金融では、シッピングごとの貸付が基本となるのでしょうか?

 

ジェフリー 「サプライチェーン・ファイナンス」と呼ばれる、取引ごとにローンを提供するというよりは、商品の生産前や生産時に、機動的に資金調達を可能にするローンがあります。こちらは最初のファンドよりも貸付形態のパターンが多く、融資のタイミングも多岐にわたるため、貸出期間の平均が長くなる傾向にあります。

 

幾田 貿易金融は投資対象として、あまり一般的とはいえない資産クラスですが、期待リターンはどの程度見込めるのでしょうか? また、リスクについてはどのようにお考えですか?

 

ジェフリー 短期のファンドは、米ドルで諸経費控除後では6%ほどを見込んでいますが、過去4年間で6.2〜6.3%と実績ではわずかに上回っています。長期のファンドは一般に+1%ほどの流動性プレミアムを見込み、約7〜7.5%です。ローンの期間が長くなると、リスクが高いという印象を持つかもしれませんが、その見返りもあります。

 

リスクに関しては、他のどんな投資戦略や事業にも当てはまることですが、運用者の投資対象に対する経験とノウハウが豊富か貧弱かで大きく変わってきます。トランス・アジアの運用戦略は資金の流れに対して、すべて商品の物理的な移動が伴いますので、特別複雑な仕組みを用いた取引手法を使っているわけではありません。

 

貿易金融に熟練したチームを揃えてさえいれば、主なバイヤーとサプライヤー、市場動向、個々の取引に対する価格設定や商慣習、個々の取引の典型的な利益率などについて契約書、出荷書類、本物の取引書類を見ながら、最初から最後までの取引全体の流れを追跡することが可能です。ここを間違えなければ、融資が焦げ付いたり、詐欺に巻き込まれたりすることはほとんどありません。

 

逆に経験やノウハウの乏しいチームに運用を任せてしまうと、リスクの低い取引と高い取引を判別できず、損失を被る危険が高まります。つまり、貿易金融という戦略、資産クラスは、それをハンドルするチームの腕前に大きく依存しているといえます。

リスク管理…オペレーション審査とモニタリングを徹底

幾田 貿易金融という資産クラスをハンドルするためには、運用チームにどのようなことが求められますか?

 

ジェフリー この種の戦略を運用する場合、通常のアセットマネージャーとしてのスキル以外に「小さな銀行(ミニバンク)」のような機能を兼ね備えている必要があります。銀行業務においては、さまざまなビジネスや管理機能を担う部門が数多く存在しますが、それに少し似てるといえるでしょう。

 

一般的な有価証券取引は、、個々の有価証券や投資戦略・戦術に対する分析(銘柄選定やポートフォリオのリスク管理)に多くの時間を費やす必要がありますが、高い流動性と透明性を持ち、取引所や免許を持つ業者との取引となるため、取引の執行が非常に簡単です。

 

一方、貿易金融の性質は有価証券取引とほぼ真逆です。取引の構造や仕組み自体は非常に単純で、貿易取引そのものに対する分析を行うことはあまりありません。その業者が扱っている特定の商品、取引に対する利益率、出荷元と出荷先についての評価は行いますが、どちらかといえば、投資対象である貿易取引のオペレーション面の評価とモニタリングに持てる力を注ぎます。

 

貿易取引のオペレーションは、融資先とバイヤーとの関係、取引回数(実績)、融資先の財務状況、貿易取引の構造、出荷に使う運送会社、取引の利益率、取引実行からバイヤーが支払いを完了するまでの期間、出荷された商品やお金の動きをどう把握するか、などが審査・モニタリングの対象に含まれ、これをチェックするには、多くの人数が必要です。

 

幾田 それだけモニタリングの項目が多いと、ポートフォリオの拡大は大変そうですね?

 

ジェフリー ポートフォリオを拡大するにつれて、自然と少額の取引が増えていくため、管理漏れのリスクを抑えるためには優れたシステムとプロセスが必要です。当社との取引実績が豊富な勝手知ったるサプライヤーとの取引には、そこまで労力を使う必要はありませんが、新参のサプライヤーに貸し付ける場合は、取引が発生するたびにすべてのチェック項目を慎重に検証する必要があります。

 

最終的には、各プロセスの検証と監査体制を幾重にも張り巡らせることが求められるため、ポートフォリオの規模拡大には自ずと限界があります。ポートフォリオのモニタリング項目が数多くなってしまうのは、貿易取引の性格上、たとえば1つの融資案件で積み荷が複数回の貨物に分散することもあるからです。これらの取引に関わる書類の検証だけでも多くの労力を必要とします。

 

幾田 リスク管理に関して、第三者機関に評価を依頼するという方法はとれないのですか?

 

ジェフリー 毎回やるわけではありませんが、担保の安全性を検証するために、第三者の検査人または担保管理サービスを使うこともあります。しかし、運用担当者が自身の持っている経営資源に対して過度にポートフォリオの規模を膨らませすぎると思わぬリスクを負うことになりますので、そこは注意を要するポイントです。

貿易業界の現実…銀行の融資枠では資金が足りない?

幾田 先ほど貿易金融の機能が小規模な銀行に似ているとの話が出ましたが、なぜ融資先は銀行から借りないのでしょう? なぜ彼らは貴社にお金を借りに来るのでしょうか?

 

ジェフリー 当社は銀行が貸さないような先に融資しているのではないかとよく誤解されますが、それは間違いで、ほとんどの融資先は銀行からもお金を借りています。問題は、銀行からの融資枠が彼らのビジネスを伸ばす、あるいは支えるのに十分かどうかです。

 

貿易業者の懐事情を一般化すると、中小規模では2~3行、より大きな規模の融資先は5~7行ほどと取引がありますが、それぞれの銀行は、貿易の出荷対象である商品価格の水準とは関係のない一定の融資枠を提供します。

 

ここ数年は原材料価格の上昇が続いたので、貿易業者の取引額はそれに比例して上昇しているのですが、銀行はそのような事情を考慮して臨機応変に融資枠を引き上げることはあまりしません。また、銀行は自主ルールや規定に沿って業務を行い、特定の種類の商品や、商取引の発生する場所によって融資額に制限を加える傾向があり、必ずしも借り手のニーズに対して応えられるとはいえない状況です。

 

想像していただきたいのですが、仮にここ数年の間に原材料価格が倍になったとして、銀行が彼等の取引を支えるために融資枠を倍に増やすでしょうか? 恐らくすぐには難しいでしょう。ここに大きなギャップがあります。

 

また、大手銀行の多くは規制資本の積み増し、マネロン対応の強化、それらに関連する間接費や人件費の増加から、収益性の低い貿易金融へのリソースを割きづらい環境におかれています。こうした複合的な要因もあり、貿易金融サービスを使う輸出入業者は銀行にすべてを頼るわけにはいかないという事情があるのです。

 

幾田 貿易業者にとって、銀行からの融資枠では資金が足りないという状況は、昔からあったのでしょうか?

 

ジェフリー この傾向は最近特に顕著であると感じています。トランス・アジアの融資先の多くは既存の取引銀行から融資枠を使い切り、銀行の代わりにお金を貸してくれる先を探している業者です。

 

そういった融資先の目から見れば、トランス・アジアはさしずめビジネスの成長によって必要となる運転資金の代替調達先、もしくは銀行より柔軟性と臨機応変性を持った資金調達源として映っているのだと思います。

 

幾田 審査基準に関して、銀行よりもリスク管理が甘くなってしまうことは考えられませんか?

 

ジェフリー 銀行が株主をはじめとするステークホルダーに対して利益を還元する努力を行うのと同様に、トランス・アジアは投資家に約束したリスク・リターン要件を満たすために、かなりの時間と手間とコネクションを使って、融資を行う取引に対して入念な審査を行います。

 

これは、何千もの借り手に対して同じような審査を行う銀行と比べ、トランス・アジアは80〜90程度の比較的少数の借り手を管理しているからこそ可能なことなのです。 

 

 

 

ジェフリー・チャンドラ

TransAsia Private Capital(トランス・アジア・リミテッド) 共同創業パートナー

 

幾田 朋彦

Nippon Wealth Limited, a Restricted Licence Bank(NWB/日本ウェルス) ダイレクター

TransAsia Private Capital(トランス・アジア・リミテッド) 共同創業パートナー

1998年から2013年まで、預り資産規模で15億米ドル、23年以上の実績を誇るアジア最大かつ先駆的なアジアの債券マネージャーの1つであるインカム・パートナーズ・アセット・マネジメント社の元パートナーとして アジア債券市場(プライベート・デット、スペシャル・シチュエーション、その他債券型ヘッジファンド戦略を含む)の運用を手掛ける。同社の前はINGベアリングスやチェース銀行の投資銀行部門にて当時のアジア地域ではまだ珍しかったハイイールド債券の組成に従事。1991年に米国バークレー校を卒業。2001年からCFA協会認定証券アナリストの資格を保有。 

著者紹介

Nippon Wealth Limited, a Restricted Licence Bank(NWB/日本ウェルス) ダイレクター

2006年より三菱UFJモルガン・スタンレー証券(入社当時は三菱UFJ証券)にてリテール営業、株式、仕組債、商品戦略等の幅広い業務に従事。2011年から2012年にはニューヨークのモルガン・スタンレー・ウェルスマネジメント(当時はモルガン・スタンレー・スミス・バーニー)でマネージド・アカウントをはじめとする米国の富裕層ビジネスの現場で経験を積む。2014年、現職であるNippon Wealth Limitedの商品およびビジネスデベロップメントの責任者として就任。国際基督教大学卒。
WEBサイト https://jp.www.nipponwealth.com/

著者紹介

連載オルタナティブ投資のジャンルで注目集める「貿易金融ファンド」の最新事情

本稿は、情報提供を目的として、インタビュー時点での経済データ等をもとに個人的な見解を述べたもので、TransAsia Private CapitalおよびNWBとしての公式見解ではありません。また、特定の金融商品への投資の勧誘を目的とするものではありません。

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