リーマン・ショックのさなかに誕生したBitcoin
クリプト(暗号通貨・仮想通貨)と聞くと、どのようなキーワードを連想しますか? Googleのサーチバーで「仮想通貨」と入力すると、「税金」「チャート」というキーワード候補が表示されます。両方とも利益や値動きに関連したキーワードですね。多くの人の関心は、クリプトの価格にあることが読み取れます。
しかし、きっかけは何であれ(金銭的な利益とか…)、多くの人がクリプトの存在を知り、現在の金融システムに疑問を持つことは非常にいいことだと思っています。
Bitcoinは2008年に起きたリーマン・ショックのさなかに生まれました。人々を裏切り、人々から富を奪い取っている既存の金融システムに対抗する手段、お金のやりとりの自由を取り戻す手段としてBitcoinは生まれたのです。
その証拠に発案者のサトシナカモトはBitcoinの最初のブロック(ジェネシス・ブロック)に次のメッセージを残しています。
"The Times 03/Jan/2009 Chancellor on brink of second bailout for banks"
("財務大臣、二度目の銀行救済の瀬戸際に立たされる")
これは2009年1月3日のイギリスの新聞『タイムズ』(The Times)の見出しに使われた文言でした。
後世に二度と同じ過ちを起こさないように、強烈なメッセージを残しているように思えてなりません。
しかし、日常的な決済や貯蓄を法定通貨で行うことが当たり前になっている現代、これを別のシステムに移行するのはなかなか大変です。リーマン・ショック級の金融危機が再び起こるか(ショック療法)、あるいはクリプトを持つことに圧倒的なインセンティブが出ることが必要だと、筆者は考えます。
そういう意味で、クリプトの強烈な値動きに熱狂することがきっかけだったとしても、1人でも多くのクリプトユーザーが増えることは、クリプトにとって、そして人類にとって重要なことだと思っています。
前置きが長くなってしまいましたが、クリプトを持つインセンティブの1つとして、一般的には値上がりによる運用益、すなわちキャピタルゲインが注目されます。
Bitcoinの2017年のリターンは脅威の1318%だったので無理もありません。
クリプト建てで「インカムゲイン」を手に入れる方法
キャピタルゲインが注目されがちなクリプトですが、クリプトのなかには、保有することで収入が発生するものもあります。いわゆるインカムゲインで従来の金融商品であれば利息や配当がこれにあたります。クリプト建てで見たときには、非常に利回りの高いものもあります(注意:あくまでもクリプト建てというところが注意点です。法定通貨建てで見た場合は価格変動リスクにさらされます)。
これは、クリプトの未来に可能性を感じている人にとって、非常に有効なクリプト残高の増やし方です。その方法を、いくつか紹介しましょう。
①ハードフォークによって誕生する新コインを入手する
Bitcoinのハードフォークにより、新コインが発生する場合があります。ハードフォーク時点でオリジナルチェーンにおいてBitcoinを保有している人には、同数の新コインが付与されるケースが一般的です。
これは2017年に流行った現象で8月1日にBitcoin Cashが誕生してから、Bitcoin Gold、Super Bitcoinなど多くの新コインが発生しました。
ただしBitcoin Cashを除き、ハードフォークによって発生した新コインはどれも今のところ成功しているとはいえず、昔ほどは注目されていません。
また、マイナーなコインによってはウォレットなどが対応しておらず、新コインを入手すること自体がそもそも大変なことがあります。
②EthereumやEOSなどのプラットフォーム系クリプトを保有し、エアドロップによる新コインを入手する
EthereumやEOSなどのプラットフォームを使って新サービスをリリースしようとする場合、既存のEtherやEOS保有者に新サービスのトークンが付与、つなわち「エアドロップ」されることがあります。
新サービスのトークンが広く行きわたることが宣伝となり、アドプションを加速化させることに狙いがあります。
たとえばEtherではOmiseGoが、EOSではeosDACなどがエアドロップされました。
EtherやEOSなどのプラットフォーム系は当面拡大を推し進めるステージにあるので、エアドロップには今後も期待できると思います。
③応援するクリプトのノードを運用し、コインを入手する
ノードとはクリプトの根幹となるソフトウェアのことで、一般的にはサーバーにソフトウェアをインストールし、ブロックチェーンの記録を保存します。
ノードの数はブロックチェーンの強度を考えるうえで一つの目安となります。
Bitcoinのノードは2018年8月10日時点で世界中に約10,000存在します。時価総額2位のEthereumのノードは約14,000あります。
Bitcoinではノードを立てたとしてもマイニングをしていなければ新しいBitcoinを得ることはできません。しかし、一部のクリプトではノードを維持する見返りとして、ブロック報酬の一部を付与するものがあります。
たとえばDASHというクリプトがその方法を採用しているクリプトとして有名です。DASHのスーパーノードの要件、ノード報酬、ROI(Return on Investment、利回り)は表のとおりです。
7.2%というと株式並みに高水準の利回りであり、魅力的です(参考:ゆうちょ銀行の10年定額貯金の金利は0.01%というクレージーな低さです)。
DASHの場合、ネックとなるのが1,000DASHを集めるコストです。2018年8月10日時点で1DASHの価格は約21,000円です。
1,000DASH = 21,000,000円となり、なかなか手が届く金額ではありません。
DASHよりも低い初期投資でノード運用が始められるクリプトに、ZENCASHがあります。ZENCASHはZCASHのフォークであるZCLASSICのフォークで2017年の5月に誕生しました。
ZCASHのフォークのフォークということから高いプライバシー技術であるzk-snarksを装備しています。その技術を送金だけでなく、メッセージやメディアに対しても応用しようというプロジェクトです。
ZENCASHのノード数は2018年8月10日時点で約15,000となっており、BitcoinとEthereumのノード数を上回っています。
ICOをしていなかったり、PoWを採用していたり、Treasuryがある点などがDASHとも似ています。
ZENCASHのノードの仕組みは少し特殊で、2種類のノードが存在します。
①Super Node
②Secure Node
必要なZENの数が違うなど異なる要件があるので表にまとめました。
ZENCASHは2018年7月19日にアップグレードが行われ、ノード報酬が大幅にアップしたばかりです。
Secure NodeのROIのほうがSuper Nodeより高く計算されていますが、サーバーコストやメンテナンスを考えると、当然複数のSecure Nodeよりも一個のSuper Nodeを維持するほうが楽です。
なので長期的に見てもSecure Nodeのほうがその分ROIは高く推移すると予測していますが、乖離幅は時間とともに縮小すると予想します。
上の表でのROI計算はあくまでも2018年8月10日時点のノード数をもとに計算しています。また、Block Rewardは3年後に半減し、その後、4年ごとに半減し続ける点も注意が必要です。
今後はNode数も増えていくことが予想されるので、ZEN建てのROIもそれに応じて低下していきます。
ZENCASHのホワイトペーパー(https://zencash.com/assets/files/Zen-Application-Platform-Whitepaper.pdf)によると、将来的には2,000〜2,500のSuper Node、20,000〜25,000のSecure Nodeを想定しているようです。
このターゲット水準に1年後到達すると前提を置いた上でROIを再計算してみると、向こう1年のROIは26.8%となります。
計算過程についてはエクセルをダウンロード(https://drive.google.com/file/d/1ZXI_Qsi48jKZXYlMI7OJ3TASUlOPBKRQ/view?usp=sharing)して確認することが可能です。
法定通貨建てではなくクリプト建てであることに注意!
利回りを考えるうえで大事な注意点を1つお伝えしておきます。
ここでいう利回りはあくまでクリプト建てで計算したものになります。法定通貨建てで考えた場合は、法定通貨に対する価格変動リスクにさらされます。
クリプトの価格が上がればインカムゲインに加えてキャピタルゲインも得られるので価格変動リスクは必ずしも悪いものではありません。しかし、クリプトの価格が下がる場合は法定通貨建てで見た場合に、元本割れすることも十分考えられます。
さらに付け加えると、DASHは2014年にローンチされたクリプトで時価総額ベースでもトップ20に入るなど、クリプト業界の中では古いほうになります。しかし、ZENCASHはDASHほどの実績があるとはいえません。つまり、その分、リスクはかなり高いといえます。
元本を回収するまでは、ノード報酬を受け取るたびにBTCなどのボラティリティが相対的に低いクリプトに変える、あるいは円転する…などのリスクマネジメントも考える必要があります。
とはいえ、ROI26.8%はノード報酬としてはかなり高水準なので興味がある方はDYOR(Do Your Own Research、意味については過去記事『FUD、Dapps・・・暗号通貨のジャーゴン(業界用語)辞典』をどうぞ!)してみてはいかがでしょうか!?
木村 兼作
公認会計士/米国公認会計士
CFA協会認定証券アナリスト
木村公認会計士事務所 代表
Quantum Accounting 株式会社 取締役