経済成長の鍵を握る「建設業の将来展望」とは?

日本の社会と経済を支えている建設業。直近は景気回復と東京オリンピックによる官民の建設需要で空前の好業績を記録しているが、重層下請け構造や就業者の高齢化など課題も多い。本企画では、建設業界の現状と将来展望について、国土交通省建設流通政策審議官の青木由行氏に、Tranzax株式会社代表取締役社長の小倉隆志氏がお話を伺った。最終回のテーマは、「建設業界の将来展望」についてである。

民間投資を引き出す「ストック効果」を高めるには?

小倉 最後にもう一度、日本全体の経済成長のために国土交通省としてお考えの方針、施策、今後の全体展望についてお聞かせください。

 

国土交通省 建設流通政策審議官青木由行 氏
国土交通省 建設流通政策審議官
青木由行 氏

青木 国交省としては、社会資本整備は民間投資を引き出す重要な要件だと考えています。この「ストック効果」をいかに早く、大きく、発揮できるようにするかが大切です。ストック投資については優先順位の議論もありますが、それ以上に大事なのは、なるべく早く民間投資を引き出すため、利害関係者にあらかじめ準備してもらうことです。

 

最近の例でいうと、圏央道のインター周辺に物流団地がたくさんできています。あれは、関係者の努力がうまく行ったからです。もともと圏央道の周辺は田畑が多いのですが、国交省では早め早めに開通の見通しを出してきました。こうした開通の見通しが出たらすぐ、あるいは出る前から、一部の地元市町村では農地転用の手続きを進めたり、区画整理事業に着手したりしました。インターチェンジのアクセス道路を早くつくることもそうです。

 

さらに、そういう情報を民間事業者や金融機関に渡していく。すると、以前ならストックができてから生まれた民間投資が、前倒しで出てくるようになったのです。

 

こうしたストック効果を高めるための知恵はまだまだあると思います。

「建設業働き方改革加速化プログラム」の概要


Tranzax株式会社 代表取締役社長
小倉隆志 氏
Tranzax株式会社 代表取締役社長
小倉隆志 氏

小倉 社会資本整備を進め、民間投資を誘発していくときに、やはり建設業が持続可能でなければならないですね。

 

青木 建設業自身も、これまでの下請けをどんどん増やしてきた体質から、いい意味で筋肉質へ変わる必要があります。必ずしも全体最適でなかったところを直視し、会社経営の面でも効率化を進めてほしいと思います。

 

建設業の担い手対策については、今年3月20日に「建設業働き方改革加速化プログラム」を公表しました。10年後を見据えて、足元から構造改革に取り組むためのプログラムです。
具体的には、長時間労働の是正、給与・社会保険、生産性向上の3分野においてかなり具体的な、私たちなりに思い切った施策を打ったつもりです。

 

例えば、建設業ではまだ週休2日の現場はほとんどありません。そこで一昨年からモデル現場をつくることにしました。建設業の技能者には日給で月給が決まる「日給月給」という慣習があり、機械的に週休2日にすると、手取りが減ってしまいます。しかし、モデル現場をつくってやってみると、週休2日の現場は、他の現場と比べると平均5%ほど給料を上げていることが確認できました。

 

公共工事で働いている技能者には、手待ちの時間もあり、実際には平均4週6休くらいになっています。労務費の5%のアップで手取りはほぼ変わらない人件費が確保できると試算しています。我々も週休2日制をやると決めた現場には、通常の労務費をはじめから5%乗せるようにしています。

 

元請けに対しては業界団体を通じ、それがしっかり下請けの賃金に反映されるようにしてほしいと要請しています。

 

小倉 着実に取り組みを進めていらっしゃるわけですね。

 

青木 ほかにも、我々なりに目の前でできる思い切ったカードを切りました。これに呼応して、事業者団体や個別企業にアクションを起こしてほしいと大臣から要請もしました。
この夏には、その結果を持ち寄る予定です。我々が今回切ったカードの中には、技能者のキャリアアップシステムを公共事業の入札の際の総合評価にどう結び付けるかといった検討事項もたくさんあります。我々も夏までに、どこまで答えを出せるか、宿題を一生懸命やっているところです。

 

全体の構造を変える期限はあと10年です。あまり時間がありません。まず、目の前のアクションから始めるべく、行政としてできるカードを切っていく。事業者団体、個別企業にも、自分たちでアクションを起こしてほしい。我々の動きに呼応していただくとともに、これをやりたい、やるべきだということも言っていただけたら、我々も対応します。

 

さらに、先ほども言いましたが、従来の建設業だけでなく、「ラージ建設業」の方々にもどんどん戦線に加わってもらい、対話を重ねながらぜひ、上のレベルを目指したいと思っています。

 

小倉 今日のお話からは、建設業が大いに盛り上がり、危機を乗り越えていく見取り図が見えたように思います。ありがとうございました。

 

国土交通省 建設流通政策審議官

1962年12月生まれ。山口県出身。1986年東大法学部卒、建設省採用。国交省大臣官房付(兼)復興庁統括官付参事官、土地・建設産業局建設業課長、総合政策局政策課長、道路局次長を経て、2017年7月より現職。

著者紹介

Tranzax株式会社 代表取締役社長

一橋大学卒業後、野村證券に入社。金融法人部リレーションシップマネージャーとして、ストラクチャード・ファイナンス並びに大型案件の立案から実行まで手掛ける。主計部では経営計画を担当。経営改革プロジェクトを推進し、事業再構築にも取り組んだ。2004年4月にエフエム東京執行役員経営企画局長に。同年10月には放送と通信の融合に向けて、モバイルIT上場企業のジグノシステムを買収。2007年4月にはCSK-IS執行役員就任。福岡市のデジタル放送実証実験、電子記録債権に関する研究開発に取り組んだ。2009年に日本電子記録債権研究所(現Tranzax)を設立。

著者紹介

連載国土交通省・建設流通政策審議官に聞く「建設業」の現状と将来展望

取材・文/古井一匡 撮影/永井浩 ※本インタビューは、2018年4月9日に収録したものです。