昨年12月に下請取引に関するルールが改正された。下請法の運用基準の改正に伴い、優越的地位にある親事業者の違反事例が細かく併記され、下請中小企業振興法の振興基準の改正により、下請事業者の生産性向上や賃上げに向けて、親事業者が協力態勢を整えることが定められた。
さらに50年ぶりとなる「下請代金支払条件に関する通達」により、原則、下請代金については現金払いとし、手形で支払う場合には割引料等を親事業者が負担することも定められた。大きくルールが変わるなかで、中小企業を取り巻く決済環境にはどのような課題があるのか・・・。
下請事業者が資金繰りに苦労する理由
――公正取引委員会からの要請により、親事業者の下請受事業者に対する支払いを「現金払い」が望ましいとされました。事業者間の決済プラットフォームを提供する企業として、この改正をどのように見られていますか?
小倉 下請法では下請代金の給付は納入日から60日以内と定められています。下請事業者が納品したら、60日以内に支払いなさいと法律で定められているのです。ただ、親事業者は支払いの際には、手形を利用することが少なくありません。その手形のサイトは繊維業なら90日以内、その他の業種ならば120日以内と定められている。
親事業者が製品を受け取って月末に締め、翌月末に120日後に落とせる手形を振り出したとしたら、下請事業者は半年待たないと満額を受領できません。これでは、下請事業者が資金繰りに苦労するのも仕方がありません。ですから、原則として現金支払いとすると定めたことは素晴らしいことだと思います。
――振り出された手形は、金融機関に持っていけば、現金化することが可能ですよね?
小倉 もちろん、そうです。ただ、支払期日前の手形を金融機関に買い取ってもらう際には、利息や手数料を割り引かれてしまいます。金融機関によってまちまちですが、手数料は千円前後。問題は割り引かれる利息です。振り出した親事業者のクレジット(信用)によって利息が決定されそうなものですが、実際には手形を持ち込んできた下請事業者のクレジットによって決定されるのです。
その利息は一般に金融機関が中小企業に融資する際の金利の指標となる短期プライムレート(1.475%)+α。この「α」の部分がクレジットによって変動して、だいたい1~2%といったところ。つまり、下手をすると3.5%も割り引かれてしまうのです。額面1億円の手形だとすると、120日間で9,885万円になってしまう。割り引かれた115万円は一般に、下請事業者の負担でした。今回の公正取引委員会の要請により、手形支払いの場合は親事業者が割引の利息を負担することが望ましいとされましたが、大企業にとっても利息の負担は小さなものではありません。
年々「手形の交換高」は減少しているが・・・
――そうなると、原則として現金払いとすることは親事業者や下請事業者、双方にとっても好ましいこと?
小倉 それが一概にそうとも言えない面があるのです。先ほど話したとおり、利息負担が大きいという要因もあり、年々、手形の交換高は減少しています。1990年のピーク時には4,797兆円あった交換高は、昨年には424兆円まで減少している。26年で10分の1以下になっているのです。全銀協(全国銀行協会)の発表だけでは確かなことは言えませんが、その交換高減少の背景にあるのは大企業の振り出す手形が減った影響が大きいと考えています。
実際、トヨタ自動車などの日本を代表する企業は、高コストの手形支払いをやめています。一般には大企業が振り出した手形を中小企業が受け取って、それを現金化するために金融機関に持ち込む……と想像されがちですが、実際には、中堅・中小企業が取引先の中小企業への支払いの際に、手形を振り出すケースのほうが相対的に多くなっていると感じているわけです。
今回の公正取引委員会の要請では中小企業は対象になっていないのかもしれませんが、「手形での支払いはやめて、現金で支払いましょう」という指導は、かなりの確率で中小企業同士の決済にも大きな影響を及ぼすと考えています。なぜなら、大企業が公正取引委員会の要請に伴い、一切の手形支払いを止めたとしましょう。そんな大企業が利用しない決済手段を、誰が信用しますか? 手形そのものが“怪しい決済手段”と思われるようになる可能性がある。そうなれば、資金繰りに困っている中小企業も手形が振り出せなくなってしまいます。