建設業界の「担い手確保」「生産性向上」への取り組みとは?

日本の社会と経済を支えている建設業。直近は景気回復と東京オリンピックによる官民の建設需要で空前の好業績を記録しているが、重層下請け構造や就業者の高齢化など課題も多い。本企画では、建設業界の現状と将来展望について、国土交通省建設流通政策審議官の青木由行氏に、Tranzax株式会社代表取締役社長の小倉隆志氏がお話を伺った。第2回目のテーマは、建設業の「担い手確保」「生産性向上」への取り組みについてである。

ここ数年で大きく改善された社会保険への加入率

小倉 人手が足りないのは、我々ITベンチャーも同じです。そういう中で、働く人を増やすには魅力ある職場づくりが大事かと思います。建設業界ではどのような取り組みをされているのでしょうか。

 

国土交通省
建設流通政策審議官 青木 由行 氏
国土交通省 建設流通政策審議官
青木由行 氏

青木 まず、処遇改善をしっかりやることです。他産業と比較しても依然として低いレベルの給与水準を引き上げ、そして、キャリアを重ねるにつれて資格や経験にふさわしい給与になっていく見通しを示すことが重要です。

 

ここ数年で大きく改善されたのが社会保険への加入率です。長年分かっているけど手が付けられないといわれていましたが、現在は企業ベースでの加入率は約97%になっています。業界全体で危機感を持ってやればできるという事例だと思います。

 

また、政府を挙げて働き方改革を進めていますが、長時間労働の是正も必要です。他産業では常識になっている週休2日もまだまだできていません。さらに、スキルをどのように身に付けてもらうか。昔のように背中を見て覚えろ、では効率が悪すぎます。スキルを身に付けるための合理的な仕組みも必要でしょう。

 

こうした問題を解決していくため、カギを握るのが生産性の向上です。生産性の向上をもっと強力に推し進めるべく、ICT(Information and Communications Technology)の活用がキーワードになってきています。

 

小倉 具体的にはどのような取り組みがありますか。

 

青木 分かりやすいところでいえば、ドローンを利用した3次元測量や無人の土工機械の活用などを進めています。また、建設工事は発注から始まって調査、設計、工事といった工程があり、多くの企業と人員、資材が必要になります。ICTを使ってそのプロセスを合理化し、コストダウンやスピードアップなどにつなげることも、生産性の向上につながります。そういう意味では、アナログのところでも伸びしろはまだまだあると思っています。

 

ただ、担い手確保にしろ生産性向上にしろ、企業として一定の投資が必要になります。それにはある程度、安心して先行きが見通せる事業環境も大切です。インフラ整備のための公共工事だけでなく、民間工事でも事業量が安定していることが望ましい。

 

足元では公共事業の予算は安定的に推移しており、民間投資も少しずつ伸びています。こういう環境が続いているときに、担い手確保や生産性のための対策を打っておく必要があります。今のうちに、できることをやっていく。そこが大事だと思います。

「一品生産」「一品受注」という建設業の特殊性

Tranzax株式会社
代表取締役社長 小倉隆志 氏
Tranzax株式会社 代表取締役社長
小倉隆志 氏

小倉 データを見ると、建設業の売上高経常利益率はこれまで、製造業より継続的に低い傾向がありました。売上を増やすのは大変ですが、効率化はまだまだやれることがあるでしょうね。

 

青木 確かに建設業の利益率はかつて、製造業より低かったのですが、最近は大手ゼネコンで製造業を追い抜くケースも見られるようになっています。我々からすると、その利益をぜひ生産性向上への投資や下請けを含めた給与改善に充ててほしいと要請しているところです。

 

なお、利益率の話ですが、その前提となるビジネスモデルが建設業と製造業ではそもそも違います。そうした点も踏まえて、対応を進めることが必要かと思います。

 

小倉 具体的に、どういうことでしょうか。

 

青木 製造業はそもそも、予め需要を見込んでの工場生産が基本で、発注者と受注者の関係も継続取引が普通です。そのため、災害が起こると全国的にサプライチェーンがダウンしたりすることにもなります。それに対して、建設業は「一品生産」「一品受注」が基本です。元請けも下請けもひとつの発注を巡って競争し、受注に結び付けていかないといけない。そのため、どうしても買い手(発注者)のほうが強くなります。

 

今のように景気がよく、人手不足感があるときはまだ良いのですが、建設業は全体的に投資には慎重なところがあるのです。誤解を恐れずに言うと、買い手(発注者)の理解を得られる程度に安定的な売り手市場であるくらいのほうが、建設業全体、ひいては発注者にとっても、下請け技能者の労働力が質量ともに守られるという意味では望ましいのではないかと私は思っています。

 

小倉 なるほど。確かに製造業と違って、一品生産、一品受注というのは建設業の大きな特殊性ですね。

国土交通省 建設流通政策審議官

1962年12月生まれ。山口県出身。1986年東大法学部卒、建設省採用。国交省大臣官房付(兼)復興庁統括官付参事官、土地・建設産業局建設業課長、総合政策局政策課長、道路局次長を経て、2017年7月より現職。

著者紹介

Tranzax株式会社 代表取締役社長

一橋大学卒業後、野村證券に入社。金融法人部リレーションシップマネージャーとして、ストラクチャード・ファイナンス並びに大型案件の立案から実行まで手掛ける。主計部では経営計画を担当。経営改革プロジェクトを推進し、事業再構築にも取り組んだ。2004年4月にエフエム東京執行役員経営企画局長に。同年10月には放送と通信の融合に向けて、モバイルIT上場企業のジグノシステムを買収。2007年4月にはCSK-IS執行役員就任。福岡市のデジタル放送実証実験、電子記録債権に関する研究開発に取り組んだ。2009年に日本電子記録債権研究所(現Tranzax)を設立。

著者紹介

連載国土交通省・建設流通政策審議官に聞く「建設業」の現状と将来展望

取材・文/古井一匡 撮影/永井浩 ※本インタビューは、2018年4月9日に収録したものです。