日本の社会と経済を支えている建設業。直近は景気回復と東京オリンピックによる官民の建設需要で空前の好業績を記録しているが、重層下請け構造や就業者の高齢化など課題も多い。本企画では、建設業界の現状と将来展望について、国土交通省建設流通政策審議官の青木由行氏に、Tranzax株式会社代表取締役社長の小倉隆志氏がお話を伺った。第4回目のテーマは、建設業界の「重層下請け構造」の変化についてである。

建設業界で「外注」が増えてしまう理由とは?

小倉 建設業というと以前から、元請けの大手建設会社が頂点にいて、その下に何層にもわたって中小の建設会社がぶらさがる重層下請け構造が問題視されてきました。いま元請け、下請けの関係はどのようになっているのでしょうか。

 

国土交通省
建設流通政策審議官 青木 由行 氏
国土交通省 建設流通政策審議官
青木由行 氏

青木 実はかつては、スーパーゼネコンも「直用」といって、技能者(職人)を自ら雇っていました。ところが時がたつにつれ、どんどん下請けへの外注化が進みました。現在は一次下請けクラスでも、技術者はいますが技能者を雇っていない会社が多いのです。

 

こういう状況になった背景のひとつは、技術が専門分化したことです。それぞれの技術に特化した会社が増えるのはある意味、自然なことです。問題なのは、事業量の変化の安全弁として下請けを使うようになったことです。特に、バブル崩壊やリーマンショック等景気が悪化し、事業量が減少するたびにさらに重層化が進みました。建設工事は一品発注なので施主が決意して初めて仕事が始まります。継続的取引ではないので、受注者側が仕事をコントロールするのは難しい。そこで、正社員は最低限に抑えて、事業の不安定さを外注でカバーしようということになる。こうして重層下請け構造が広がってきたのだと思います。

 

その結果、気が付くと一つの工事現場にたくさんの会社が入っている。下に行けば行くほど会社の規模が小さくなり、社数も増えます。そして、どんな小さな会社でも販管費や営業費がかかる。今は、二次下請け、三次下請けもそれぞれ仕事を見つけるための受注活動をしなければなりません。そのしわ寄せが、末端で手を動かしている技能者のところに来ていることは否めません。建設業全体としてみて生産性、効率性を落としている可能性もあります。しかし、おそらく今後、潮目が変わると思っています。人手不足への懸念が深刻に言われている中、直用を復活させていく可能性があるのではないか。

 

地方で堤防などの公共事業をメインにしている元請けの建設会社のケースですが、現場の管理者に一日単位で工程管理表を作らせるようにしたそうです。すると、ここが遅れると工事全体が加速度的に遅れるクリティカルパスが明確になった。その会社は直用部隊を抱えているので、クリティカルパスのところでは他の現場から人を一時的に回してでも確実に乗り切るようにしたら、それまで5%くらいだった粗利が2割にまで増えたといいます。

 

下請け頼みで現場を動かしていると、こうした柔軟な人員配置は難しいでしょう。そういう意味で、直用のメリットが注目されてくるのではないかと思いますし、実際、少しずつですがスーパーゼネコンなどの中でも動きが出てきているようです。世の中全体で人手不足が深刻化し、ICT技術の活用も広がり、下請け重層構造が大きく変わる条件が揃ってきているのではないでしょうか。

一番技術のあるところが元請けになれば・・・

Tranzax株式会社 代表取締役社長
小倉隆志 氏
Tranzax株式会社 代表取締役社長
小倉隆志 氏

小倉 建設会社の人に元請けと下請けの違いを聞くと、一番分かりやすい答えが資金力の違いということです。公共工事は違いますが、民間工事ではいわゆる「テン・テン・パー(手付金10%、中間金10%、竣工後80%)」の支払い条件でもよい方です。大規模ショッピングセンターや大手の工場建設では、手付金も中間金もなく、さらに竣工引き渡しから半年後とか、支払い条件が非常に悪いと聞きます。

 

そういう支払い条件に耐えられるところでないと元請けになれない。資金力がないと、いくら技術力があっても元請けにはなれない。そして資金力がなければないほど、二次下請け、三次下請けと下の方へ行くことになるようです。

 

青木 以前、ある民間の大型プロジェクトに関わったときのことですが、発注者であるSPC(特定目的会社)はキャッシュフローをとても気にしていました。工事費について、いつ資金需要が発生し、その資金をどこから引っ張ってくるかということを詳細に検討するのです。

 

しかし、発注者のSPCだけでプロジェクトが成立するわけではありません。建設を請け負う元請け、その下請け、資材や部材を納入する企業などを含めてプロジェクトが構成されています。自分のキャッシュフローだけを見るのではなく、プロジェクト全体としての資金調達コストを下げ、プロジェクト全体として質を確保し、スピードを上げるにはどうすればいいのか。そういうことを考えるべきではないかということです。大切なことは、一番技術のあるところが元請けになり、発注者と協力していいモノをスピーディにつくるということだと思います。

取材・文/古井一匡 撮影/永井浩 ※本インタビューは、2018年4月9日に収録したものです。