コンセンサスがまったくない、アルツハイマー病の原因
私たちの研究から言えることはこうだ。誰もアルツハイマー病で死んではならない。
もう一度言わせてもらう。誰1人として、アルツハイマー病で死んではならない。
これを実現させるには、医師だけでなく患者も、20世紀の医学から21世紀の医学へアップデートして生活し、自分たちの認知機能と健康全般について、予防する必要がある。
医学書は私情をはさまず、専門家の論文審査を受けて承認された「事実」の客観的解説でなくてはならないが、完璧に客観的ではいられないことを大目に見ていただきたい。
歴史が繰り返し証明してきたように、私たち医師が生物医科学コミュニティーとして承認し、支持し、絶対的真理だと広めてきた事実が、最終的には間違っていたことが往々にしてあった(新生児は痛みを感じない、胃潰瘍はストレスから生じる、ホルモン補充療法を更年期女性に行えば、心臓病を予防できる―など)。神経変性疾患の領域は、このように繰り返し墜落し炎上する独断的な自己主張と無縁ではいられなかったのだ。
どの専門家に質問するか、いつ尋たずねるかにより、アルツハイマー病の原因は、フリーラジカル[電子が、安定したペアの状態ではなく、ひとつだけの不対電子を持つため、物質から電子を奪い取ろうとする性質を持った原子や分子]、重金属の結合、異常な折りたたみ構造のタンパク質、脳の糖尿病、タウタンパク質、洗浄様作用…ときりがない。
コンセンサスがまったくないのだ。さらに、現在の仮説には、5万本以上の公表論文に掲載された既報の全データを説明するものが、ひとつとしてない。アルツハイマー病が今生きている3億2500万人のアメリカ人から4500万人分の命を奪おうとしていても不思議ではないだろう。
だからこそ、私はとても熱い思いを抱いている。この原因、この病気、背景にある神経変性プロセス、あまりにも単純なアプローチの数々、決定事項の政治的・財政的本質、そして亡くなっていく何百万もの人々に対して。
医師の感情と情熱が「医療上の決定」に影響を及ぼす
医師というものは、感情と情熱を持つことで自分が客観性を失い、医療上の決定に影響が出かもしれないと不安になる。それはもっともな心配だ。
しかし、アルツハイマー病領域を追いかけていると、胸が張り裂けるような思いと絶望を誰もが目にするので、むしろ逆に冷静すぎることのほうが日々の決断に影響している、という思いに行き着くはずだ。
学会として、私たちは認知症の悲劇に麻痺したのか。全力を尽くすことを断念したのか。
心臓バイパス、抗生物質、血漿交換法、義肢、幹細胞、臓器移植を開発してきた、同じ科学の天才が、アルツハイマー病に対しては無力だと思い込んでいるのか。
科学者かつ臨床医として、一粒の薬と万人に効くアプローチにのみ、焦点を絞るのか。
そして、アルツハイマー病に対しては医学的定説の囚われ人となって、何度でも失敗を繰り返すのか。
そうではないことを願う。必要が真に発明の母ならば、情熱こそ、その父ではないだろうか。