自社株式の前渡しに使える「相続時精算課税制度」
生前贈与は、オーナー社長が生きているうちに、できるだけ多くの株式を後継者に贈与しておき、相続時に課税対象になる財産をできるだけ減らしておくことで、事業承継がしやすくなります。
「暦年贈与もいいが、自社株式をもう少し効率よく後継者に渡す方法はないものだろうか?」――こうした要望に応える生前贈与の方法が、「相続時精算課税制度」です。
相続時精算課税制度は、若い世代への資産の移転を推し進め、経済の活性化を図る目的で創設された制度です。実質的には、生前贈与で後継者に「自社株式の前渡し」という事業承継をスムーズに進める目的にも合致しています。
暦年贈与の制度とは異なり、誰もが使えるわけではありません。65歳以上の親から20歳以上の子ども(子どもが亡くなっている場合は、20歳以上の孫を含む)に対してのみ、この制度を利用することができます。また一度相続時精算課税制度を選ぶと、後で暦年贈与の制度に戻ることはできません。
覚えておきたい相続時精算課税制度のルール
基本的な仕組みは、生前贈与時に一定枠の自社株式については非課税として贈与税が免税され、後に実際に相続が発生したときに、相続税と合算して課税されます。
また、暦年贈与において不動産の贈与に関する「贈与税の配偶者控除の特例」があったように、相続時精算課税制度にも「住宅取得等資金の贈与に係る相続時精算課税制度の特例」という特例制度があります。
つまり、相続時精算課税制度を使った生前贈与は、土地・建物などの不動産を承継する場合にも有効となり、マイホームやその取得資金を贈与する場合も、相続時精算課税制度が利用できます。住宅取得等資金の贈与に係る贈与税の特例は、一般的な住宅のケースでは2500万円に上乗せして最大3500万円~4000万円まで課税なしで贈与することができる場合もあります。
相続時精算課税制度には、いくつか重要なルールがありますので、最後にまとめておきます。
①暦年贈与から相続時精算課税制度に変えることはできるが、
相続時精算課税制度から暦年贈与に戻ることはできない
②相続時精算課税は非課税枠の2500万円までなら、繰り返し使える
相続時精算課税制度による贈与を行い、その後相続が発生したときは、
贈与分も含めすべてが相続税の対象になる
相続時精算課税制度を利用して株式を承継する場合は、これらの点に十分留意して計画を立ててください。次回は、事業承継対策における相続時精算課税制度の魅力について、より詳しく見ていきます。