準備期間が少なければ、それだけ課題解決は難しくなる
「業績が好調なうちに、思い切って会社を息子に譲ることにしたよ」
「退職金をたんまりもらって、妻とハワイにしばらく住んでみようかってね」
「ついこの間、ウチも税理士先生に事業承継のことを相談したばかりだよ」
経営セミナーや講演会、所属する経営組織の定例会議などに参加すると、顔なじみの中小企業の社長や同世代の経営者たちから、「事業承継」に関する話題を耳にすることはないでしょうか。
事業承継はどこの会社にも必ず起こること。ところが、多くのオーナー社長は、その本当のリスクや難解な課題に気づいていません。
事業承継は、準備期間が少なければ少ないほど課題のハードルは高くなります。そして、実際に事業承継の時期を迎えるときになって、「もう少し早く事業承継に着手しておけばよかった」「まさか自分の会社でこんなトラブルが起きるとは思わなかった」と、多くの経営者が嘆くことになるのです。
「会社は株主のもの」ゆえに「事業承継は株式対策」
難しさに気づくのに時間がかかる要因の一つには、「会社は誰のものか」ということを十分に理解していないことが挙げられます。
「会社は株主のもの」――。これこそが唯一の明快な答えです。
会社の重要事項をはじめ、代表者や役員を決定する権利があるのは、社長でも社員でもなく、株主で構成される株主総会においてです。そして、株主総会でもっとも発言力があり、決定権をもつのが、自社株式をもっとも多く占有する大株主です。これは上場会社でも非上場会社でもまったく変わりません。
後継者は会社の経営権だけでなく、多くの株式を引き継ぐことになるため、贈与税や相続税など多額の税金を払う必要が出てきます。会社の業績が好調であればあるほど、税負担も重くなります。
もちろん、オーナー社長の財産は自社株式だけではありません。会社に貸している土地・建物の不動産や、社債や有価証券も財産ですが、それでも株式が一番多額になります。
それならば引き継ぐ株式数を抑えればいいと考えがちですが、そうすれば株主としての力が弱まり、後継者の経営権はスタートから不安定な要素を抱えることになります。税金問題と経営権集中の問題はリンクしています。
これらの事情を突き詰めていえば、「事業承継とは株式対策」――。このひと言に尽きるのです。本連載の最大の目的は、株価対策を通じて、非上場会社のオーナーの皆さんが後継者にスムーズに会社を引き継ぐことができるようにすることです。
次回から、自社株価をどのようにコントロールし、どうすれば事業承継のタイミングに合わせて最大限引き下げられるかを、ポイントを絞って解説していきます。