過剰生産能力が著しい「鉄鋼・セメント・石炭」産業
2017年1〜9月全産業設備利用率は76.6%、前年同期比3.5%ポイント上昇した(国家統計局、図表1)。
過剰生産能力が著しい3大産業について、当局および各業界の情報によると(11月14日付人民網、財経頻道他)、鉄鋼は2010年設備利用率79%が15年70%まで低下した後、17年7〜9月76.7%、年末には78%にまで回復すると予想されている。セメントは12年73%から17年上期66%にまで悪化、石炭は12年84%から16年62%に悪化した後、17年7〜9月69%にまで回復した(図表2)。通常業界では利用率70%未満が重度、70〜75%が中度の能力過剰と見られている。
[図表1]全産業設備利用率(%)
[図表2]過剰生産能力を抱える産業の設備利用率(%)
順調に見える「去産能」だが、いくつか留意点も
発展改革委員会は17年の過剰生産能力解消(去産能)目標として、鉄鋼5千万トン前後、石炭1.5億トン以上、また6月末までに鉄スクラップを原料にした粗悪な鋼鉄生産(地条鋼)を法に基づき停止していく方針を示している。
鉄鋼は9月までに目標を達成(発改委)、地域別に見ると、天津、河北、山西、黒龍江など12の省市区が中央国有企業と協力して粗鋼生産圧縮計画を策定、5月までに広東、四川、雲南が年度目標を完了した。
さらに、27の省区が地条鋼生産企業の取締りを行い、発改委の8つの監督チームが各地の地条鋼を査察し、6月までに1.1億トン以上の生産を停止した(9月8日付人民日報、8月29日付証券日報他)。また、石炭も7月までに目標の85%(1.28億トン)を達成(中国石炭工業協会)、内蒙古、遼寧、江西等多くの地域が第3四半期までに目標を期限前に達成した他、山西や江西では自らさらに目標を引き上げる動きも見られるという(10月19日付証券日報)。去産能は順調に進んでいるように見えるが、いくつか留意しておくべき点がある。
①16年、鉄鋼は4500万トン削減目標に対し、実績は8500万トンで表面上超過達成だったが、73%は既に閉鎖されていたもので、実質削減は2300万トン。さらに5400万トンが設備再稼働、1200万トンが新規稼働(2月14日付大紀元)。結局4千万トン以上の純増でこれが16年下期の生産増に対応した(2月14日付大紀元)。削減額を額面通りに受け取ることは危険だ。
②02年、発改委は期限を切って地条鋼を淘汰するとの今回と全く同じ方針を発表したが、その後15年間、全国で年間約1億トン、特に江蘇では63の企業で年間1233万トンの生産が続いてきた。企業が地方役人と結託し偽ブランドを付けた地条鋼を建設現場に売り込み巨額の利益を得、国内需要が落ちると、輸出の際の税還付を利用して、海外に安価な地条鋼を売る構図が続いており、「死灰復燃」、一旦収まっても再燃すると言われてきたものだ(6月21日付大紀元、9月8日付証券時報)。
③鉄鋼、石炭、セメントは何れも去産能が進むに伴い価格が回復(17年1〜10月、鉄鋼、石炭価格の前年同期比は各々30%、34%上昇、セメント価格指数も1〜10月約15%上昇、国家統計局、水泥網)、これが去産能の勢いを削ぐ恐れがある。実際、「去産能は価格シグナルに注意を払うべき」との主張が出てきた(8月17日付財新網)。上記①増産も価格上昇が引き金だ。発改委は最近、「価格上昇は複合的要因に依るもので、過剰生産能力はなお厳然としてある。去産能方針が揺らぐことがあってはならない」と述べ(7月13日付中国経済導報)、特に石炭について価格統制を強めているのはそうした懸念の裏返しだ。
④実際、鉄鋼、石炭とも価格回復を受け、増産の兆しが顕著。石炭主要産地の山西、陝西、内蒙古は17年8月、設備更新で年間計5億トンの増産を発表、うち2億トンはすでに稼働体制にある(8月11日付貨夏時報)。鉄鋼については、昨年末、宝鋼集団と武漢鋼鉄集団が合併し誕生した国内第1、世界第2位の国有鉄鋼メーカー、宝武鋼鉄集団が17年9月、年間粗鋼生産量を現在の6000万トンから1億トンに増やす方針を明らかにしている(9月20日付地元報道)。
⑤中小民間企業が設備老朽化、環境問題などで淘汰され、国有大企業へ吸収、市場の寡占化が進んでいる。政策的にもそうした寡占化を後押しする動きがある。上記④、鉄鋼での大型合併の他、セメント産業でも合併で大型国有企業が誕生、政府の強い影響下にある中国セメント協会は、2020年までに合併を通じ、上位10社の市場シェアを42%(16年)から60%にまで高めていく目標を掲げている。石炭にも同様の寡占化傾向が見られる。