▼再び、大劇場
黒エルフ「グーテンベルクさんの発明は、新しい産業を作ったのかもしれないわね」
女騎士「新しい産業?」
司祭補「どういうことでしょう」
黒エルフ「これまでは、書籍が欲しければ行商に注文して買うしかなかった。一冊ずつ書き写したものが納品されるのを待つしかなかった。……だけど、いつか本を専門に扱うお店が出てくるでしょう」
司祭補「肉屋や八百屋のように、本を棚に並べて売るお店ですわね」
女騎士「なるほど。『本屋』、『書店』……。きっと、そんな名前で呼ばれるのだろうな」
そばかす娘「それにしても、私の歌を詩集にして、それがベストセラーになるとは思わなかったよ。文字を読める人は少ないのに……」
黒エルフ「いいえ、当然の結果だわ。あたしは欲しがっている人のいる場所に、欲しがっているモノを持って行っただけ。売れないほうがおかしいわ」
女騎士「港町にも字を読めない人はたくさんいるはずだ」
銀行家「ええ。4人に1人は字が読めませんからね」
黒エルフ「逆に言えば4人に3人は文字を読める……。本を読むことができるわ」
幼メイド「わたしも読めるのです」
司祭補「田舎に比べれば、港町には本を欲しがる人がたくさんいらっしゃったのですね」
黒エルフ「そして、港町の一般庶民は娯楽に飢えていた」
女騎士「さらに、そばかす娘の作る歌は、旅人の心に残るほどいい歌だった」
黒エルフ「正直、あたしにはイマイチ良さが分からないけど……。だけど、それでも、人の心を掴む詩なのは間違いないわ。」
司祭補「だから庶民の方々の娯楽として、詩集が売れたのですわね」
黒エルフ「詩集の印税で、手鏡の弁償費用と、帝都までの旅費を稼ぐことができた。あなたの才能が役に立ったわね」
そばかす娘「ううん。ダークエルフさんたちのおかげだよ! 私1人じゃ、とてもここまで来られなかった」
黒エルフ「あたしは特別なことはしてないわ。やるべきことをやっただけ」
そばかす娘「でも──」
黒エルフ「ていうか、このくらい朝飯前よ。正しい帳簿さえあれば、あたしは世界だって救ってみせるんだから」
女騎士「ほう、お前が照れ隠しとは珍しいな」
黒エルフ「なっ///」
司祭補「あらあら、うふふ。顔が真っ赤ですわ」
黒エルフ「ち、違っ……///」
そばかす娘 くすっ
そばかす娘「みんな、ありがと。みんなのおかげで私は分かったよ……」
女騎士「いったい何が分かったのだ?」
幼メイド「売れる本の作り方でしょうか~?」
黒エルフ「商売の基本かしら?」
そばかす娘「ううん、違うよ」
司祭補「?」
そばかす娘「私、分かったんだ。お金は鋳造された自由だってことが」
女騎士「鋳造された自由」
そばかす娘「私たち農奴に自由がないのは、お金が無いからだった。お金を稼ごうという発想すら無いからだった」
女騎士・黒エルフ「……」
そばかす娘「それに、精霊教会の教えでは、お金を稼ぐのは汚いことだと言われていた」
司祭補・銀行家「……」
そばかす娘「だから私、お金の力を知らなかったんだ」
チャラ……
そばかす娘「私、やっと分かったよ。お金にはあらゆる人を平等にしてしまう力があるんだね。お金の前では、血筋も階級も関係ない。私のような卑しい身分の者を、一等席に座らせる唯一のもの。それがお金の力だよ」
女騎士「たしかにカネは、血筋がいいだけの無能な者を失脚させる……」
司祭補「とはいえ、お金のせいで貧富の差が生まれることもありますわ……?」
そばかす娘「あはは、そうかも! だけど、それでも……生まれた土地や身分に縛られるより、ずっとマシだと私は思うんだ」
銀行家「さてと、難しい話はここまでにしませんか?」
幼メイド「そろそろ、舞台の幕が上がるのです!」