公証人と相談しながら作成する「公正証書遺言」
資産家は、元気で判断力がしっかりしているうちに、遺言書を残しておくべきです。特に、公証役場にて公証人と相談しながら作成する公正証書遺言は費用も安く済むためおすすめです。
一般的な遺言書は遺言者が自ら全文・日付・氏名を記載して、捺印のうえ保管します。費用をかけずに一人で簡単に作成できる点がメリットですが、知識不足のため作成内容に不備があると相続人の間でもめるケースが多いというデメリットもあるため、注意が必要です。
一方で公正証書遺言は、遺言者が希望する内容をもとに、専門家である公証人が遺言書を作成し、その原本を公証役場で保管するものです。
具体的には、公証人の面前で、自分が選んだ推定相続人・受遺者・配偶者・直系家族等以外の証人二人以上を立会人として遺言の内容を口述し、それを公証人が正確に整理・文書化して遺言者と証人が確認します。そのうえで遺言者・証人・公証人が署名捺印して作成終了します。
公証役場に原本が保管されるため、紛失や改ざんのリスクがありません。また相続発生後、直ちに執行できる点も大きなメリットです。
民事信託は「受託者」が財産管理を行う仕組み
重要性が増している「民事信託」の活用について触れておきましょう。
前述した信託銀行との付き合い方で「遺言信託」についてお伝えしました。信託の方法としては信託銀行が扱うことが今日の主流ではありますが、最近は「民事信託」も使い勝手がよいと注目が集まっています。ですから、資産家が元気なうちに、民事信託ができないかどうかを検討することもおすすめします。
信託には、信託銀行が信託業法に則して行う信託とは別に、信託業法に依らない信託もあり、それを民事信託と呼んでいます。従来、信託法として存在していた制度ですが、数年前から徐々にニーズが高まり、法整備とともに、いまは民事信託推進センターなどの社団法人なども設立され、普及が進んでいます。
ごく簡単に説明すると、信託とは「受託者が、委託者から移転された信託財産を信託契約、遺言などに基づいて信託し、その信託の目的に従って財産の管理などを行うこと」です。すなわち自分自身が財産の管理や処分を行うのではなく、受託者が行うことになります。その行為を業として行う場合には、信託業法の規定に従って行っていたわけです。
信託を行えば、その財産について委託者が持っていた所有権が、財産から生じる権利を受け取る受益権に変わり(財産権の性状の変更)、いわば委託者の所有権が受託者に移るということになります。
この信託を「営業・事業」として行うには前述のように信託業法の制約を受けて免許が必要なのですが、営利目的ではなく、反復した業務ではなく1回だけ行う場合には免許も必要ありません。すなわち信託銀行などに頼む必要もありません。
民事信託とはそのような信託のことです。自分の財産を管理してもらったり、承継してもらう際には、自分で1回、営利目的以外で頼むのであれば民事信託でよいということになります。
生前の民事信託で「節税効果」が得られるケースも
たとえば、資産家の子どもを社員とした、資産家の不動産を民事信託するためだけの法人を設立して民事信託を行えば、不動産を売買するよりも所有権の移転登記の登録免許税を大幅に減額でき、不動産の取得税もかかりません。
不動産の信託では通常の売買などの場合と比べて登録免許税や不動産取得税が非常に低くなっているのです。売買の場合の登録免許税は通常、財産の価格の2%かかるのですが、民事信託では0.4%になっています。また、売買の場合の不動産取得税については4%(土地と住宅の場合は3%)ですが、信託では課税されないのです。
これにより、たとえば土地1億円ほど、建物1億円(非住宅)ほどであれば、売買ではなく民事信託とすることによって、登録免許税、不動産取得税が1000万円規模の差額になります。要は相続の発生前にきちんと民事信託しておけば、大きな節税効果が得られるわけです。
この民事信託の委託者は資産家本人ですが、受託者や受益者は資産家の配偶者、子ども、さらに資産家本人という設定も可能です。その設定に基づいたスキームに沿って行えば、節税だけにとどまらず不動産の維持管理などについて共有より問題も起きにくく、いわゆる、「争族」の防止、資産価値の維持・向上にもつながります。
数は決して多くはないものの、民事信託を利用する資産家も徐々に増えてきました。多くは信頼できる司法書士からアドバイスを受けているようですが、私もアドバイスする例が増えています。今後の法整備の動向によって対応を微修正する必要があるかもしれませんが、資産家が「無益な家族の争いを防ぎ、税金に悩むことも少なくなり、皆が楽しくハッピーに暮らせる方法」として、ぜひ考慮に入れておくべき制度でしょう。