今回は、粗利益・営業利益がプラスなのにもかかわらず、資金繰りが苦しくなる理由を見ていきます。※本連載は、株式会社アセットアシストコンサルタントのCEO兼統括コンサルタントを務める大森雅美氏の著書、『使える! 資金繰り表の作り方』(旬報社)の中から一部を抜粋し、経営管理に有効な「資金繰り表」の活用術と作成方法を紹介します。

調整に使われやすい原価項目の数値

売上総利益(粗利)についてはパーセンテージで検討する場合が多いと思います。売上から原価を差し引いた数値が、売上に対して何パーセントなのかを検討するわけです。それは経営指標としてはよいのですが、定義がバラバラで客観性にかけるように思われます。

 

原価の中身は業種、会社の規模や会計の方針によって異なります。材料仕入がある業種では、どの会社も材料仕入は間違いなく原価の項目にすると思いますが、労務費はどうでしょう。現場や工場の社員・従業員は原価労務費(給与・法定福利費)、事務所内の社員・従業員は販売管理費の人件費(給与・法定福利費)としている会社は多いでしょう。同業種でも販売管理費の人件費として全て計上し、原価労務費を使っていない会社もあります。外注費も諸経費(管理諸費)も同様ですが、支出されるお金を原価、販売管理費のどちらに入れるかは、それぞれの会社の実態と方針によって異なるのです。

 

つまり、自社の業界ではだいたい何パーセントが粗利の目安である、として原価項目を調整することも可能なので、客観性に欠けるように思うのです。

 

また、原価項目においては支払発生後、即支払(出金)となるケースは少ないでしょう。買掛金として支払発生時に原価として計上されますが、実支払(出金)は、数日から数カ月後になるケースが多いのです。そうすると、製造原価およびPLの原価の数値と資金繰り表の原価項目の数値(現金)は一致しなくなります。

粗利益は「金額と支払いのタイミング」が重要に

以上の2つのことからも、会計上の数値だけで粗利が高い低いと一喜一憂し、粗利率改善の話をするのでは誤った判断と戦術に陥ってしまう恐れがあります。経営指標の一つとして粗利の向上をパーセンテージで改善の話をするならば、少なくても営業利益のパーセンテージと合わせて話をするようにしたいものです。粗利益について資金繰りで重要なのは、パーセンテージより金額と支払いのタイミングなのです。

 

PL上、粗利益がプラスで、営業利益もプラスを示しているにもかかわらず、資金繰りが厳しいのであれば、原価の支払期日の見直しや支払金額の分割を検討し、支払可能な金額を資金繰り表から計算して取引先と交渉すべきです。

使える! 資金繰り表の作り方

使える! 資金繰り表の作り方

大森 雅美

旬報社

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