▼工房・事務室
ドワーフ「これが帳簿だよ」
黒エルフ「前に教えられた通り、ちゃんと複式簿記でつけているようね」
ドワーフ「きちんと帳簿をつけることが、おたくの銀行がカネを貸すときの条件だろう? 昔はもっと簡単にカネを貸してくれたのに……」
女騎士「最近決めた方針なのだ」
ぺらっ
黒エルフ「まずは……先々月にうちの銀行から150万Gを借りたときの仕訳がこれね」
司祭補「BSの現金と借入金を増やす仕訳ですわね」
女騎士「ふむ、これは大丈夫そうだな」
黒エルフ「ええ。正しい仕訳になっているわ」
ドワーフ「で、その150万Gでわしは活版印刷機を完成させた。そのときの仕訳がこれだ」
女騎士「現金を減らして製造原価を計上しているが……」
黒エルフ「さっそく間違っているわね」
司祭補「印刷機を作るのにかかったお金は、本の製造原価になりませんの?」
黒エルフ「印刷機のような『機械装置』とか、馬車のような『車両運搬具』とか、それから『建物』とか……。こういうものを『有形固定資産』と呼ぶわ」
女騎士「固定資産を取得したときは、取得にかかった金額をPLの『費用』に計上してはダメなのだ」
司祭補「あら、なぜかしらぁ?」
黒エルフ「もしも固定資産の取得価額を費用に計上したら、その月は大幅な赤字になるわね」
ドワーフ「たしかに、わしの帳簿では、先々月は大赤字だった」
黒エルフ「その一方で、翌月以降は紙やインク代だけが費用になって、利益が多めに計算される」
カキカキ……
黒エルフ「要するに、こういうことになるわ。150万Gの印刷機で5千冊を刷れるとすれば、1冊あたりの原価は300Gになる……そういう話だったわよね。だけど、今の帳簿の付け方では、この『1冊当たり300G』の原価が正しく反映されないのよ」
司祭補「利益を正しく計算できないということですわね」
黒エルフ「そういうこと」
カキカキ……
黒エルフ「正しくは、こういう仕訳を切るべきね」
女騎士「現金を減らして、代わりに固定資産の『機械装置』を計上するのだ」
ドワーフ「このやり方で利益を正しく計算できるのかい?」
黒エルフ「もちろんよ」
カキカキ……
黒エルフ「たとえば本を10冊印刷したときは、こういう仕訳を切るわ」
司祭補「使った分だけBSの『機械装置』を減らして、PLの費用に計上するのですわね」
黒エルフ「固定資産を使ったぶんだけ費用にすることを、『減価償却』と呼ぶわ」
カキカキ……
黒エルフ「この方法なら、固定資産を取得した月だけ大幅な赤字になったりしないわ。さらに、翌月以降にはより正確な利益を計算できる」
ドワーフ「なるほど……」
女騎士「勉強になったのだ……」
黒エルフ「あんたは知っておけよ簿記2級」
司祭補「あらあら、まあまあ」