▼工房・事務室
黒エルフ「……なるほど、やっぱりそういうわけだったのね。思ったとおり、『貸し剥がし』だわ」
女騎士「貸し剥がし?」
黒エルフ「帝都銀行は、港町での影響力を拡大しようとしているのよ、手段を選ばずにね。……もしかしたら、あたしたちを潰そうとしているのかも」
司祭補「どういうことかしら?」
黒エルフ「グーテンベルクさん。帝都銀行は、あたしたちよりも安い利子でカネを貸すと言ってきた。だから港町銀行から融資を乗り換えることにした。……そうよね?」
ドワーフ「ああ、そうさ。あのときはいい条件だと思ったのさ。帝都銀行にカネを貸してもらって、港町銀行から借りたカネを全額返済した」
司祭補「そういえば、最近、全額返済してくる取引先が増えているとおっしゃっていましたわねえ」
女騎士「つまり……帝都銀行は、私たちから顧客を奪おうとしているのだな?」
ドワーフ「あんな安い利子率を見せられたら、誰だって心がぐらつく」
黒エルフ「でも、おいしい話には裏があったわけ」
ドワーフ「港町銀行からの融資は年次更新だが、帝都銀行は月次更新の契約だった」
女騎士「?」
黒エルフ「年次更新なら、『カネを貸せるかどうかの審査』が年に1回しかないわ。一方、月次更新では毎月審査される」
司祭補「審査に落ちれば?」
黒エルフ「カネを返すことになる。返せなければ担保を取り上げられるわね」
ドワーフ「帝都銀行は、先月の利益の50%の金額を、今月末までに返済しろと言ってきた。借金の返済能力を確かめるためだそうだ。それができなければ、審査を通すわけにはいかない、と……」
司祭補「そんなお金がありまして?」
ドワーフ「いいえ、恥ずかしながら……」
黒エルフ「そうやって無理な条件を押しつけて返済を迫ることを『貸し剥がし』というの。債務者を破産に追い込んで、担保を取り上げる」
女騎士「では、消えた人々というのは?」
黒エルフ「帝都銀行に財産を奪われて、港町に暮らせなくなったのでしょうね」
司祭補「ひどいですわ……!」
黒エルフ「借金のカタに取り上げた家屋や営業権を、帝都銀行は親しい商人に売り払ったはず。将来、港町で商売しやすくなるように」
司祭補「だから侍女さんの報告どおり、見ず知らずの人が港町に引っ越してきたのですわね」
女騎士「だが、それでは……」
黒エルフ「ええ、そう。うちの銀行は商売あがったりよ」
ドワーフ「精霊教会の教えどおり、銀行業とは汚い商売だな。おたくらがしのぎを削るのは構わないが、巻き込まれる身にもなってくれ」
司祭補「まあ……」
ドワーフ「せっかく完成させた『活版印刷機』を、借金のカタに奪われることになるとは……。くそっ」
女騎士「活版印刷機? 何だそれは?」