まずは管理組合として、話合いの機会をもつ
⑴はじめに
滞納者への対応方法としては、以下に記載するような法的措置が考えられます。しかし、これらはいずれも期間や費用がかかります。ですので、まずは、管理組合としては、滞納者との間でよく話合いの機会をもち、滞納の理由を確認するとともに、支払いを促すことが重要です。
また、時間が経過すればするほど、対応が困難になってしまいますので、滞納額が少ない早期の段階で対処することが必要です。
⑵任意の話合い
滞納者には早期に対応することが望ましいので、まずは、管理組合として、話合いの機会をもつなどして、滞納の理由を確認することがよいでしょう。
たとえば、滞納の理由が、管理に対する不満などであれば、これについてしっかりと説明をすることで、滞納が解消するかもしれませんし、「自分は1階の区分所有者なので、全体に関する管理費等は支払う義務がない」などと主張するのであれば、法律的な説明をすることで対応できるかもしれません。
支払う意思はあるが、現在事情があり支払えないというのであれば、分割払いなどの対応策を検討してもよいでしょう。
しかし、話合いを拒否したり、話合いをしても支払う意思がないような場合には、後記⑶のような措置を検討する必要があるでしょう。
安く、簡単に利用できる支払督促だが・・・
⑶訴訟などの法的措置
滞納者に対して行うことができる法的措置としては、以下のようなものがあります。
A 支払督促
裁判所に行くことなく、書面審理だけで滞納組合員に支払督促を出してもらうことができます。支払督促は判決と同じ効力がありますので、強制執行をすることもできます。
この方法は、費用も安く、簡単に利用することができます。
もっとも、滞納組合員が支払督促に異議を出した場合には通常訴訟の手続に移行することになってしまいますので、注意が必要です。
B 少額訴訟
少額(60万円まで)の請求をする場合に利用することができる制度です。原則として1回の期日で審理を終え、判決を出してもらうことができますし、通常訴訟よりも費用を抑えることができます。
支払督促だと異議が出されることが予想される場合には、この少額訴訟を利用することを検討してもよいでしょう。
C 訴訟
一般的に知られている裁判のことです。
前記ABの2つに比べて、時間と費用がかかりますが、滞納金が多額である、支払督促を出しても異議が出されそうというときは、最初から通常訴訟を提起したほうがよい場合もあるでしょう。
なお、組合員が今後も支払いをしないと思われる場合、滞納分だけではなく、今後発生する管理費等の支払いも命じさせることができる場合があり、滞納者への対応には有効な場合があります。
D 強制執行
ABCの3つの方法により判決など(これらを債務名義といいます)を取得すると、滞納者の財産の差押えをすることができ、これにより管理費等を回収することができます。
もっとも、滞納者の財産を把握していないと強制執行により回収することができません。たとえば、勤務先や預金口座の支店名までを把握している必要があります。また、マンション自体を競売にかけることも可能ですが、マンションに抵当権が設定されていたり、税金の滞納があって、売却金額がこれらに満たないような場合には、競売自体を進めることができません(剰余主義、民事執行法63条)。
現実には、以上のような問題から回収ができないという事態が少なくありません。
なお、平成28年改正標準管理規約および同コメントの別添3資料「滞納管理費等回収のための管理組合による措置に係るフローチャート」には、管理組合が「金融資産については、滞納者の同意書を携行し、銀行等から情報を得るように努める」、「不動産については、……課税当局の固定資産税台帳を調査するように努める」との記載がなされていますが、疑問です。滞納している区分所有者から「同意書」をとることはまず現実的とは思えません。仮に「同意書」を得たとしても、それだけで金融機関や課税当局が個人の資産内容という究極のプライバシーを簡単に他人に開示するとは思えません。
ちなみに、弁護士法23条の2は、弁護士が職務上の必要性がある場合に各自の所属する弁護士会を通じて、官公庁や企業などに対して一定の事項の照会を求める制度を規定していますが、金融機関に対する個人の預金口座の情報照会については、ようやく昨年(平成28年)から今年初めにかけて、三菱東京UFJ銀行、三井住友銀行、みずほ銀行などの限られた銀行について、東京、大阪などの一部の弁護士会からの照会を受け付ける運用が始まったばかりです。その場合も、対象は債権差押命令申立事件に限られ、債務名義のあることが必要となります。
E 先取特権による競売
マンションの管理費等については先取特権というものが認められており(区分所有法7条)、上記A~Cの手続をすることなく、マンションを競売することができます。
しかし、この場合も、上記の剰余主義が適用されるため、必ずしも実効的とはいいにくいと思われます。なお、抵当権が設定されているかは登記事項証明書を見れば確認できます。
F 配当要求
前記DとEは管理組合自身が競売を申し立てて競売を進めることになりますが、他の債権者が競売を申し立てている場合には、配当要求の手続をすることにより、この競売手続で配当を受けられることがあります。