滞納額が大きい場合は、競売にかけることも選択肢に
前回からの続きです。
⑷59条競売
以上のような方策が功を奏しない場合、その人の所有建物を区分所有法59条に基づいて競売にかけることが可能です。
区分所有法59条は、「区分所有者の共同の利益に反する行為」がある場合、マンションを競売できる旨規定しており、管理費の滞納もこれにあたると考えられているため、滞納額が大きくなった場合には、競売にかけることも選択肢になり得ます。
いくら滞納があれば競売が認められる程度となるのかということには明確な基準はありませんので、実際に訴訟にするかどうかの決断は難しいですが、この方法によれば、滞納者自体を排除することができ、滞納問題を根本的に解決することもできるため、最終手段としては検討に値するものと考えられます。
また、59条競売が認められるためには、「他の方法によってはその障害を除去して共用部分の利用の確保その他の区分所有者の共同生活の維持を図ることが困難であるとき」という要件を満たす必要があります。たとえば、マンションを競売にかけたものの、無剰余取消しされてしまった場合などが考えられますが、実際に競売にかけなくても、登記記録上抵当権が設定されていることなどの事情があれば、このような要件を満たすこともあります。
詳細は事案によりますので、59条競売を進める場合には、専門家に相談するとよいでしょう。
なお、競売を認める判決が出された後に組合員が部屋を他人に売ってしまうとそのマンションを競売することはできなくなってしまいます(最高裁平成23年10月11日判決(集民238号1頁))ので、判決が認められた場合には迅速な対応が必要になります。また、これを回避するために、59条競売を求める裁判を申し立てる前に、所有者を変更しないように仮処分を申し立てるということも考えられますが、最高裁は、これもできないとしました(最高裁平成28年3月18日決定(民集70巻3号937頁))。ですので、59条競売をしようとする場合には、判決後すぐに競売をできるようにするしか、現状ではないといえるでしょう。
安易な氏名の公表は差し控えたほうがよい
⑸58条による使用禁止
区分所有法58条は、共同の利益に反する行為をしている場合、専有部分の使用禁止を請求できるとしています。上記のとおり、管理費等の滞納は共同の利益に反する行為といえますので、本条により専有部分の使用禁止を求めるということが考えられます。
しかし、専有部分の使用を禁止したからといって、滞納の解消には直結しないということから、裁判所は、現状においてはこれを認めていません(大阪高裁平成14年5月16日判決(判タ1109号253頁))。
最高裁判所の判例ではなく、結論が変わる可能性もありますが、現状においては上記の実務となっていますので、管理組合としては、他の方法を検討することになると考えられます。
⑹水道・電気等の供給停止
管理組合が水道や電気の料金を集金しているような場合、滞納者に対する水道や電気等の供給を停止することで、事実上、支払いを促そうとすることが考えられます。
しかし、福岡地裁小倉支部平成9年5月7日判決など、供給停止をしたことが区分所有者の平穏な生活を侵害するものであるなどとして、不法行為であるとして管理組合に損害賠償を命じた裁判例があります。
水道や電気が生活において不可欠なものであることからすれば、管理費等を滞納している人がいるとしても、これらを停止する措置を講じることは、基本的には避けたほうがよいでしょう。
⑺氏名公表
管理費等を滞納している人の氏名などを公表することで、事実上、支払いを促そうという管理組合がしばしばありますが、これがプライバシー権の侵害や名誉毀損であるとして、管理組合に対して慰謝料の請求を求めることが考えられます。
東京地裁平成11年12月24日判決(判時1712号159頁)は、管理組合が、事前に支払いの意思があるのであれば公表を控える旨を伝え、管理費等を一部でも支払っていれば氏名を削除する措置を講じていたなどの点を考慮し、立看板の設置による氏名の公表は不法行為にはあたらないとしました。
しかし、個人情報の取扱いについて議論のある現在においてもこれと全く同じように考えられるとは限らないことなどからすれば、管理組合としては、安易な氏名の公表は差し控えたほうがよいでしょう。少なくとも、規約において管理費等の回収に関して規定するに際して氏名の公表に関するルールを定め、実際に公表をするにしても、事前に通知をし、対処の機会を設けておくなどをしておく必要があるといえるでしょう。