「定期的に通知文を送って請求しているから大丈夫」
マンションの適切な管理のためには、区分所有者から、管理費等(管理費や修繕積立金)がしっかりと支払われていることがとても重要です。しかし、マンションというのは長年にわたって存続するため、その間、高齢や、病気、失業等で状況が変わることにより、区分所有者が管理費等を支払うことができないということが発生することがあります。また、マンションの管理方法などに不満を抱いた区分所有者が管理費等の支払いを拒むこともあるかもしれません。
このような状況を放置すれば、管理不全マンションともなりかねないため、早期かつ適切に対応する必要性がとても高いといえます。
本項では、管理費等の滞納問題について論じます。
管理費等の性質
⑴時効
管理費等の消滅時効は、5年間と考えられています(最高裁平成16年4月23日判決(民集58巻4号959頁))。ですので、管理組合としては、管理費等が時効消滅しないように適切に管理する必要があります。
時効を中断するためには、裁判上の請求や差押えをしたり、滞納者に債務を承認してもらう必要があります。
たまに、「うちは定期的に通知文を送って請求しているから大丈夫」と言っている管理組合の方がいますが、こういった裁判外での催告は、そこから6カ月以内に裁判上の請求などをして初めて時効の中断の効力を生じることになります(民法153条)。通知文だけでは時効消滅を防ぐことはできませんので、注意が必要です。
管理組合として区分所有者が誰であるかを確認しておく
⑵特定承継人への請求
A請求できる範囲
区分所有法上、規約に基づく債務については、マンションの特定承継人(買い受けた人など)にも請求できることになります(同法8条)。特定承継人から滞納管理費等を支払ってもらうことができるため、滞納問題に対処することが可能となります。
特定承継人に対して請求できる範囲として、一括受給している場合の電気料金や水道料金などまでを請求できるかという問題があります。名古屋高裁平成25年2月22日判決(判時2188号62頁)などは、一括受給する必要性を考慮し、特定承継人への請求を認めています。もっとも、必要性がある場合などに限定されますので、注意が必要です。
駐車料金については、契約に基づき発生するものであるため、当然には特定承継人に請求できないとする考えが多いようですが、管理規約で規定している場合には特定承継人に滞納駐車料金を請求できるとする考えもありますので(上記名古屋高裁判決も、管理規約に駐車場料金についての規定がある事案において、駐車料金の特定承継人への請求を認めています)、管理組合としてはそのような対応が望ましいといえるでしょう。
B特定承継人となる者
特定承継人とは、マンションを直接買い受けた者だけではなく、競売により取得した者や譲渡担保権者も含まれます(前者につき東京地裁平成9年6月26日判決(判時1634号94頁)、後者につき、東京地裁平成6年3月29日判決(判時1521号80頁))。
また、滞納者から買い受け、これを転売した後の中間取得者(たとえば、転売して利益を上げる不動産業者など)も、近時の裁判例では、特定承継人にあたるとされています(大阪地裁平成21年3月12日判決(判タ1326号275頁)など)。
管理組合としては、区分所有者が変更した場合には、組合員名簿が適切に更新されるように徹底したり、登記事項証明書を取得するなどして、区分所有者が誰であるかを確認しておくとよいでしょう。
⑶賃借人への請求
滞納管理費等を賃借人に請求できるかですが、これはできないと考えられます(東京地裁平成16年5月31日判決)。
もっとも、次回以降解説する強制執行として、滞納者の賃借人に対する賃料支払請求権を差し押さえることにより、賃借人から滞納管理費等を回収するということは可能と考えられます。
⑷自分が使う共用部分ではない(一部共用部分である)として管理費等の支払いを拒むことができるか
たとえば、1階の区分所有者は、通常はエレベーターを利用していませんので、その分の管理費等の支払いを拒むことが考えられます。
しかし、一部共用部分となるためには、これが一部の区分所有者のみの共用であることが明白であることが必要であるとされており、エレベーターはこれにあたらないと考えられます。そして、全体の共用部分である以上、それにかかる管理費等の支払いをする義務を免れることはできないとして、管理費等の支払義務を争った主張を否定した判決があります(東京高裁昭和59年11月29日判決(判タ566号155頁))。