今回は、信託の活用による「代襲相続」を見越した相続対策について見ていきます。※本連載は、ウィル税理士法人編著(執筆:代表税理士の親泊伸明氏ほか)の書籍、『経営者と不動産オーナーのための信託・相続』(マスブレーン)の中から一部を抜粋し、「信託」を活用した不動産の相続対策をご紹介します。

長男家族に確実に財産を相続させるには…

<事例>

 

堺市在住の戸部さん(82歳)は、妻と一緒に長男家族と同居しています。自分の相続の時に、子供たちが相続争いをするのではないかと心配なので遺言をすることにしました。長男以外の子供たちには、生前にある程度の財産を贈与しているので、残る全ての不動産を長男に相続させたいと考えています。

 

もし、遺言書を作成した後、自分よりも長男が先に亡くなった場合には、自分の財産は長男の子(孫)に渡すと遺言書を書き直すことができますが、遺言書を作成した後に、自分が認知症となってしまうと遺言書の書き換えができなくなってしまうので、不安を感じています。

 

長男の家族が、財産を確実に相続できるようにするためには、どうしたらいいのか悩んでいます。

 

 

<問題点>

遺言では、代襲相続の効力が生じないことが、最高裁で明らかになりました。いわゆる、親より先に長男が死亡した場合に、長男の子が代わりに相続する代襲相続は認められないとの判決です。

 

遺言をする人が特定の相続人に財産を相続させるといった場合、通常はその相続人に財産を取得させる意思があるということにとどまるとの考え方です。従って、遺言で長男が死亡していた場合には、長男の子が代襲相続する旨などが、明記されていなければ、孫は財産を相続できません。その打開策として信託を活用する方法があります。

信託を活用して受益者の順番を設定

<解決策>

 

①戸部さんを委託者兼第一受益者・長男を第二受益者・長男が死亡している場合には孫とする信託を設定します。

 

②信託設定後、長男が委託者(戸部さん)より早く亡くなった場合、第一受益者に相続が発生すると、財産権(受益権)は長男の子(孫)が取得します。事例のように信託契約で第二受益者である長男が死亡している場合には長男の子(孫)が取得する条件を付しておくと、孫が次の受益者になります。

 

③受託者(長男)の死亡後の受託者を孫と指定しておけば、第三受益者が孫になった時点で信託は終了し信託財産は孫に帰属することになります。

 

④公正証書で、第一受益者・第二受益者の死亡をもって信託が終了する規定を定め、信託財産の帰属権利者を孫にすることもできます。

 

[図表]信託を活用する方法

 

<税金の取扱い>

 

①戸部さんに相続が発生した際、長男が既に死亡している場合には、第一受益者から孫に相続財産が移転しますが、相続税の二割加算はありません。

 

②信託設定の条件によっては、受益者の定めがない信託や、一時的に受益権が存在しない信託などがあります。これらの信託は、受益者を法人とみなして受託者に課税を行うため、「法人課税信託等」と呼びます。私たちが相続や事業承継のために活用することはあまりありません。したがって、信託を設定することにしても、受託者が存在しなくなることにならないように注意しなければいけません。

経営者と不動産オーナーのための 信託・相続

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ウィル税理士法人

マスブレーン

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