「交際費の枠」とは何か?
さて、再びA出版の例です。 今度は、先日、写真集収録用の座談会を開いた、担当者のB君です。
「写真集が赤字になるぞ!」と社長に釘を刺されたB君でしたが、座談会を収録した書籍は無事に発売になりました。売れ行きも好調で、何と初版を売り切って増刷するまでになりました。そこでB君は写真集の著者であるカメラマンにお礼をしたい、と考えました。お礼と同時に、次回作も依頼したいと思ったのです。ただ、まだ次回作といっても具体的な企画というわけではなく、「次回もぜひウチでよろしく」といった程度です。
今度はホテルの部屋ではなく、会社の近くにあるやや高級な小料理屋の個室で、コースの食事を差し上げよう、と考えました。まだ20代のB君の給料では、「ランチでも高い」ような店ですが、写真家へのお礼の食事ならば大丈夫だろう、と思ったわけです。
金額を調べてみると、夜の食事コースは、1人1万円から。ここにアルコールが加わると・・・おそらくB君の分と合わせて3万円を少し超えることは確実です。この写真家は酒豪としても有名なのです。「ということは、1人1万5000円は間違いなく超えるなあ。これ、交際費で落としていいんだろうか」「ん?でも、次の企画の制作費に入れていいのかな。いや、まだ次の企画は具体的じゃないしなあ・・・」
それに、B君は社長が「もう今期の交際費の枠はあんまり余裕がないんだぞ」といっていたことまで思い出してしまいました。「著者を接待して、自腹なんて絶対イヤだぞ」と思ったB君。さて、この接待交際費は無事に認められるでしょうか。
結論からいえば、B君が「自腹」になることはありません。ただし、社内の規定で「著者への接待は1人5000円」と決まっている場合には、税務署に申告する以前に、社内の伝票が通らない可能性もありますから、現実的なアドバイスとしては、まずB君は社長に「ここで接待してもいいですか?」と一応相談しておくことです。
もし社長からOKが出た場合、これが「A出版の交際費」として税務署に認めてもらえるかどうかについては、また別の問題になります。
1人5000円までの飲食は無制限に使える!?
B君、そして社長と一緒に、今度は「接待交際費」の条件について考えてみたいと思います。交際費は個人事業者の場合は金額に制限なく認められます。その一方で、資本金が1億円超の法人と資本金が5億円以上の大法人の100%子会社の場合、「交際費」というものは基本的に認められません。ただし、2006年の税制改正によって、1人5000円までの飲食に限定して、「飲食費(少額交際費)」として“控除”してもいいことになりました。
さて、その「中間」の場合、つまり資本金1億円以下の中小企業の場合には、年間600万円までの交際費が経費として認められています。ただし、上限600万円のうち、損金として計上できるのはその90%まで。つまり600万円ちょうどなら540万円までが経費です。社長が「今期の接待費の枠にはあまり余裕がない」といったのは、この「600万円」に近づいてきている、ということだったのです。
上限額を超えてしまうと、実際には明らかに「接待」として使った飲食代であっても損金算入ができず、課税されてしまうことになります。