司祭補「それにしても……。この街の港には商船が多いのですわね」
銀行家「華国などの南半球の国々との貿易の窓口ですからね」
司祭補「軍艦は?」
女騎士「この町のはるか北西、西岸港が新大陸への玄関口だ。軍艦はそちらに集まっているはずだ」
司祭補「だからこの町では戦争の空気が薄いのですね」
銀行家「戦争の空気ですか?」
司祭補「出兵前の兵士たちや、彼らを相手にした商売が見当たりませんわ。高額の給料を約束して募兵していると、帝都ではもっぱらのうわさでしたのに……」
女騎士「たしかにこの町では、傭兵もあまり見かけないな」
黒エルフ「ていうか、司祭補さまはいやに戦争にご執心ね」
司祭補「じつはわたし、この戦争を早く終わらせたいと思っていますの♪」
銀行家「100年続いた戦争を、ですか?」
黒エルフ「あんた、それ本気で言ってるの?」
女騎士「……ふむ、何か理由があるのだろう」
司祭補「ええ。時が来たら理由をお話しますわ。とにかく、わたしは戦争を終わらせたい。国債購入の担当者に志願したのは、その第一歩なのですわ!」
女騎士「たしか、精霊教会の内部では疎まれる仕事だそうだな」
司祭補「そして、お2人にもぜひ協力していただきたいと思っていますの~」
黒エルフ「協力って、何に……?」
司祭補「戦争を終わらせることに、ですわぁ~。この町で一緒にお仕事をすることになったのも、きっと何かの縁です。わたしたち3人の力で、100年続いた流血を止めて、この世界を救いましょう♪」
黒エルフ「このあとお茶にしましょうみたいなノリで言うなよ」
女騎士「世界を救う、か……。ひさしく忘れていた言葉だ」
黒エルフ「精霊教会の人って世間知らずなの? そんな大それたこと、できるはずが──」
司祭補「あらあら、わたしはダークエルフさんのセリフを覚えていますわよ~」
黒エルフ「?」
司祭補「正しい帳簿さえあれば世界だって救ってみせる……でしたっけ?」
黒エルフ「あ、あれは……その……比喩的な表現というもので…」アセアセ
女騎士「いいではないか。大願を持たぬ者は小事も叶えられん。大きな目標を持つのはよいことなのだ」
黒エルフ「……わ、分かったわよ。しょうがないわね。ちょっとぐらいなら、協力してあげる」
司祭補「あらぁ、ありがとぉ~!」ガバッ
黒エルフ「ふがっ! お、大きい……く、苦し……」
ふがふが
幼メイド「みなさん、なかよしさんです!」
女騎士「心強い仲間が増えたな!」
幼メイド「ところで、だんなさまぁ~。先ほどれんらくがありました! おやくそくの品が届いたそうですよ?」
銀行家「ハッ! そうでした、今日は名画『精霊降臨』が到着する予定で──」
黒エルフ「……ちょっと待ちなさい!」
ふがふが
黒エルフ「そ、その名画ついて一言あるんだけどっ! 私塾を開く? 芸術品を集める? あたしに相談もせず、いったい何を──」
ふがふが
司祭補「うふふ~、これからもよろしくぅ♪」ぎゅーっ
幼メイド「だんなさま、急いだほうがよいのでは~?」
銀行家「で、ですが……」
黒エルフ「あんたも何か言いなさいよ!」
女騎士「くっ……私は騎士だ!」
黒エルフ「はぁ?」
女騎士「たとえお前の頼みでも、わが主を裏切るわけにはいかん!」
黒エルフ「何言ってんのよ! バカなの!?」
女騎士「銀行家さん、ここは私に任せろ!」
銀行家「では、失礼します」
黒エルフ「だから待ちなさいって! これ以上のムダ遣いは許さないわよ! ……こらぁ、待てぇーっ!」
ふがーっ
▼帝都銀行執務室
頭取「くそっ、してやられた!」
秘書「仲介業者の件、残念でした……」
頭取「ボンクラのせがれが跡を継いだと聞いて、港町銀行を侮っていた。まさか、こんな結果になるとは……」
秘書「あの銀行をこのままにしておくのは危険かと存じます」
頭取「まったくだ。今は小さな銀行だが、この先どれほどの力をつけるか……。甘く見ないほうがいいだろうな」
秘書「悪しき芽は小さいうちに摘み取れと言います」
頭取「さいわい、港町には我々の銀行の支店がある。すでに顧客もつかんでいる。……もともと目障りな商売敵だったのだ。女どもめ、必ず、あの町から追い出してやる!」
秘書「ではさっそく、港町銀行を取りつぶす施策立案を各部署に命じましょう」
頭取「ふふふ……。私に恥をかかせたことを後悔させてやるぞ!」