昇進の内定を喜ぶどころか、即座に退職を選ぶ若手社員が増えています。責任ばかりが増えて待遇が見合わない「割に合わない出世」に、優秀層ほど見切りをつけているのです。意欲ある若手が出世を拒む背景には、日本企業が抱えるどんな構造的問題があるのでしょうか。昇進をめぐって生じる賃金の落とし穴と、組織の課題を考えます。
「これなら課長にならないほうがマシです」年収650万円・32歳営業エース、昇進提示の人事面談で絶句…即座に退職届を叩きつけたワケ ※写真はイメージです/PIXTA

「割に合わない出世」を拒否し、退職届を提出

高橋さんは部長に対し、「現在の条件では昇進をお受けできません」と辞退を申し出ました。しかし、部長からは「課長になれば将来の幹部候補になれる。最初は誰もが通る道だ」「若いうちの苦労は必ず実を結ぶ」と精神論で説得を受けます。この旧態依然とした組織の姿勢に、高橋さんは再び驚愕しました。求めていたのは将来の不確かな約束ではなく、現在の責任に見合った公正な処遇だったからです。

 

「自分の市場価値を会社に都合よく消費されるのは耐えられないと感じました」

 

高橋さんはそう振り返ります。翌週、高橋さんは部長の机に「退職届」を直接提出しました。昇進の打診を喜ぶと信じ切っていた上司は、予想外の事態に言葉を失い、動揺を隠せませんでした。他社への転職活動を水面下で進めていた高橋さんは、すでに外資系IT企業から「残業代全額支給・年収850万円」の好待遇で内定を獲得していたのです。

 

株式会社マイナビの『ライフキャリア実態調査2026年版』によると、20代正社員の59.1%が「昇進したい」と回答し、全年代のなかで最も高い昇進意欲を示しています。決して若手に出世欲がないわけではありません。

 

彼らの高い意欲を削いでいるのは、責任と待遇が釣り合わない旧態依然とした人事制度です。出世を名目に安価な労働力を確保しようとする管理職制度は、もはや優秀な人材をつなぎ止める力を失っているといえるでしょう。自社の都合を押し付ける企業と、実利を見極める若手社員との意識の乖離は、今後さらに広がりそうです。