単純計算で「あと4年」で底をつく
正男さんのように、亡くなった家族が大切にしていたことにお金を使うというのは決して悪いことではありません。そもそも、お金は使うためにあるものです。妻が残してくれた2,000万円を大切に保管して人生を終わることが正しい選択とは限らないでしょう。旅行へ行って、子どもや孫たちとの思い出を作ることも、十分に価値のある使い方です。
ただし、考えなければならないのは、今後の生活設計です。正男さんは現在74歳。仮に94歳まで生きるとすれば、あと20年間の生活があります。
たとえば、2,000万円を20年間で均等に取り崩すと、毎月使えるお金は約8万3,000円です。正男さんの年金が月9万円であれば、合わせて月17万円程度の生活原資になりますので、決して余裕のある金額とはいえません。
総務省の「家計調査報告(家計収支編)2025年平均」によると、65歳以上の単身無職世帯の1ヵ月の家計収支は、可処分所得が11万8,465円、消費支出が14万8,445円となっており、毎月2万9,980円が不足しているとされています。
この数字は全国平均であり、住居費や生活スタイルによって実際の支出は異なりますが、平均的な高齢単身無職世帯では、毎月約3万円を貯蓄などから補って生活していることがわかります。
正男さんの場合、年金は月9万円しかありません。現在も手伝いで大工の仕事をすることもありますが、仮に毎月の生活費が15万円であれば、それだけで毎月6万円、年間72万円の取り崩しが必要です。
そこに年4回、合計200万円の家族旅行を続ければ、年間の取り崩し額は272万円にもなります。これでは手元に1,000万円残っていたとしても、単純計算で4年も持ちません。さらに、今後は医療費や介護費用が必要になる可能性もあります。
自分が何歳まで生きても生活に困らないようにしながら、大切にしたいことにお金を使っていくライフプランニングが必要なのです。
たとえば、今後の生活費と年金収入を見積もり、医療や介護に備えるお金も確保したうえで、毎年いくらまで旅行に使えるのかを考えます。年4回の旅行を年2回したり、正男さんが全額負担している旅行代を、子どもたちにも一部負担してもらったりする選択肢もあるでしょう。大切なのは、旅行をやめることではなく、これからも続けるために、無理のないお金の使い方を考えることです。
また、手元の資産を預貯金だけで保有するのではなく、必要な生活資金を確保したうえで、一部を運用しながら取り崩すという方法もあります。もちろん、資産運用には価格変動のリスクがあり、必ず資産の寿命を延ばせるわけではありません。特に高齢期は、大きな損失を出してしまうと、その後の生活に影響します。そのため、運用する資産と、近いうちに使う資産をわけ、無理のない範囲で考えるようにしましょう。
思い出づくりと老後の安心を両立させるために
妻が残した2,000万円は、家族との思い出を作るためだけでなく、年金の少ない正男さんが安心して老後を過ごすためのお金でもあったはずです。その両方を実現するためにこそ、計画が必要なのではないでしょうか。
お金を使うことと残すこと、そのどちらか一方が正解というわけではありません。今後の生活に必要な費用を正しく見積もり、「いくらまでなら安心して使えるのか」を把握することが、結果として亡き妻の想いに応え、自分自身の安心した老後を守る道につながります。
小川 洋平
FP相談ねっと
ファイナンシャルプランナー
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