(※写真はイメージです/PIXTA)

定年退職は、収入や生活時間が大きく変わる節目です。それまで仕事を中心に回っていた暮らしが変わるなかで、夫婦関係を見直す人もいます。長年連れ添った夫婦であっても、離婚後の住まいや生活費、財産をどうするかとなれば、感情だけでは決められない問題が出てきます。

退職金2,300万円は「夫だけのお金」なのか

由美子さんは結婚後、出産を機にいったん退職。その後はパートとして働き、現在も週3日ほど勤務しています。

 

夫婦のお金については、細かなことまで把握していませんでした。

 

「夫の退職金だから、離婚したら全部夫が持っていくのかなと思ったんです」

 

しかし、離婚時の財産分与では、名義だけで決まるわけではありません。婚姻中に夫婦が協力して形成した財産は、預貯金や不動産などを含めて財産分与の対象になり得ます。退職金についても、婚姻期間との関係や受給時期など、個別の事情によって財産分与で考慮される場合があります。

 

孝志さんの退職給付2,300万円についても、全額を単純に半分にするという話ではなく、専門家に相談しながら、婚姻期間中に形成された財産全体を整理することになりました。

 

自宅をどうするかも問題でした。

 

由美子さんは当初、「このまま私が住みたい」と考えていました。ところが、固定資産税や今後の修繕費まで一人で負担することを考えると、広い戸建てを維持することが最善なのか迷います。

 

「離婚するかどうかだけ考えていたのに、家をどうする、毎月いくら必要、年金はいくらになるって、一気に現実的な話になりました」

 

さらに確認したのが年金です。

 

離婚時には、婚姻期間中の厚生年金記録について「年金分割」の制度があります。ただし、夫が将来受け取る年金額そのものを単純に半分ずつにする制度ではありません。対象となる期間や手続きなどを確認する必要があります。

 

話し合いは数ヵ月続きました。最終的に夫婦は離婚する方向で合意し、自宅は売却することにしました。

 

由美子さんは自分一人で管理できる広さの賃貸住宅へ。孝志さんも別の住まいを探します。

 

引っ越し前、空になり始めた家を見ながら、由美子さんは夫に言いました。

 

「あなたは、もっと前から考えていたんだよね」

 

「うん」

 

「私は退職した日から、2人の老後が始まると思ってた」

 

夫婦の間にあった大きな違いは、そこだったのかもしれません。

 

由美子さんが失ったのは、単に夫の収入や住んでいた家ではありません。「この先も夫婦で暮らしていく」という、それまで疑っていなかった前提そのものが変わったのです。

 

一方、離婚後の生活を具体的に計算したことで、自分名義の資産や将来の年金、毎月必要になる生活費を初めて把握することにもなりました。

 

長年連れ添った夫婦の離婚では、気持ちの整理だけでなく、住まいや預貯金、退職金、年金など、その後何十年にも関わる問題を整理する必要があります。特に退職前後は家計そのものが変わる時期です。離婚するか否かにかかわらず、夫婦それぞれが自分の老後の収入と資産を把握しておくことは、将来の選択肢を考えるうえでも重要でしょう。

 

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