(※写真はイメージです/PIXTA)

親が高齢になれば、離れて暮らす子どもが生活を支える場面も増えていきます。しかし、介護は必ずしも「今日から始めます」と明確に始まるものではありません。買い物や通院の付き添い、食事の準備などを引き受けるうちに、いつの間にか生活の中心になっていることもあります。

「このままずっと?」妻の一言で初めて考えたこと

同居から2ヵ月ほど経った夜、恵子さんが夫に尋ねました。

 

「お義母さん、このままずっとここにいるのかな」

 

責めているわけではありません。ただ、夫婦は母がいつまで滞在するのか、一度もきちんと話していませんでした。

 

隆夫さんは「本人が帰りたいと言うまで」と答えかけて、言葉に詰まりました。実家へ戻ったとしても、買い物や通院はどうするのか。一方、このまま同居するなら、夫婦だけでどこまで支えられるのか。

 

そこで初めて、隆夫さんは地域包括支援センターに相談しました。

 

文子さん本人とも話し合い、介護保険の要介護認定を申請。認定後はケアマネジャーとも相談しながら、利用できるサービスを検討することになりました。

 

文子さんが望んだのは、「できれば自分の家に帰りたい」ということでした。

 

「ずっと一緒に住みたいから来たんじゃなかったの?」

 

隆夫さんが聞くと、母は首を振りました。

 

「一人で全部やるのが、ちょっと怖くなったのよ」

 

文子さん自身も、自宅で暮らし続ける自信を失い始めていたのです。

 

厚生労働省『2025年 国民生活基礎調査』によると、在宅の要介護者等から見た主な介護者は、「同居」が46.1%でした。続柄別では「配偶者」が22.5%、「子」が18.2%を占める一方、「介護事業者」も16.0%となっています。また、同居する主な介護者の介護時間を見ると、要介護3以上では「ほとんど終日」が最も多くなります。家族だけで支え続けることを前提にせず、本人の状態に応じて介護サービスを利用することも選択肢の一つです。

 

親子で相談した結果、文子さんはいったん自宅へ戻ることになりました。以前とまったく同じ生活に戻すのではありません。

 

利用できる介護サービスを取り入れ、隆夫さんも定期的に様子を見に行きます。食料品は宅配も利用することにしました。

 

母が戻った日の夜、恵子さんが言いました。

 

「旅行、また考えようか」

 

隆夫さんは、その言葉を聞いて少しほっとしたそうです。

 

「母のことが嫌だったわけじゃないんです。でも、いつまで続くか分からない状態が一番きつかったんでしょうね」

 

旅行は以前のように思い立ってすぐ、とはいかなくなりました。それでも母の予定を確認しながら、まずは1泊の旅行から再開しています。

 

高齢の親の生活に変化が生じたとき、家族が手を貸すことは自然な選択の一つです。しかし、短期間の手助けのつもりでも、必要な支援が増えれば家族の日常そのものが変わることがあります。

 

「家族だから自分たちで」と抱え込む前に、本人が何に困っているのかを整理し、地域包括支援センターなどへ相談する。家族の生活も守りながら支える方法を考えることが、介護を長く続けるうえでも重要でしょう。

 

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