資産1億5,000万円でFIREを叶え、「一生働かない」生活を手に入れた48歳男性。しかし、夏の実家帰省でその決意は揺らぎ、再び働く選択をします。そこにどのような葛藤があったのでしょうか? 事例を通して、人生後半における「経済的自立と社会・家族とのつながり」のあり方を考えます。
「一生働かない! なんて夢だったな…」資産1億5,000万円超えでFIREの48歳男性、8月の実家帰省で「再び働くこと」を決意した理由 ※写真はイメージです/PIXTA

誰のために働く? 誰のために働かない?

父は夕食のあと、台所で食器を洗い始めました。

 

「お父さん、置いておいて。俺がやるよ」

 

そう声をかけても、「お前は客だからいい」と笑って断ります。その横で、母は薬を飲み忘れないよう、曜日ごとに分けられたケースを一つずつ確認していました。

 

翌朝は、父が母を病院へ連れて行きます。診察が終わるまで待ち、帰宅すると昼食を用意し、午後は買い物へ出かける。その間も、母を一人にはできないため、近所の知人に声をかけてから家を空けるといいます。

 

「毎日こんな感じなの?」

 

福田さんが尋ねると、父は「ああ、もう慣れた」とだけ答えました。その言葉とは裏腹に、父の動きは以前よりずっとゆっくりでした。重い荷物を持ち上げるたびに腰へ手を当て、椅子から立ち上がるときも、一拍置いてから体を起こします。母の介護をしている父も来年には80歳。父が言葉にするほど、若くないことは明確な事実です。子に心配かけまい――親としてのプライドでしょうか。しかし東京に帰る日、父は「俺が先に倒れたら、そのときは頼む」とポツリ。本音をのぞかせました。

 

その後福田さんは、今後のことについて考えました。確かに、もう働かなくても生きていけます。その安心感は親には無関係でした。職に就いていない独り身という立場を憂いているのは明らかでした。

 

福田さんは以前の勤務先の先輩へ連絡を取りました。業務委託として働くことはできないか、という相談をしたのです。業務委託であれば、必要なときだけ仕事を受けられます。万一のときは実家に駆けつけることができ、親も今より安心させられるだろう――そう考えました。

 

「『一生働かない』なんて夢でしたね」

 

そう苦笑した福田さん。国立社会保障・人口問題研究所『2022年社会保障・人口問題基本調査(生活と支え合いに関する調査)』によると、単独非高齢男性世帯の生活費用の担い手を「自分」とする割合は89.1%に上ります。しかし、同所の『第7回全国家庭動向調査』では、「年をとった親は子ども夫婦と一緒に暮らすべきだ」への賛成が26.5%に低下し、「親の介護は家族が担うべき」も38.9%にとどまります。

 

家族頼みの規範が薄れる現代、単身者が経済的自立を遂げた後も、親の不測の事態や自身の孤立に備えて業務委託などで仕事や社会との緩やかな「つながり」を残しておくことは、現実的なリスクマネジメントといえそうです。