毎年恒例となっている家族の帰省。楽しみだったはずの時間に、どこか違和感や寂しさを抱えた経験はないでしょうか。子の成長や生活様式の変化に伴い、従来の帰省スタイルに戸惑う親世代は少なくありません。ある夫婦の選択をきっかけに、お互いにとって真に心地よい家族の距離感や親孝行のあり方を考えます。
「5時間もかけて帰省して、何やってんだろう…」年金月28万円・70歳夫婦、帰り際の長男家族に「もう来なくていい」と言い放ったワケ ※写真はイメージです/PIXTA

「来てくれるだけで十分」だと思っていたが

「今年も来るって連絡があったんだ」

 

東北の人口10万人ほどの都市に住む山田茂さん(70歳・仮名)と、妻の美智子さん(70歳・仮名)。生活のベースとなる年金は、夫婦で約28万円ほど。手取りにすると24万円ほど。毎月3~4万円程度を貯金に回す余裕があります。さらに退職金を合わせた預貯金も2,000万円ほど。これまでリフォームで400万円ほど取り崩したほかは手つかず。

 

一見すると余裕で心配など見当たりませんが、それでも漠然とした不安はあるといいます。昨今の値上げラッシュにより、確実に生活費は増えています。そのため、以前よりも外食や旅行を控えるようになったそうです。

 

それでも、お盆だけは別でした。東京で暮らす長男一家が帰省する数日間は、夫婦にとって一年で最も楽しみな時間だったのです。中学生になった孫の翔太さん、小学5年生の美咲さん。幼いころは近所の公園や川へ遊びに連れて行き、花火をして、夜は家族みんなで食卓を囲みました。

 

「今年はどこへ連れて行こうか」

 

そんな相談をするのが、毎年の恒例でした。ところが数年前から、様子が少しずつ変わり始めます。

 

「暑いから外はいい」

「友達とゲームの約束してる」

 

翔太さんはリビングに顔を出したかと思うと、すぐに客間へ戻ります。持参したゲーム機を開き、オンラインで友人と会話を始めました。美咲さんもタブレットで動画を見続けています。食事のときは、和やかな時間が流れます。会話もあります。しかし20~30分で食べ終わると、また客間に戻ってしまいます。久しぶりの再会ですが、会話はそれほどありません。大人の都合に付き合っているだけ――そんな言葉が聞こえてくるようでした。

 

国立社会保障・人口問題研究所『第9回世帯動態調査』によると、子どもが全員離家して夫婦や単身の状態にある親の割合は、全体で41.2%に達しています。山田さん夫妻と同じ70~74歳の女性においては、62.7%がこの状態に該当。同調査では、親世代が「健康であるうちは同居を回避し、自立を志向する」という行動パターンも指摘されており、普段は夫婦2人で自立した生活を送る高齢者が増えています。

 

しかし、そうした日常があるからこそ、お盆の帰省という「年に一度、共に過ごす時間」に対して特別な期待を抱きやすく、成長した子や孫との間に心理的なギャップを感じてしまうケースは少なくないようです。