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「何かあったら困るから」息子の説得に応じた76歳男性の選択
郊外の住宅街で一人暮らしを送る根本博さん(76歳・仮名)は、月16万円の年金で生活を維持しています。数年前に妻を病気で亡くして以降は、自宅の自家用車を運転し、近所のスーパーへの買い出しや持病である膝の治療のための通院を自分で行っていました。自力で移動できる手段があることが、彼の自立した生活と心を支えていました。
しかし半年前、都内に暮らす長男の根本修平さん(46歳・仮名)から運転免許の自主返納を強く促されます。テレビで頻繁に報じられる高齢ドライバーの交通事故を危惧した修平さんは、「事故を起こしてからでは遅い。加害者になったら取り返しがつかないから車を処分してほしい。買い物や通院が必要なときは、週末に自分が必ず送迎するから」と強い口調で説得しました。
博さんは自身の運転に大きな不安はなかったものの、息子の熱心な説得に押され、最終的に免許証を警察署へ返納することを決断しました。
返納の手続きを終えた後、自家用車は売却され、ガレージは空になりました。ところが、最初の1ヵ月こそ修平さんは週末になると様子を見に訪れていたものの、自身の仕事の多忙や子どもの学校行事などを理由に、徐々に訪問回数が減っていきました。2ヵ月が経過する頃には修平さんからの電話や連絡も途絶えがちになり、博さんは実質的に放置された状態に陥ってしまいました。
警察庁『運転免許統計』によると、令和7年(2025年)中の運転免許の自主返納(申請取消)件数は43万5,067件。そのうち75歳以上は26万0,915件を占めています。
一方で、内閣府『令和5年度 高齢者の住宅と生活環境に関する調査』によると、「今後、自動車・バイクの運転をどうするのか」の問いに対しては、「視力低下などにより運転に支障を感じたらやめる」が最多で41.6%。「一定の年齢になったら、自動車・バイク等の運転をやめようと思っている」が38.5%と続きます。
公共交通機関が十分に整備されていない地方や都市郊外においては、自家用車以外の移動手段の確保が生活上の最大の懸念事項。移動の代替手段が用意されないまま返納が行われた場合、高齢者が即座に生活困難へ直面するリスクが数値からも明らかになっています。