定年退職後の生活を支える退職金や老後資金。しかし親心から子どもや孫へ無計画な援助を重ねた結果、自分たちの生活が疎かになることも。子どもへの支援と自分たちの生活を両立させるには。ある家族の事例から考えていきます。
「ふざけるな!」〈退職金1,800万円〉63歳夫が絶叫。32歳長男へ〈年100万円〉の過剰援助を続ける59歳妻との攻防 ※写真はイメージです/PIXTA

老後資金1,800万円から消えた数百万円…63歳夫が直面した妻の不審な出金

60歳で定年退職を迎えた小野浩一(63歳・仮名)さん。現在も再雇用制度を利用して都内の物流会社で働いています。

 

長年勤め上げた会社から定年時に支給された退職金は1,800万円。これまでの貯蓄と合わせると3,200万円。夫婦の老後を支える大切なお金です。

 

公的年金の受給開始までの生活費は給与で賄い、年金受給が始まったらその範囲で慎ましく生きていく。老後資金は将来発生するかもしれない医療・介護費用など、万一のためにできるだけ取り崩さないようにする――これが夫婦で決めた計画でした。

 

しかしある日、浩一さんがふと銀行口座を確認して言葉を失います。退職金が振り込まれたままの口座。本来であれば1,800万円残っているはずですが、すでに500万円以上が引き出されていたのです。浩一さんは自身の目を疑い、何度も記帳された数字を見返しました。

 

驚いた浩一さんが妻の小野美智子(59歳・仮名)さんを問い詰めると、驚くべき事実が判明しました。

 

美智子さんは長男の大樹(32歳・仮名)さんに対し、年間約100万円におよぶ金銭援助を続けていたのです。大樹さんは数年前に転職したものの年収が下がり、さらに孫が誕生したことで負担が大きくなっていました。

 

「妻が息子に金銭面で援助すること自体は、別に問題はありません。基本的に家計全般、妻に任せているので。しかし、常識の範囲というものがあるでしょう」

 

一方で、美智子さんの言い分はこうです。

 

「孫にかかるお金だし、困っている我が子を助けるのは親として当然でしょ」

 

そんな反論に浩一さんの中の何かが弾けました。

 

「ふざけるな! 俺が体を壊しながら働いて得た退職金だぞ!」

 

金融経済教育推進機構『家計の金融行動に関する世論調査(2025年・二人以上世帯)』によると、60代世帯の平均金融資産保有額(非保有含む)は2,683万円。しかし、一部の富裕層が引き上げる影響を除いた実態に近い中央値は1,400万円にとどまります。

 

資産3,000万円以上を保有する世帯が27.2%存在する一方で、1,000万円未満の世帯も41.5%を占めるなど、貯蓄の二極化が進んでいます。

 

浩一さん夫婦の老後資金3,200万円は一見ゆとりがあるように思えますが、長寿化や医療リスクを考えると無制限に使えるお金ではありません。無計画な支援は、平均以上の資金を持つ世帯であっても一気に老後破綻へ直結する危険を秘めています。