(※画像はイメージです/PIXTA)

労働施策総合推進法の改正により、2020年6月から「パワーハラスメント(パワハラ)防止措置」が事業主に義務づけられ、2022年4月以降は中小企業を含むすべての事業所で対策が必要となりました。そこで本稿では、現場で部下指導に悩む管理職の皆さまに向けて、社労士の立場から、パワハラ防止につながる実践的なポイントを解説します。※本記事は大同生命が運営する『どうだい?』からの転載記事です。

1.境界線はどこに…管理職を悩ませる「パワハラ」の曖昧さ

コンプライアンス意識の高まりに加え、ハラスメントに関する情報があふれる現代では、仕事で叱責を受けた際など必要以上に敏感になり「これってパワハラですよね」とすぐに問題化しようとする、いわゆる「ハラスメント・ハラスメント(ハラハラ)」の反応がみられることがあります。


その結果、パワハラと受け取られることを恐れるあまり、必要な注意や指導まで控えてしまう管理職も少なくありません。


しかし、指導不足は業務のクオリティの低下や組織の乱れにつながるだけでなく、逆に「上司が必要な指導をしてくれなかった」と訴えられる可能性もあります。


法令では定義や指針、ガイドラインが示されていますが、実際の被害の申告に対しては個別の状況に応じて判断されます。境界がわかりにくく、グレーゾーンも多いパワハラ対策ですが、まずは統計データと定義を正しく押さえておきましょう。

2.精神障害労災の主因はパワハラが最も多い

厚生労働省「令和6年度 過労死等の労災補償状況」によると、2024年度の精神障害(うつ病等)の労災請求は3,780件で、前年度より205件増加しました。また、支給決定件数(労災として認定された件数)は1,056件で、こちらも173件増えています。なお、認定された1,056件のうち88件は自殺(未遂を含む)となっています。

 

一方、不支給も含めた決定件数に対する認定率は約30.2%で前年度の約34.2%より4%程度減少しています。これは、申請は増えているものの、認定は相対的にやや通りにくくなっていることを示しています。

 

出典:厚生労働省「令和6年度 過労死等の労災補償状況」

 

また、精神障害の原因となった心理的負荷の強い出来事をみると、「上司等からのパワハラ」が224件で最も多く、次いで「仕事内容・仕事量の大きな変化」が120件、「顧客や取引先等からの著しい迷惑行為(カスタマーハラスメント)」が108件、セクハラが105件と続いています。


労災は、事業主に責任が生じる傷病です。特に自殺に至った場合には、億単位の解決金や損害賠償を求められる訴訟リスクもあります。さらに、会社の対応が不適切であれば、SNS等で悪評が拡散される可能性も否定できません。


こうしたリスクを踏まえると、ハラスメントに対する正しい理解と、組織としての体制づくりが重要であることがわかります。

 

★大同生命が運営する
 経営者のコミュニティサイト『どうだい?』 
HPはこちら!(登録・利用無料)

3.出張先や宴会など"職場外"も含まれる…「パワハラ」の定義

労災の請求件数が増えている一方で認定率が低下している背景には、「請求者本人はハラスメントだと感じていても、調査の結果、法的な問題はなかった」というケースが一定数存在するためです。


つまり、本人の感じ方と、法令上のハラスメントの定義にはズレが生じやすいということです。このズレを理解するためにも、まずは法令で定められた定義を確認しておく必要があります。


今回はパワハラに絞ってご説明しますが、労働施策総合推進法に定めるパワハラとは、次の3つの要件をすべて満たすものをいいます。

 

①職場内の優越的な関係を背景に、
②業務上必要かつ相当な範囲を超えた言動により、
③就業環境を害する(精神的または身体的苦痛を与える)こと

 

ここでいう「職場」には、オフィスや現場に限らず、出張先や宴会なども含みます。また「優越的な関係」とは、職務上の地位のほか、知識・経験の差なども含まれ、場合によっては若手社員がベテランより優越的な立場になることもあります。


なお、ミスの多さや遅刻の常態化など、業務に支障がある事実に対して厳重注意を行うことは、社会通念上必要な教育的指導であり、②の要件に当てはまりません。したがって、それだけでパワハラと判断されることはありません。

 

パワハラの類型

職場の優越的な関係を背景に行われるパワハラは、その態様により、次の6つの類型に分けられます。

 

①身体的な攻撃(暴行・傷害)
②精神的な攻撃(脅迫・名誉毀損・侮辱・ひどい暴言)
③人間関係からの切り離し(隔離・仲間外し・無視)
④過大な要求(明らかに遂行困難な業務の強要)
⑤過小な要求(能力・経験に合わない低レベルの業務の命令、または仕事を与えない)
⑥個の侵害(私生活への過度な立ち入り)

 

性的指向や性自認に対する精神的攻撃などもパワハラに含まれ、これは「SOGI(ソジ)ハラ」と呼ばれます※。

※ 性的指向(セクシュアル・オリエンテーション=SO)、性自認(ジェンダー・アイデンティティー=GI)の頭文字をとったもの。


なお、⑥の「個の侵害」には、本人の同意なく家族に連絡する行為も含まれますが、「人命・身体・財産の保護が必要で、本人の同意取得が困難な場合(個人情報保護法第23条1項2号)」は例外として認められています。


また、労働者への配慮を目的に家族の状況等についてヒアリングすることも、安全配慮義務の観点から必要となる場合もあります※。

※ ハラスメントの概要や対策等については、厚生労働省のハラスメント対策総合情報サイト「あかるい職場応援団」を参照のこと。

 

4.よかれと思って…教育的指導のつもりがパワハラとされる言動

昭和世代の管理職や、体育会系出身の方は、たとえ指導のつもりであっても無意識に不適切な言動を行ってしまう場合があります。


以下のような言動は、パワハラと受け取られる可能性が高いため注意が必要です。

 

・人格否定や人権侵害にあたる発言
      (例:バカ、給料泥棒、親の顔が見てみたい、辞めちまえ、など)
・他のスタッフの前で大声で怒鳴る
・必要以上に長時間叱責を続ける
・職場外でも継続的に監視する
      (例:リモートをつなぎっぱなしにして私生活まで把握しようとする など)

 

また、下記のように本人としてはよかれと思って行ったことが、逆に不適切だと受け取られることもあります。

 

・個室でのマンツーマン指導
・終業後の「飲みニケーション」

 

特に密室での指導は、ハラスメントを捏造されるリスクもあるため、指導をするのであれば監視カメラのある会議室や会社近くの静かな喫茶店など、適度に人目のある場所が望ましいといえます。


また、指導内容は日付入りで記録を残すことが重要です。メールで送る場合は、自分より上位の立場の人をCCに入れて共有しておくと、後のトラブル防止につながります。


面談を行う際は、業務上の指導である以上、就業時間内に行うことが鉄則です。プライベートな時間にまで上司の指導を受けなければならない「飲みニケーション」の強要は、昨今ではコンプライアンス上問題があります。


さらに、お酒の席では記憶が曖昧になり「言った・言わない」のトラブルが起きやすく、指導効果もあまり期待できません。

 

★大同生命が運営する
 経営者のコミュニティサイト『どうだい?』 
HPはこちら!(登録・利用無料)

5.はじめから完璧な人はいない…部下の指導は冷静かつ「思いやり」をもって

昭和世代の管理職が若手を指導する際、ついつい「今の自分基準」で判断し、イライラを抱えてしまう方も多いのではないでしょうか。


これは筆者自身の経験ですが、息子が中学生だった頃、保護者集会で学年主任の先生が仰った言葉が胸に響きました。

 

「保護者の皆さんはお子さんに対して『親の気も知らないで』と言いますが、わかるわけがない。親になったことがないのだから。でも、皆さんは中学生時代を経験しています。その頃の気持ちを思い出してみれば、お子さんに寄り添えるのではないですか?」

 

この言葉は、職場の上司と部下にもそのまま当てはまります。


部下、特に新人には、まだ部下を持った経験も、人を育てた経験もないのが通常で、上司の気持ちがわからなくても仕方がありません。一方で、管理職には新人時代があり、右往左往していた頃があったはずです。


そのときの気持ちを思い出せば、若い部下に歩み寄りやすくなるのではないでしょうか。新人でいきなり最初から完璧に仕事をこなせる人はいませんから。


この教訓を踏まえて、OJT担当やメンターには、入社2年目のスタッフを任命するのもひとつの手です。「昨年の新人」であるため最も身近で寄り添えるでしょうし、本人にとっても、昨年学んだ知識や技能を後輩にアウトプットすることで定着が進みます。


適切な指導を行うためには、冷静かつ思いやりのある姿勢が求められます。感情が落ち着いているタイミングで、「5W1H」を意識して伝えられるよう、管理職研修では次のような訓練を受けることをおすすめします。

 

①国語力(語彙力と、相手の言葉を理解する読解力)の向上を図る
②アサーショントレーニング(相手を尊重しつつ自分の意見を主張する技術を学ぶ研修)の受講
③怒りの感情をコントロールできるように訓練する

6.気軽に雑談ができる職場にするために

あなたの職場は、気軽に雑談ができる空気ですか? 日頃から雑談ができるような風通しのいい職場なら「素朴な疑問」も投げかけやすく、上司・部下双方にとって好ましい状態といえます。


他人の考えていることは、エスパーでもない限り言葉にしなければ伝わりません。したがって、言葉によるコミュニケーションが必要不可欠です。


近くの先輩に聞けばすぐに解決できることも、「物言えぬ職場」ではそれができず、不安や不満を募らせた従業員が労働基準監督署に駆け込み、会社が対応に追われるケースも多いようです。


労働安全衛生法第1条には、労災防止を目的としつつ「職場における労働者の安全と健康を確保するとともに、快適な職場環境の形成を促進する」ことが掲げられています。


いまや、ハラスメント防止こそ「快適な職場環境の形成」の中心的要素になっているといっても過言ではありません。

 

ハラスメント防止のために事業主が講ずべき措置

最後に、ハラスメント防止のために組織として講ずべき措置について挙げておきます。

 

①事業主の方針の明確化、周知・啓発

事業主が「ハラスメントは許しません」と宣言
就業規則の服務規律と懲戒規定にハラスメントの禁止事項を明文化
快適な職場環境形成のため、管理職研修及び社員研修を実施


②相談窓口の設置

社内窓口の他、社外にも相談窓口を用意するのが望ましい※


③事後の迅速かつ適切な対応

事実関係を確認後、適切に処理。再発防止措置を講ずる

④あわせて講ずべき措置

プライバシー保護
相談したこと等による不利益取扱いの禁止

※ 〈参考〉社外相談窓口「彩の社労士」:https://nextftp.com/saisrmental-h/

 

 

服部 明美

社会保険労務士
社労士はっとりコンサルティングオフィス代表

 

 

 

★大同生命が運営する
 経営者のコミュニティサイト『どうだい?』 
HPはこちら!(登録・利用無料)

 

KENCO SUPPORT PROGRAM

従業員の健康管理や職場環境改善を支援するプログラムです。ハラスメント対策を含む健康経営の推進にお役立てください。

 

人材採用・育成支援サービス

管理職研修や人材育成に関する支援サービスです。指導力向上やハラスメント防止研修の実施にお役立てください。

※本記事は大同生命が運営する『どうだい?』からの転載記事です。