(※画像はイメージです/PIXTA)

「“あの人”が休むと、なぜか業務が回らない」…長期休暇のシーズンは、そんな「業務の属人化」という見えにくい経営課題と向き合う絶好の機会です。本記事では、業務の属人化がもたらすさまざまな経営リスクと、今年の夏に始めたい「脱・属人化」のための仕組みづくりについて解説します。※本記事は大同生命が運営する『どうだい?』からの転載記事です。

夏休みになると発覚する「その人がいないと回らない」問題

毎年夏になると、経営者から同じような相談が届きます。


「ベテランが休んだ途端、顧客からの問い合わせに誰も答えられなくなった」「担当者がいないと見積もりすら出せない状態で、取引先に迷惑をかけてしまった」


平時は問題なく回っているように見えても、夏季休暇という「個人が長期で不在になる機会」が、組織の脆弱性を一気に浮き彫りにします。


特定の人物にしかわからない知識、特定の人物しか操作できないシステム、特定の人物が持っている顧客との人間関係━━。中小企業では、こうした「業務の属人化」が、気づかないうちに組織全体に広がっていることが少なくありません。

 

★大同生命が運営する
 経営者のコミュニティサイト『どうだい?』 
HPはこちら!(登録・利用無料)

なぜ中小企業で属人化が起こりやすいのか

属人化が生まれる背景には、構造的な問題があります。


少人数で多くの業務をこなす中小企業では、どうしても「一番詳しい人」に仕事が集まります。マニュアルを作る時間もないため、口頭で引き継がれた「経験と勘」が業務プロセスを円滑に進めるためのカギとなっていきます。そのような状況のなかで、いつしか「“あの人”にしかできない仕事」が評価される文化が生まれ、属人化がさらに進む、という悪循環に陥ります。


さらに問題なのは、多くの場合、属人化していることに本人も気づいていないという点です。本人は普通に仕事をしているだけで、悪意があるわけではありません。しかし、その人が突然休んだとき、初めて「あの人がいないと何もわからない」という事実が露わになるのです。

属人化が企業にもたらすリスク

属人化は、複数のリスクを同時に企業にもたらします。


まず「休暇取得が進まない」という問題です。「自分がいなければ回らない」という状況では、本人も休みを取りにくくなります。しかし、使用者は年次有給休暇を10日以上付与している労働者に対して、年5日以上の有給休暇を取得させることが法律で義務づけられています(労働基準法第39条第7項)。これは付与日(基準日)から1年以内に5日を取得させなければならないという期限付きの義務であり、労働者本人が自ら請求・取得した日数や、計画年休制度により取得した日数がある場合は、その分を5日から差し引くことができます。つまり、労働者がすでに自発的に5日以上取得していれば、使用者が改めて時季を指定する必要はありません。


これを守らなかった場合、対象者1人につき30万円以下の罰金という罰則があります(労働基準法第120条)。この罰則は使用者に科されるものですが、実務上は対象労働者ごとに罪が成立しうるとされており、取得させられなかった人数分、罰則が積み重なる可能性があります。


「忙しいから仕方ない」では済まされない時代になっています。


次に「退職・休職時のダメージが大きい」という問題です。属人化が進んだ職場でキーパーソンが退職した場合、業務の引き継ぎに膨大な時間がかかり、最悪の場合は引き継ぎ自体が不完全なまま退職を迎えることになります。


そして「採用・育成コストの増大」というリスクもあります。属人化した職場では、覚えるべき手順や情報が体系化されていないため、新人教育に非常に時間がかかり、定着率も下がりがちです。


さらに見落とされがちなのが、「経営者自身への負担集中」というリスクです。社員が休んだ穴埋めを最終的にするのは誰か。それは経営者自身です。中小企業では、社長がプレイングマネージャーとして現場の最前線に立つケースが少なくありません。しかし、社長が現場のトラブル処理や実務の代行に追われると、本来行うべき経営戦略の立案や新規開拓といった重要業務がすべてストップしてしまいます。これは企業にとって、目に見えない巨大な「機会損失」というリスクなのです。属人化は、社員だけでなく経営者をも「現場から離れられない状態」に縛り付けてしまいます。

 

★大同生命が運営する
 経営者のコミュニティサイト『どうだい?』 
HPはこちら!(登録・利用無料)

夏休みは"業務の見える化"を進める好機

こうした問題の解決策として、まず取り組むべきは「業務の見える化」です。誰が何を担当しているかを整理し、特定の人しかできない業務を洗い出すことから始めましょう。


では、具体的にどう「見える化」を進めればよいのでしょうか。まずは以下の3ステップを意識してみてください。


1.【業務の棚卸し】各社員に、1週間あるいは1カ月の間に「どんな業務を」「どれくらいの頻度で」行っているかをすべて書き出してもらいます。


2.【ブラックボックス業務の特定】書き出したリストのなかから、「その人しかやり方がわからない業務」をチェックします。これが属人化している業務です。


3.【主担当・副担当の決定】チェックがついた業務に対して、まずは「横で作業を見てもらう人(副担当)」を1人決めます。


最初から完璧なマニュアルを作ろうとするから挫折するのです。まずはすべての社員が「隣の席の人が、何をしているか知っている」という状態を作ることから始めましょう。その上で、以下のような具体的な対策を講じていきます。


【DXの活用】
クラウド型のプロジェクト管理ツールや顧客管理システムを導入し、誰が見ても業務の進捗状況がわかる環境を整える。「あの人に聞かないとわからない」状態を「システムを見ればわかる」状態に変えることが、属人化解消の第一歩です。


【マニュアル化】
完璧なマニュアルを目指すと手が止まります。動画や画面キャプチャを使った簡易マニュアルを積み重ねるだけでも、情報の属人化を防ぐ効果があります。


【複数担当制の導入】
「主担当+副担当」を設けることで、一人が抜けても業務が滞らない体制を作ることができます。定期的な業務ローテーションも有効です。


【情報共有の仕組みづくり】
チャットツールやクラウドストレージを活用し、業務情報を特定の個人だけが保有する状態を解消します。

人が休める会社ほど強い組織になる

「人が休める」かどうかは、企業の組織力を計るバロメーターです。誰かが休んでも業務が回るということは、情報が共有され、仕組みが整っているということを意味します。これは事業継続力の高さとも直結します。


また、複数担当制を定着させるためには、定期的な業務ローテーションの実施も効果的です。数カ月に一度、担当を少しずつ入れ替えることで、組織全体のスキルベースが底上げされ、単調な業務によるマンネリ化を防ぎます。また、社員にとっても「新しい業務を経験できる」「自分のキャリアの幅が広がる」というモチベーションにつながり、離職防止の効果も期待できます。


もうひとつ、見落とせない視点があります。休んでいる社員に連絡することは、緊急時を除き、できるかぎり避けるべきです。

 

厚生労働省「労働時間制度等に関する実態調査」(令和7年6月、労働条件分科会第200回参考資料)※1によると、勤務時間外の業務連絡に関するルールについて、「ルールはないが、勤務時間外に連絡することがある」と回答した事業所は全体の44.4%にのぼります。4割超の事業所が、ルールのないまま時間外に連絡しているという実態が浮き彫りになっています。

 

一方、受け取る側の労働者はどう感じているのでしょうか。厚生労働省の「令和5年 労働時間制度等に関するアンケート調査」※2では、勤務時間外の社内連絡について「対応したくない」と回答した労働者は38.0%となっています。

 

つまり、44.4%の事業所がルールなしに時間外連絡をしている一方で、受け取る側の38.0%は対応したくないと感じているという現実があります。連絡する側は「緊急だから仕方ない」と思っていても、受け取る側には大きなストレスになっています。こうしたすれ違いが積み重なることで、社員のエンゲージメント(仕事への意欲・愛着)は確実に低下していきます。

 

休暇中の連絡は、社員にとって「この会社では本当の意味で休めない」というメッセージになりかねません。

 

今、どの業界でも人材の確保は経営課題の最優先事項です。採用難の時代に、退職者が出れば代わりの人材を確保することは容易ではありません。社員が安心して休暇を取れる職場環境を整えることは、人材定着と採用力の向上にも直結します。「誰かが休んでも回る仕組み」を作ることは、社員への信頼の表れでもあり、「この会社で長く働きたい」という気持ちにつながっていくのです。

 

夏休みのシーズンは、属人化という見えにくい経営課題と向き合う絶好の機会です。「うちは大丈夫」と思っていた経営者ほど、一人の不在で想定外の混乱が起きた経験をお持ちではないでしょうか。まずは自社の業務棚卸しから始めてみることをおすすめします。

 

【参考】

※1 厚生労働省「労働時間制度等に関する実態調査結果について(概要)」(労働条件分科会第200回参考資料No.2、令和7年6月16日)60ページ

(本資料の数値は精査中であり、今後修正される可能性があります。)

https://www.mhlw.go.jp/content/11201250/001503716.pdf

※2 厚生労働省「労働時間法制の具体的課題について(法定休日・連続勤務規制、勤務間インターバル、つながらない権利)」(労働条件分科会第204回資料No.2、令和7年10月27日)53ページ ※データ出典:第199回労働政策審議会労働条件分科会資料No.2「令和5年 労働時間制度等に関するアンケート調査」

https://www.mhlw.go.jp/content/11201250/001585949.pdf

 

 

安部 香織

社会保険労務士、行政書士

たいさんぼく社会保険労務士・行政書士事務所代表

 

 

 

★大同生命が運営する
 経営者のコミュニティサイト『どうだい?』 
HPはこちら!(登録・利用無料)

 

人材採用・育成支援サービス

採用計画づくりから社員の育成まで、人手不足の課題を専門家と整理できます。

 

社員サポートパック

従業員の健康や働きやすさを支える福利厚生サービスです。

※本記事は大同生命が運営する『どうだい?』からの転載記事です。