(※画像はイメージです/PIXTA)

深夜まで明かりが灯るバックオフィス、ピリピリする担当者、「なんでそんなに時間がかかるんだ?」と首をかしげる経営者━━そんな光景、心当たりはありませんか?毎年年末になると、多くの企業のバックオフィスが、膨大な業務と事務処理に追われることになります。慌ただしい年末業務をスムーズに進めるためには、夏のうちに業務体制を整えておくことが肝要です。本記事では、余裕のある年末を迎えるために、秋までに見直したい業務手続きやポイントについて解説します。※本記事は大同生命が運営する『どうだい?』からの転載記事です。

1.毎年秋になると、バックオフィスが「戦場」になる

9月以降、企業のバックオフィスには以下の業務が集中します。

 

・9月   定時決定(算定基礎届)の結果を給与システムへ反映

・10月  最低賃金改定(毎年引き上げ幅が大きい)、賞与支給準備

・11月  年末調整の準備開始、書類回収

・12月  年末調整の確定処理、冬の賞与支給

 

2024年に実施された定額減税(同年限りの措置)は、年末調整の事務処理を大混乱させました。複雑な計算と確認作業が重なり、これをきっかけにシステム化や業務見直しに踏み切った企業も少なくありません。法改正や制度変更のたびに手作業では対応が追いつかなくなってきているのが現実です。


毎年繰り返しているのに、なぜ毎年同じ状況になるのか。それは「直前にならないと動かないまたは、動けない」からです。夏のうちに体制を整えておくことが、年末の混乱を防ぐ最大の対策です。

2.まず確認したい「社会保険」の手続き状況

9月から社会保険料が変更される会社も多く、定時決定(算定基礎届)の結果が給与システムに正しく反映されているかを確認しましょう。


注意が必要なのは「当月徴収」と「翌月徴収」の違いです。社会保険料を「当月支給の給与から控除する会社(当月徴収)」と「翌月支給の給与から控除する会社(翌月徴収)」では、改定が給与に反映されるタイミングが異なります。毎年9月の改定時期に「なぜ今月から手取りが減っているんですか?」と従業員から問い合わせが殺到するのはバックオフィスあるあるです。


夏のうちに変更通知書のひな型を用意し、改定の理由と金額をあらかじめ従業員にアナウンスしておくことで、秋の無駄な問い合わせを大幅に減らせます。


また、昇給や役職変更があった従業員については「随時改定(月額変更届)」の対象になっていないかも確認が必要です。固定的賃金が変動し、変動月以降3カ月間の報酬の平均を基に算出した「標準報酬月額」が、従前と比べ2等級以上変更になった場合(かつ3カ月とも支払基礎日数が17日以上である場合※特定適用事業所に勤務する短時間労働者は11日以上)は届け出が必要になります。届け出漏れは後日の修正対応につながるため、夏のうちに確認しておきましょう。

 

★大同生命が運営する
 経営者のコミュニティサイト『どうだい?』 
HPはこちら!(登録・利用無料)

3.冬の賞与支給に向けて見直したいポイント

賞与支給にあたっては、支給前に以下の点を整理しておきましょう。


まず、賞与規程と支給基準の再確認です。評価基準が曖昧なまま支給すると、従業員からの不満やトラブルの原因になります。特に「なぜあの人より自分の賞与が少ないのか」という不満は、就業規則や賞与規程に評価基準が明記されていないと説明できません。夏のうちに内容を確認し、必要であれば整備しましょう。


次に、賞与支払届の準備です。賞与を支給した際は、社会保険の「賞与支払届」を支給後5日以内に提出しなければなりません。「5日以内」は想像以上にタイトです。支給日が決まったら、書式と提出先・提出方法を事前に確認しておきましょう。

4.最低賃金改定への備えは夏から始まる

毎年10月以降、順次実施される最低賃金の改定。近年は引き上げ幅が大きく、改定後迅速に対応できるよう夏からの準備が必要です。


ここで見落とされがちな落とし穴があります。最低賃金との比較計算では、給与のすべてを足し合わせるわけではありません。以下の手当・賃金は最低賃金の計算から除外されます。

 

・精皆勤手当

・通勤手当

・家族手当

・時間外、休日、深夜労働等に対する割増賃金

・臨時に支払われる賃金(結婚手当など)

・1カ月を超える期間ごとに支払われる賃金(賞与など)

 

つまり、月給の総支給額から上記手当・賃金を差し引いた後の金額を、年間の所定労働時間を12カ月で平均した時間で割って時給換算し、最低賃金と比較する必要があります。


「総支給額が最低賃金×所定労働時間を上回っているから大丈夫」と思っていたら、除外手当を差し引くと実は最賃割れしていた、というミスが毎年多発しています。手当の種類が多い会社ほど、この確認が重要です。夏のうちに自社の給与体系と照らし合わせて確認しておきましょう。

 

 

★大同生命が運営する
 経営者のコミュニティサイト『どうだい?』 
HPはこちら!(登録・利用無料)

5.年末調整をスムーズに進めるための下準備

年末調整で最もミスが起きやすいのが「扶養情報の更新漏れ」です。今年の入社後・中途加入者のほか、結婚・離婚・子どもの就職や進学など、扶養状況が変わった従業員がいないかを夏のうちに確認しておきましょう。


また、保険料控除証明書は毎年10月以降に届き始めます。近年は従業員がマイナポータルを活用して保険料控除証明書等の電子データを取得し、会社に電子提出できるようになっています。紙での提出も引き続き認められているため、紙・電子どちらの提出にも対応できるよう、回収方法とスケジュールをあらかじめ整理しておきましょう。

6.社労士として一番伝えたいこと━━「独自ルール」を見直す機会に

ここからは、私が現場で最も感じている課題についてお伝えします。


給与計算や年末調整の実務を確認すると、「うちにはうち独自のやり方がある」という会社に頻繁に出会います。前任の担当者が作った複雑なExcel計算式、手書きの管理台帳、システムでは対応できないからと毎回手動で修正するルール。しまいには、「あのExcelのマクロは〇〇さんしか触れない」というブラックボックスが生まれる始末。


その「独自ルール」は、本当に必要でしょうか。


もちろん、会社ごとの事情がある場合もありますが、多くの場合、そのルールは法律や制度が要求しているものではなく、「ずっとこうしてきたから」「前任者がそう決めていたから」という理由で存続しているものです。


独自ルールが複雑なほど、新しい担当者への引き継ぎが難しくなります。ミスが増えます。システムへの対応も遅れます。そして担当者が辞めたとき、誰も処理できない状態に陥ります。

 

★大同生命が運営する
 経営者のコミュニティサイト『どうだい?』 
HPはこちら!(登録・利用無料)

7.システムに自社を合わせる━━発想の転換が業務効率化のカギ

給与計算・社会保険・年末調整に対応したクラウドシステムは、今や中小企業でも手の届く価格で利用できます。こうしたシステムを導入する際に重要なのは、「システムを自社のルールに合わせようとしない」ということです。


よくある失敗は、「うちには独自の計算方法があるから、それに対応できるようにシステムをカスタマイズしたい」という発想です。カスタマイズすればするほど、コストがかかり、法改正に対応するためのアップデートが遅れ、担当者が変わるたびに混乱が生じます。


発想を逆にしてください。「標準的なシステムに自社のやり方を合わせる」のです。


標準的なシステムは、法律の改正にも自動で対応します。操作方法はマニュアルが整備されています。担当者が変わっても引き継ぎがしやすくなります。そしてなにより、ミスが減ります。


「うちのやり方」を見直すのは痛みを伴う作業かもしれません。しかし、その作業こそが本当の意味での業務標準化であり、担当者の負担軽減につながります。


そしてもう一点。システムを導入したら、今すぐ使い始めることが大切です。繁忙期に不慣れな状態でシステムを使おうとすると、逆に混乱を招きます。夏のうちに導入し、操作に慣れておくことで、秋以降の業務がスムーズになります。

8. 夏の準備が、年末の「余裕」を生む

「去年もこうだった……」を繰り返さないために、今すぐ動き始めましょう。

 

1.現在の給与計算・社会保険・年末調整の実務フローを書き出す


2.「独自ルール」を洗い出し、本当に必要かを検証する


3.クラウドシステムの導入または見直しを検討する


4.今から使い始め、秋以降の繁忙期に慣れた状態で臨む



夏のうちに手を打った会社と、直前になってから動き始めた会社では、年末の余裕が大きく違います。バックオフィスの担当者が安心して年末を迎えられる環境を、今年こそ整えてください。

 

安部 香織

社会保険労務士、行政書士

たいさんぼく社会保険労務士・行政書士事務所代表

 

 

 

★大同生命が運営する
 経営者のコミュニティサイト『どうだい?』 
HPはこちら!(登録・利用無料)

 

就業規則診断オンラインサービス

自社の就業規則が最新の法令に対応しているか、オンラインで診断できます。

 

iDeCo

経営者・従業員それぞれの老後の資産形成を後押しする制度です。

※本記事は大同生命が運営する『どうだい?』からの転載記事です。