経営戦略を考え直したい人におすすめしたい2冊
コロナ前から、テクノロジーの進化や環境の変化により「VUCA(不安定・不確実・複雑・曖昧)の時代※」がやってくるといわれてきましたが、いまはまさにその真っただ中にあります。経営戦略においても、「変化」を前提とした発想が欠かせません。
ここでは、経営者がそんな変化に対応するためのおすすめの2冊をご紹介します。
※ VUCAの時代……Volatility(変動性)、Uncertainty(不確実性)、Complexity(複雑性)、Ambiguity(曖昧性)の4つの単語の頭文字をとった造語。物事の不確実性が高く、将来の予想が困難な状況を意味する。
『両利きの経営(増補改訂版)』
チャールズ・A・オライリー(著)、マイケル・L・タッシュマン(著)、入山 章栄(監訳)、冨山 和彦(解説)、渡部 典子(翻訳)/東洋経済新報社/2022年
変化の激しい時代には、事業を1つに絞ること自体がリスクになります。そこで企業に求められるのが、成熟事業と新規事業という“二兎”を同時に追う戦略です。
本書『両利きの経営』は、「深化(既存事業の強化)」と「探索(新規事業の創出)」を同時に進めるための理論と実践方法を、スタンフォード大学のチャールズ・A・オライリー氏とハーバード・ビジネススクールのマイケル・L・タッシュマン氏が体系的にまとめた一冊です。
深化では効率性や生産性、差異の縮小が重視されるのに対し、探索では調査・発見・差異の拡大が重要になります。これらを組織として両立させるためのリーダーの行動指針についても整理されているため、経営者にぜひ読んでいただきたい内容です。
『「雑草」という戦略 予測不能な時代をどう生き抜くか』
稲垣 栄洋(著)/日本実業出版社/2020年
ビジネスの世界で使われる「ニッチ」という言葉は、もともと生物学の用語だったことをご存じでしょうか? 生物の世界には、ビジネスに役立つヒントが数多くあります。
本書『「雑草」という戦略』は、しぶとい雑草の生存戦略を、ビジネス戦略として解説した、異色の一冊。著者は、静岡大学教授で農学博士の稲垣栄洋(いながき・ひでひろ)氏です。
巨木は競争に勝つために大きくなり、「サイズ」を追求します。サボテンは厳しい環境下でストレスに強くなるためにエネルギーや水を「蓄積」します。そして雑草は、環境の急激な破壊や変化(=「かく乱」)に“乗じる”ことで生き残ります(=「ルデラル戦略※」)。
雑草の戦略では、「スピード」と「次への投資」がカギになります。失敗してもめげず、変化に“乗じる”ことが重要です。これからの日本企業に必要な考え方が書かれています。
※ ルデラル戦略…生態学でいう「かく乱が起きた環境に素早く適応して繁殖する戦略」
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組織・人材に悩む経営者へおすすめしたい1冊
変化の時代には、戦略だけでなく「人」のマネジメントも問われます。テクノロジーの進化により、価値観や働き方が多様化する中、従来の「上司が正しい、部下はそれに従う」という一方通行のマネジメントは通用しなくなってきました。
とはいえ、口で言うほど簡単な話ではありません。世代も価値観も異なる相手と、どう向き合えばいいのか。ここでは、組織と人材の課題に悩む経営者にぜひ読んでいただきたい1冊をご紹介します。
『他者と働く──「わかりあえなさ」から始める組織論』
宇田川 元一(著)/NewsPicksパブリッシング/2019年
近年は『リーダーの仮面』をはじめ、若手との向き合い方に悩むマネジメント層向けの書籍が売れていますが、マネジメントにおいて最も大事なのは、「自分と相手は違う」という前提を受け止めることではないでしょうか。
この「違い」を理解するために読んでおきたいのが、本書『他者と働く──「わかりあえなさ」から始める組織論』です。
「対話とは、権限や立場と関係なく誰にでも、自分のなかに相手を見出すこと、相手のなかに自分を見出すことで、双方向にお互いを受け入れ合っていくこと」
価値観やナラティブが多様化した現代、マネジメントでは「対話」がカギになります。また、悩めるリーダーのために、互いの“溝”に橋を架けるための4つのステップも示されています。
◆「溝に橋を架ける」ための4つのステップ
1.準備「溝に気づく」
相手と自分のナラティブに溝(適応課題)があることに気づく
2.観察「溝の向こうを眺める」
相手の言動や状況を見聞きし、溝の位置や相手のナラティブを探る
3.解釈「溝を渡り橋を設計する」
溝を飛び越えて、橋が架けられそうな場所や架け方を探る
4.介入「溝に橋を架ける」
実際に行動することで、橋(新しい関係性)を築く
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財務・お金を強化したい人へおすすめしたい2冊
経営戦略や組織づくりと並んで、変化の時代に欠かせないのが「財務」の視点です。先が読めない状況では、利益が出ているからといって安心はできません。キャッシュフローや資産構成といった「お金の流れ」そのものを正しく理解しておく必要があります。
財務リテラシーを高め、変化に強い経営基盤を作るためのおすすめの2冊をご紹介します。
『決算分析の地図 財務3表だけではつかめないビジネスモデルを視る技術』
村上 茂久(著)/ソシム/2024年
変化の激しい時代には、変化に強い財務が必要になります。具体的には、「蓄える」「持たない」「キャッシュフロー重視」といった視点がポイントです。
本書『決算分析の地図 財務3表だけではつかめないビジネスモデルを視る技術』では、AirbnbとWeWork、オリエンタルランドとサンリオ、ニトリと良品計画、ANYCOLORとUUUM、トヨタ・ホンダ・日産・テスラなどといった企業を比較し、ビジネスモデルの違いが収益構造やキャッシュフローにどのような影響を与えるのかを解説しています。
また、赤字続きなのになぜか株式市場で評価されているfreeeの秘密や、利益が出ているのに純資産が減っているAppleの背景、資生堂がTSUBAKIを売却した理由など、気になるテーマも丁寧に分析。ビジネスセンスと財務センスが同時に養える、有用な一冊です。
『稲盛和夫の実学 経営と会計』
稲盛和夫(著)/日経BP/1998年
厳しい時代だからこそ、基本に立ち返ることが重要です。名著として知られる本書『稲盛和夫の実学』は、京セラ創業者・稲盛和夫氏が多くの企業を成功に導いた「稲盛会計学」の7つの基本原則を解説しています。
1.キャッシュベース経営の原則(手元に潤沢な資金を持つ)
2.一対一対応の原則(モノの動きとお金の動きをすべて一対一で処理)
3.筋肉質経営の原則(利益を生む資産=筋肉を増やし、利益を生まない在庫や過剰設備=ぜい肉を減らす)
4.完璧主義の原則
5.ダブルチェックの原則
6.採算向上の原則
7.ガラス張り経営の原則
これら7つの原則を実践することで、変化に負けない強靭な財務体質を築くことができるでしょう。
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AI・テクノロジー時代を考えたい人へおすすめしたい2冊
ここまで経営戦略・組織・財務について見てきましたが、これらすべてに横串を通すように影響を及ぼしているのが、AIをはじめとするテクノロジーの急速な進化です。もはやAIを「使うかどうか」ではなく、「どう使いこなすか」が経営者の実力を分ける時代になりました。
AI時代をどう生き抜くかを考えるための2冊をご紹介します。
『AIの時代に 頭がよくなる人 悪くなる人』
岡 瑞起(著)/日経BP/2026年
これからのビジネスの成否は、「AIとの付き合い方」にかかっているといっても過言ではありません。
本書『AIの時代に 頭がよくなる人 悪くなる人』は、人工生命研究者で、千葉工業大学大学院デザイン&サイエンス研究科教授の岡 瑞起氏が、タイトル通りAIの時代に 頭がよくなる人・悪くなる人の条件を述べています。
同書によれば、AIを漫然と使っているだけでは、大半の人は頭が悪くなるといいます。目指すべきは、AIを活用しながら「頭がよくなる人」になること。人間的魅力を持つこと、身体を使った経験を積むこと、問いを持つこと、偏りを持つこと、美意識を持つことで、AI時代でも価値ある人間になれると説かれています。
「『教える』から『導く』へ」「AIが提示しなかった選択肢は、そもそも検討されない」など指導者・経営者への示唆も豊富で、AI時代に注意すべきポイントが示されています。
AIにただおびえるのではなく、正体を知って賢く付き合うために有用な一冊です。
『AIで集客する仕組み ~クリックされない時代に選ばれるAI検索のセオリー~』
住 太陽(すみ もとはる)(著)/技術評論社/2026年
佐藤尚之氏の『AIに選ばれ、ファンに愛される。』(日経BP)という本には、次のような指摘があります。
「多くの生活者が、AIに相談しながら購買行動を決めていく。近い将来、「B to C」は「B to A w C」(企業 to AI with生活者)に変わっていく」
日本のSEO分野の第一人者として知られるボーディ有限会社代表取締役・住太陽氏が書いた本書『AIで集客する仕組み』は、人々が検索エンジンを通さずにAIに相談するこの「ゼロ検索時代」に、AIに選ばれ、AIを通じて集客できる企業になるためのノウハウをまとめた一冊です。
同書では、最新のGoogle対策に加え、中小企業がAIに「おすすめされる存在」になるための具体的な方法が、かなり踏み込んで解説されています。
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歴史・教養から経営を学びたい人へおすすめしたい2冊
変化の激しい時代だからこそ、最新の知識だけでなく、歴史や教養から学ぶ視点も大切です。先人たちの失敗や挑戦の記録には、時代を超えて経営者の心に響く教訓やスピリッツが詰まっています。
歴史・教養の観点から経営を学べるおすすめの2冊をご紹介します。
『「超」入門 失敗の本質 日本軍と現代日本に共通する23の組織的ジレンマ』
鈴木 博毅(著)/ダイヤモンド社/2012年
歴史上の失敗からは教訓を、偉業からは事業をするうえでのスピリッツを学ぶのが王道です。
本書『「超」入門 失敗の本質』は、難解な名著『失敗の本質』のエッセンスを、経営者にも理解しやすい形で解説した超約本。日本軍と現代日本に共通する23の組織的ジレンマが解説されています。
日本企業が陥りがちな「方針転換に弱い」「状況が不利になっても同じ指標を追い続けてしまう」といった問題を、日本軍の失敗と重ね合わせながらわかりやすく示しています。
また、「指標の無効化」により日本を撃退したアメリカの「イノベーション創造の3ステップ」、戦略思考を身につけるための「ダブル・ループ学習」など、経営者にとって重要な概念も学べます。戦略の本質をつかむための優れたテキストといえます。
『ヤマ師 裸一貫から一代でトヨタ・松下・日立を超える高収益企業を作った破格の傑物「山下太郎」のすべて』
深澤 献(著)/ダイヤモンド社/2025年
最後に、日本復活への希望も込めてご紹介したいのが、本書『ヤマ師』です。裸一貫から一代でトヨタ、松下、日立を超える高収益企業を作った「アラビア太郎」こと「山下太郎」の物語を紹介した一冊です。
山下が作ったアラビア石油は、オイルショックの影響もあり、1975年に松下電器産業、日立製作所、トヨタ自動車工業を退けて、法人所得で圧倒的1位を獲得しました。
現在の日本は中東情勢の影響でエネルギー確保に苦しんでいますが、山下は「国が敗れたのも石油だった。国を興すのも石油でなければならない」と考え、生涯を「石油報国」という大志に捧げました。
森永製菓創業者の森永太一郎、日本鋼管(現・JFEスチール)初代社長の白石元治郎、渋沢栄一、松岡洋右、石坂泰三など、日本経済を支えた大人物たちとの交流も見逃せません。ぜひ、読んでみてはいかがでしょうか。
土井 英司
出版マーケティングコンサルタント/ビジネス書評家
日刊書評メールマガジン「ビジネスブックマラソン」 編集長
有限会社エリエス・ブック・コンサルティング 代表取締役
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