(※画像はイメージです/PIXTA)

昨今、人手不足や採用難が続く小規模企業では、新規採用だけでなく、「今いる社員とどう成果を上げるか」が重要な経営課題になっています。近年は生成AIやクラウドサービスの普及により、小規模企業でも、低コストで業務改善に取り組める環境が整いました。一方で、「何を導入すればよいか分からない」「AIが本当に役立つのか実感がわかない」という経営者の声も少なくありません。AI・IT活用の目的は、人を減らすことではなく、転記・確認・探す・集計といったムダな作業を減らし、本来やるべき仕事に時間を戻すことです。本記事では、ITコンサルタントの視点から、AIやITの活用で何が変わるのか、どの業務から着手すべきなのかを詳しく解説します。※本記事は大同生命が運営する『どうだい?』からの転載記事です。

小規模企業の仕事はなぜ忙しくなるのか

小規模企業では、経営者が営業、経理、人事、現場対応まで何役も兼務しているケースが珍しくありません。社員も一人で複数の業務を掛け持ちしており、「この仕事はあの人にしか分からない」という属人化が起こりがちです。


また、情報共有が口頭や電話中心だと、「言った・言わない」の行き違いや、同じ内容を何度も確認する手間が発生します。加えて、見積書や請求書の作成、日報の記入など、同じ作業の繰り返しも多くの時間を奪っています。急な予定変更のたび社員一人ひとりへ電話をかける、過去の見積書を探して書棚とパソコンの中を行き来する——こうした場面に心当たりのある方も多いのではないでしょうか。


小規模企業の忙しさは、仕事量そのものだけが原因ではありません。転記する、確認する、探す、集計するといった「小さなムダ」の積み重ねが、経営者や社員の時間を静かに圧迫しているのです。だからこそ業務効率化の第一歩は、いきなりツールを導入することではなく、どこに時間が取られているかを「見える化」することから始まります。

AI導入前に見直したい「ムダな仕事」

AIを導入する前にまず見直したいのが、日常業務に潜むムダな作業です。さまざまな会社に共通してみられる代表例を挙げます。

 

・二重入力:売上情報を紙の伝票、Excel、会計ソフトにそれぞれ入力している。

・紙の書類:探す、保管する、渡す、確認するたびに手間が発生している。

・手作業の集計:毎月同じExcelの集計作業を繰り返している。

・メールの転記:受信した注文内容を別の管理表に手入力している。

・情報共有の不足:担当者に聞かないと仕事の進み具合が分からない。

 

こうした作業は長年の習慣として定着しているため、当事者ほどムダとは気づきにくいものです。しかし、ムダな業務をそのままデジタル化しても、ムダが速くなるだけです。ツールの導入を検討する前に「そもそもこの作業は必要か」「やめられないか」「回数を減らせないか」を問い直すこと。これが、ITコンサルタントとして最初にお伝えしたい視点です。実際、業務の棚卸しをしただけで、ツール導入前に作業時間が減った会社も少なくありません。

 

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小規模企業でも導入しやすいIT活用とは

ムダの見直しと並行して取り組みたいのが、基本的なITツールの活用です。小規模企業で特に効果が出やすいのは、次の5つの分野です。

 

・クラウド会計…銀行口座やクレジットカードの明細を自動で取り込むため、紙とExcelと会計ソフトへの二重・三重の入力が不要になります。転記がなくなることで、入力ミスの防止にもつながります。請求書の発行から入金管理までを一つの流れで処理できる点も利点です。

・勤怠管理ツール…タイムカードの回収や手作業のExcel集計がほぼゼロになります。給与計算ソフトと連携すれば、毎月の締め作業も大幅に短縮できます。

・スケジュール共有…「今どこにいる?」「この日は空いている?」という口頭確認や電話の行き違いを減らします。取引先との日程調整で何往復もするメールの削減にも有効です。

・オンラインストレージ…書類を探す時間を減らし、「最新版のファイルはどれか」と迷う事態を防ぎます。外出先からスマートフォンで確認できる点も、少人数の会社には大きな利点です。

・電子契約…印刷・押印・郵送・保管の手間を減らし、印紙代のコスト削減にもつながります。締結までの日数が短くなるため、商談のスピードアップにも効果があります。

 

これらに共通するのは、「情報を探さなくてよい状態」を作るためのツールであるということです。いずれも月額数千円程度から利用でき、専任のIT担当者がいなくても導入可能です。高度なシステムを構築するより、会計・勤怠・予定・ファイル・契約といった日常業務から着手するほうが、ITツールの活用効果を実感しやすいでしょう。

 

生成AIは「社員の代わり」ではなく「補助役」

基本のIT活用に加えて、近年急速に身近になったのが生成AIです。ChatGPTをはじめとする生成AIは、無料または月額数千円程度で利用でき、小規模企業の業務でも十分に力を発揮します。操作に特別な知識は不要で、日本語で話しかけるように指示するだけで使えます。代表的な使い方は次のとおりです。

 

・メール文面の作成・言い換え:要点を箇条書きで渡せば、丁寧なビジネスメールに整えてくれる。

・議事録の作成:会議メモや録音の文字起こしから、整理された議事録を作る。

・マニュアルの下書き:口頭で説明した作業手順をもとに、業務マニュアルの原案を作る。

・提案書や案内文のたたき台:構成案や下書きを短時間で用意できる。

・アイデアの整理:比較表やチェックリストの作成、企画の壁打ち相手になる。

 

共通するのは、生成AIが「考える前のたたき台を作る道具」だという点です。ゼロから文章を作る時間を、できあがったたたき台を修正する時間に変える——これが生成AIの本質的な価値です。社員の判断や経験を置き換えるものではなく、文章化や整理にかかる時間を減らし、人が考え、判断する時間を増やす補助役と捉えてください。


ただし、活用にあたっては最低限の注意も必要です。第一に、個人情報や取引先の機密情報を不用意に入力しないこと。第二に、AIの回答には誤りが含まれる可能性があるため、そのまま使わず必ず人が確認すること。第三に、「どの業務に使うか」「入力してはいけない情報は何か」といった簡単な社内ルールを決めてから使い始めることです。この3点を押さえれば、生成AIは小規模企業にとって心強い戦力になります。

 

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成功する会社は何から始めているのか

では、実際に何から始めればよいのでしょうか。コンサルティングの現場で見てきた「うまくいく会社」には、共通する進め方があります。


最初のステップは、「1日30分削減できそうな仕事」を探すことです。請求書の作成、日報の記入、定型的な問い合わせへの回答、会議メモの整理など、毎日発生する定型業務が有力候補になります。生成AIなら会議メモの整理、ITツールなら請求書の作成のように、前章までの内容と結びつけて考えると選びやすくなります。


次に、対象を1つの業務に絞って試すこと。最初から全社導入を目指すと、教育や移行の負担が大きく、挫折しやすくなります。うまくいかない会社の多くは、複数のツールを一気に導入したことで現場が混乱し、結果的に元のやり方に戻ってしまうパターンです。現場の入力作業がかえって増えるような導入も長続きしません。


また、導入の前後で「業務にかかった時間」や「ミスの件数」を実際に比較することが大切です。1カ月で約10時間(月20営業日で計算した場合)、1年で約120時間の余裕が生まれます。小規模企業のAI・IT活用は、大きな改革を一気に狙うより、小さな改善を積み重ねるほうが確実に定着します。効果が確認できた業務から、隣の業務へと少しずつ範囲を広げていくとよいでしょう。

AI・IT活用で変わるのは、仕事の進め方そのもの

繰り返しになりますが、AI・IT活用の目的は、人を減らすことではありません。転記や確認、探す時間、手作業の集計といった業務のムダを減らし、経営者や社員が顧客対応、提案、サービス改善といった本来の仕事に時間を使えるようにすることです。


「AI・IT活用で何が変わるのか」という冒頭の問いに答えるなら、変わるのは作業時間だけでなく、仕事の進め方そのものです。最初の一歩は、身近な業務からで構いません。AIやITを特別なものと構えず、日々の仕事を少しずつ楽にする道具として使いこなす。その積み重ねが、人手不足の時代を乗り越える小規模企業の生産性向上につながります。

 

 

西 俊明

中小企業診断士・宅地建物取引士

合同会社ライトサポートアンドコミュニケーション 代表社員/CEO

 

 

 

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※本記事は大同生命が運営する『どうだい?』からの転載記事です。