人事院『令和5年民間企業の勤務条件制度等調査』によると、事務・技術関係職種の従業員がいる企業の16.7%で役職定年制が導入されています。また、部長級・課長級ともに役職定年年齢で最も多いのは「55歳」。定年延長や継続雇用が進む一方で、収入や立場が大きく変わる節目は、多くの会社員にとって現実の問題です。ある1人の男性から、役職定年の実態をみていきます。
「これが俺の評価か…」年収1,000万円の55歳エリート部長、役職定年で突きつけられた「給与半減」の現実 (※写真はイメージです/PIXTA)

肩書と一緒になくした「自信」

人事院の調査では、役職定年制度を導入している企業の95.3%が「今後も継続する」と回答しています。また、役職定年年齢は部長級・課長級ともに55歳が最も多く、高橋さんが迎えた節目は決して特殊なものではありません。高橋さん自身も制度の存在は理解していました。

 

「役職が外れることはわかっていました。でも、ここまで生活が変わるとは思っていなかったんです」

 

そう振り返ります。

 

会社での立場も大きく変化しました。部長時代、自分が育ててきた社員から仕事の進め方を指示される場面があります。もちろん相手に悪意はありません。

 

「この資料、今日中にお願いします」

 

以前なら自分が部下へ伝えていた言葉でした。

 

「はい、わかりました」

 

返事をしながら、高橋さんは心の中でつぶやきます。

 

「俺は何十年働いてきたんだ」

 

役職がなくなると、仕事の中身も変わりました。経営会議への出席はなくなります。大口顧客との商談も任されません。若手社員から相談を受けることも減りました。机に向かって資料をまとめる時間だけが増えていきます。

 

人事院の調査では、役職定年後の部長級の配置先は「同格のスタッフ職」が42.1%で最も多く、「格下のスタッフ職」が34.4%となっています。管理職からスタッフ職へ移る働き方は、多くの企業で制度として定着しています。

 

しかし、高橋さんにとっては、その変化を数字だけでは受け止めきれませんでした。

 

「仕事はある。でも、自分じゃなくてもできる仕事なんです」

 

帰宅後も仕事の話はしなくなりました。妻は家計簿を見ながら、何やらつぶやいています。

 

「……厳しいわぁ」

 

高橋さんは聞こえないふりをしています。

 

定年まではあと5年。その後も働く意思はあります。しかし、今の会社に留まるか、さらに言うならば定年まで勤め上げられるか――最近、自信がなくなってきているといいます。