遺産相続の場では、法定相続人ではない身内の介入によって協議が泥沼化することがあります。正論を口実にした無神経な言動が、家族の絆を一瞬で引き裂く――なぜ当事者外の口出しで亀裂が生じるのか。ある相続の現場から、円満な遺産分割を進めるための法的ルールや賢い税対策のポイントを考えます。
家族全員が絶句…相続協議に割り込んだ「長女の夫」、73歳義母に言い放った「あまりに失礼な一言」 ※写真はイメージです/PIXTA

穏やかな家族を襲った「1億円の遺産」

神奈川県内の閑静な住宅街で暮らしていた佐藤家。父の佐藤正男(享年76・仮名)さんは元会社員で、妻の佐藤和子(73歳・仮名)さんと二人暮らしを送っていました。子どもは長男の佐藤哲也(46歳・仮名)さんと、長女の田中恵美(43歳・仮名)さんの二人です。

 

1年前、正男さんは他界。質素な生活を守る傍ら、長年資産運用を続けていました。実家の戸建て(評価額3,000万円・うち土地2,500万円)や株式、預貯金を合わせ、総額1億円の資産を遺していたのです。

 

国税庁『令和6年分 相続税の申告事績の概要』などによると、死亡者数約160万人のうち16万6,730人に課税されており、約10人に1人の割合で相続税が課せられている計算になります。

 

遺産整理を進めるなかで全容を知った恵美さんは、夫の田中直樹(52歳・仮名)さんに「お父さん、実はすごくお金を残していたの」と話しました。直樹さんは大手メーカー勤務で推定年収850万円。一見恵まれた家計ですが、都内マンションの住宅ローン残高が2,800万円あり、毎月15万円の返済に追われていました。さらに私立大と高校に通う息子の教育費が毎月18万円かかり、手元の貯蓄は300万円程度しかありませんでした。

 

遺産の存在を知った直樹さんは「俺の親の相続経験を生かしてアドバイスするよ。みんな押しが弱いから僕が船頭役を務める」と申し出ました。恵美さんは深く考えず、その言葉に頼ることにしました。

 

こうして、ある日曜日の午後、実家に和子さん、哲也さん、恵美さん、直樹さんの4人が集まりました。

 

哲也さんが「実家は母さんが住むからそのままにして、残り7,000万円の現金や株式は法定相続分通り、母さんが半分、僕と恵美ちゃんで残りを分けよう」と提案しました。和子さんも穏やかに頷きました。

 

その時、お茶を飲んでいた直樹さんが立ち上がりました。直樹さんはネットで仕入れた知識を過信し、権利主張の機会をうかがっていたのです。