(※写真はイメージです/PIXTA)

老後資金に一定の余裕があれば、安心して生活できる――そう考える人は多いでしょう。年金収入に加え、まとまった貯蓄や不動産があれば、日々の暮らしに大きな不安はないように見えます。しかし、その前提は「想定外の出来事が起きないこと」に支えられています。家族の問題が絡んだとき、その均衡は思いのほか脆く崩れることがあります。

「このままでは持たない」…家族を支える現実と迫られる選択

同居から半年ほどが経った頃、加藤さんは家計の見直しを迫られました。

 

「このまま続けたら、確実に貯金が減っていく。頭では分かっていたんです」

 

問題は、それをどう伝えるかでした。娘は精神的にも不安定な状態にあり、「負担になっている」とは言い出しにくい状況でした。

 

「言ったら追い詰めてしまうんじゃないかと…」

 

一方で、現実は待ってくれません。今後、医療費や介護費が増える可能性もあります。老後資金は「自分たちのため」に確保しておく必要があります。

 

「自分たちが倒れたら、結局は娘に負担がいく。それでは意味がない」

 

そう考えた加藤さんは、妻と話し合いのうえ、支援のルールを見直すことにしました。具体的には、生活費の一部を娘にも負担してもらうこと、一定期間での自立を目標にすることなどです。

 

「完全に突き放すことはできません。でも、ずっと支え続けることもできない」

 

ある日、加藤さんは意を決して娘に話しました。

 

「一緒に暮らすのはいい。ただ、この先どうするかは考えないといけない」

 

娘はしばらく黙っていましたが、やがて小さくうなずいたといいます。

 

「分かってる…迷惑かけてるのは」

 

現在、娘は勤務時間を増やし、生活の自立に向けて動き始めています。まだ完全ではありませんが、「依存しきらない関係」に変わりつつあります。

 

一方で、夫婦の生活も変わりました。

 

「余裕は確実になくなりました。でも、家族だから仕方ないとも思っています」

 

民法877条では、直系血族間には扶養義務があるとされていますが、その範囲は無制限ではなく、「生活に余裕がある範囲での扶助」と解釈されています。つまり、自分たちの生活を維持することも同時に重要です。

 

「助けたい気持ちと、自分たちの現実。その間でずっと揺れています」

 

老後の安心は、数字だけでは測れません。どれだけ備えていても、家族の事情によって状況は大きく変わります。

 

 

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