(※写真はイメージです/PIXTA)
「安心」を買ったつもりだった
都内の大手メーカーに勤務する佐藤健一さん(45歳・仮名)。
「正直、パニックでした。ニュースを見れば『金利上昇で返済額が激増』という文字が踊っている。同僚とのランチでも『うちはもう固定に変えた』なんて話も聞く。自分だけが変動金利のまま取り残され、将来破産するような恐怖に襲われました」
佐藤さんは10年前、35歳で都内の湾岸エリアに6,000万円のマンションを購入。当時の年収は800万円でしたが、現在は1,100万円まで上がっています。
ローン残高は約4,500万円。変動金利0.5%で借りており、返済は順調でした。しかし、2025年の利上げ観測を受け、彼は「これから金利は3%、4%になるに違いない」と思い込みます。
「月々の支払いが多少増えても、今のうちに金利を固定してしまえば、将来の不安は消える。『安心料』だと思って、全期間固定金利への借り換えを決断しました」
佐藤さんは、変動0.5%から、全期間固定2.0%のローンへ借り換えを実行。審査もスムーズに通り、契約を終え、「これで枕を高くして眠れる」と安堵したといいます。しかし、その安堵は一瞬で絶望へと変わります。
借り換えから数週間後、金融分野に詳しく、ローンについても相談をしていた友人と食事をした際、事後報告として借り換えの話をしました。すると、友人の顔色が変わったといいます。
「佐藤、それは『安心』を買ったんじゃない。老後資金をドブに捨てたようなもんだよ」
友人がその場で弾き出したシミュレーションを見て、佐藤さんは血の気が引きました。残りの返済期間は25年。もし変動金利(0.5%~上昇しても平均1.0%程度と仮定)のままなら、総返済額は約4,800万円で済むはずでした。しかし、今回契約した固定金利(2.0%)では、総返済額は約5,900万円に跳ね上がります。さらに、借り換えに伴う事務手数料や登記費用で約100万円が現金で出ていきました。その差額、実に約1,200万円。
「今後、変動金利がよほどのハイペースで3%、4%と暴騰し続けない限り、この差は埋まらない。佐藤は、発生確率の低い『万が一』に怯えて、確実に手元に残るはずだった1,200万円を、みすみす銀行に差し出したようなもんだ」
1,200万円といえば、佐藤さんの会社で受け取れる退職金の半分以上に相当します。子どもの大学費用や、夫婦の老後のゆとり資金になるはずだった大金です。一度借り換えてしまえば、元の低金利の条件には簡単には戻れません。「みんながやっているから」という理由だけで、仕組みも計算もせず雰囲気で動く。その代償はあまりにも高くつきました。
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